食品衛生行政の動き(国を中心に)2026年8月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

※URLは8月22日現在

1 平成30年食品衛生法改正の施行後5年を目途とした検討のとりまとめ

 厚生労働省は7月31日、「平成30年食品衛生法改正の施行後5年を目途とした検討のとりまとめ」を公表しました。本とりまとめは、厚生科学審議会食品衛生監視部会において、新制度の施行状況や課題を整理し、今後の施策検討の方向性について議論を行ったものです。

(解説参照)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75197.html


2 細菌性食中毒発生施設の監視指導結果

 厚生労働省は、夏期一斉取締り実施期間(令和8年7月1日~8月31日)中の細菌性食中毒が発生した施設に対する監視指導結果をとりまとめています。

(施行通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html


3 輸入食品に対する検査情報の更新


(検査命令実施通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_72154.html

(モニタリング検査実施通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000201772_00009.html

(違反事例)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yunyu_kanshi/ihan/index.html


4 令和8年熊本地震を受けた食品表示法の運用

 消費者庁、農林水産省、厚生労働省は7月29日、令和8年熊本地震の災害救助法を適用された被災地において、食品の安全性に係る情報伝達について十分な配慮がなされ、かつ消費者の誤認を招くような表示をしていない場合には、必ずしも食品表示基準に基づく義務表示事項の全てが表示されていなくとも、当分の間、取締りを行わなくても差し支えない旨、都道府県等に通知しました。
 なお、アレルギー表示及び消費期限については、従来どおり個々の容器包装に表示が必要としています。

https://www.caa.go.jp/notice/assets/food_labeling_cms203_260729.pdf


5 令和8年熊本地震に関する救援物資の輸入手続

 厚生労働省は7月31日、検疫所長に対し、災害対策本部等において救援物資であることが確認された食品については、貨物に関する情報を事前に入手の上、食品衛生法に係る届出を要しないとする通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/001732229.pdf


(解説)厚生労働省のHACCP施行5年後の検討結果について

1 趣旨
 厚生労働省は7月31日、「平成30年食品衛生法改正の施行後5年を目途とした検討のとりまとめ」を公表しました。政府では新しい規制を設ける際、施行後5年を目途に施行の状況を検討し、必要な措置を講じるとしており、改正食品衛生法の附則(施行期日や運用を規定)にもこうした規定が設けられています。
 今回公表されたとりまとめは、厚生科学審議会食品衛生監視部会において検討されたものです。


2 制度の概要
 平成 30 年改正では、食中毒発生の下げ止まり、食品流通のグローバル化やフードチェーンの複雑化などを踏まえて、国際標準と整合性のとれた食品衛生管理により、食品の安全性の一層の向上を図るため、食品衛生管理の国際標準となっているHACCP に沿った衛生管理の実施を、原則、全ての営業者を対象とする制度としました。食品等事業者自らがコーデックスの HACCP7原則に基づき、使用する原材料や製造方法などに応じた衛生管理計画を作成し管理を行うことを義務とし、小規模な事業者は、業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行うことを可能としました。


3 施行の現状
 厚生労働省は、これまでに業者団体が作成した様々な食品、添加物の調理、製造加工、販売に関する117の手引書について、食品衛生管理に関する技術検討会で確認、公表し、小規模事業者の支援を行っています。
 また、営業者へのアンケート調査では、令和3・4年度の調査結果では、飲食店、製造・加工業、販売業での「HACCP に沿った衛生管理を実施又は一部実施」と回答した施設は約7~8割でした。これらの施設に対して実施した令和7年度調査結果では、飲食店、製造・加工業、販売業のうち、「実施又は一部実施」と回答した施設は、約8~9割でした。従業員数が4名以下の施設ではいずれの業種であっても顕著に導入率が低い傾向がありました。
 また、事業者団体ヒアリングでは、HACCP に沿った衛生管理の導入の効果として、経営者、従業員の衛生意識の向上、行動変容や作業の効率化等が挙げられた一方で、導入の課題として、人材育成、経営者の関与が少ないこと、記録の習慣がなく負担感があること、モチベーション維持が難しいことなどが挙げられました。
 地方自治体へのアンケート調査では、導入率が8割を超える地方自治体では、営業許可申請段階で営業開始前までに衛生管理計画が作成されていることを確認していました。一方、営業許可申請段階では衛生管理計画作成の指導のみを行い、当該計画が作成されていることの確認を行わなかった地方自治体では、導入率が5割程度にとどまりました。


4 今後の対応
 厚生労働省は HACCPに沿った衛生管理の導入の段階に応じた技術的支援や普及啓発等の対策を講じるとともに、地方自治体において営業者の導入状況を把握し、効率的、効果的な監視指導が実施できるよう主に次のような環境整備を求められました。

〇HACCPに沿った衛生管理の導入率の高い地方自治体で行われている営業許可申請時に衛生管理計画の作成まで指導、確認している事例を他の地方自治体に積極的に広報する。

〇再三の指導にもかかわらず、衛生管理計画の作成に取り組まない営業者等に対しては、行政処分等を含め対応を徹底するよう、地方自治体に周知する。

〇衛生管理計画の作成後、実施が継続できていない営業者や衛生管理の記録、保存、定期的に振り返りを行えていない営業者に対して、営業者自身によるフォローアップなど定着に向けた取組を支援し、アプリなどの支援ツールの開発、記録の負担の軽減を図る。

〇地方自治体が HACCP に沿った衛生管理の取組の実態をより詳細かつ統一的に把握し、効率的、効果的な監視指導を行えるよう、導入状況を把握できる仕組みを構築する。


5 所感
 HACCPに沿った衛生管理は、個々の事業者の衛生管理を「見える化」を図ることが大きな目的であり、食品衛生監視部会に提出されたHACCPに沿った衛生管理の導入状況の調査結果は、まさに食品の飲食店、製造・加工業、販売業における衛生管理の実施状況を客観的、定量的に示したものとなりました。一方、調査対象が個人事業主を中心とした飲食店に偏り、大手の外食チェーンが含まれていない、実施の程度が自己申告によるなど調査手法に限界があることも確認されました。このため、地方自治体が実態をより詳細かつ統一的に把握し、効率的、効果的な監視指導を行えるよう、導入状況を把握できる仕組みを構築する方針が示された意義は大きいと考えます。
 また、HACCPに沿った衛生管理の導入率の地方自治体間の格差の原因がそれぞれの行政の取組みにあることも確認されました。今後、地方自治体が営業開始時に衛生管理計画を確認するとしていますが、法的にはHACCPに沿った衛生管理の実施は製造・加工、販売、調理の要件ではあるものの、営業許可の要件ではないため、着実に実施するためには何らかのしくみが必要です。加えて、再三の指導でもHACCPに沿った衛生管理を実施しない営業者に対して、行政処分を求めていますが、例えば未実施者を対象として講習会を開催し、受講拒否者や受講後一定期間経過しても実施しない者を処分の対象とするなど手続きの明確になることが望ましいと考えます。
 小規模事業者では人手不足、品質保証や品質管理部門などの内部チェックシステムが無いなどHACCPに沿った衛生管理の導入、実施のハードルが高いため、国や地方自治体の今後の取組みが期待されます。
 なお、平成30年改正食品衛生法では、HACCP に沿った衛生管理の制度化とともに、指定成分等含有食品による健康被害の情報提供義務化、食品リコール情報の報告制度の創設などが行われ、加えて、令和6年に発生した紅麹事案を受けた「関係閣僚会合とりまとめ」において、サプリメントに関する規制の在り方について検討を進めることとされ、これらについても検討が行われました。結果については、それぞれの今後触れたいと思います。