平成27年5月号のレポートを掲載しました。

(株)中部衛生検査センター
 学術顧問
森田邦雄

1 ポリエチレンナフタレート(PEN)を主成分とする合成樹脂製の器具又は容器包装に係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての意見・情報の募集

平成27年5月20日、内閣府食品安全委員会事務局評価第一課は標記意見・情報の募集を行った。  結論は、規格を新たに設定しても健康影響が生じるリスクが高まるとは考えられないと判断している。締め切りは平成27年6月18日(木)で、器具・容器包装評価書の要約の主なものは次のとおり。  食品安全委員会器具・容器包装専門調査会は、厚生労働省から評価要請されたポリエチレンナフタレート(PEN)を主成分とする合成樹脂製の器具・容器包装につき新たに規格を設定することについて、食品健康影響評価を実施した。  現在流通しているPEN製品は、PENのみの合成樹脂からなる製品である。また、現在のPENの製造には、モノマーとしては2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル(DMNDC)及びエチレングリコール(EG)のみが用いられている。 ① 現在、食品用途のPENの製造に使用されている物質であり、ヒトがPEN製の飲食器から食品を介して摂取する可能性のある物質のうち、モノマーであるDMNDC、EG及びPENの製造過程で生じるビスヒドロキシエチレン-2,6-ナフタレート(BHEN)、重合触媒であるアンチモン系無機化合物並びに添加剤である二酸化チタンについて物質ごとに健康影響を検討した結果、食品中への溶出によりヒトの健康に影響を与える可能性は無視できる。 ② PEN製の器具又は容器包装は、既に国内外において使用されており、食品を介した摂取による健康影響は報告されていない。 ③ 重合触媒であるゲルマニウム系無機化合物については、溶出試験結果は不検出であったが、検出下限値を下げた溶出試験データ、ばく露や安全性に関する情報などが不足している。 ④ PENの製造過程において生成する物質や分子量1,000以下の構造が同定されていない物質の溶出が僅かに認められているが、溶出物質の構造、安全性に関する情報、ばく露実態の評価に必要な溶出試験データなど、評価に必要なデータが不足している。  以上のように、PENを主成分とする合成樹脂製の器具又は容器包装の使用に際しハザードとなりうる物質全てについて十分な科学的データを得ることはできなかったが、PENを主成分とする合成樹脂製の器具又は容器包装については、食品衛生法に基づく個別規格は設定されていない現状を踏まえると、従来からの使用方法の変更や使用量の増加等がない限りにおいて、規格を新たに設定しても健康影響が生じるリスクが高まるとは考えられないと判断した。 http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_kigu_pen_270520.html2 トランス脂肪酸に関するとりまとめ公表  平成27年5月20日、消費者委員会は食品ワーキング・グループがまとめた「トランス脂肪酸に関するとりまとめ」を公表した。これは、食品表示法に基づき新たな食品表示基準を定める検討課題の一つとして、国民の健康リスクがあることからトランス脂肪酸についても表示を求める旨の意見を受けて、トランス脂肪酸について、平成26年3月25日に消費者委員会に設置された食品ワーキング・グループで議論することとなったものである。  トランス脂肪酸には、大きく分けて工業由来と反すう動物由来があり、工業由来のトランス脂肪酸は冠動脈疾患のリスクになる可能性が高いことが報告されている。  まとめの主な点は次のとおり。  工業由来のトランス脂肪酸は、健康へのリスクが報告されている反面、有用性については判明しておらず、出来るだけ摂取を少なくすることが望まれる。  現時点において、日本人の大多数は摂取量がエネルギー比1%未満と推定されるため健康への影響を懸念するレベルではないが、摂取量を増やさないよう意識することが重要である。  日本人の一般的な食生活においては、トランス脂肪酸のみを意識するのではなく、まずは脂質全体の過剰摂取に注意することが必要である。ただし、脂質は重要な栄養素でもあるため、適切な摂取を目指す必要がある。  また、消費者にとっては、まずトランス脂肪酸のリスクを知ることが重要となるため、わかりやすい情報提供が必要である。リスク管理機関は、消費者の正しい理解につながるよう、食品中の含有量や摂取量のデータ、疾病罹患リスク等に係る知見の収集を行い、引き続きトランス脂肪酸に関する情報を広く国民に提供していくことが必要である。  さらに、消費者がトランス脂肪酸について理解した上で、自主的に商品を選択することができるよう、食品事業者においては、消費者庁より平成23年2月に公表されたトランス脂肪酸の情報開示に関する指針に沿って、販売に供する食品の容器包装、ホームページ、新聞広告等によりトランス脂肪酸を含む脂質に関する情報を自主的に開示する取組みを一層進めていくことを期待する。  このような自主的な取組みを続けていくことで、日本人全体のトランス脂肪酸の摂取量を増やさない努力を続けても、今後、リスク管理機関の確認を通じて摂取量の増加傾向が認められる場合は、所管省庁において、食品中のトランス脂肪酸含有量について上限値を設ける規制措置やトランス脂肪酸含有量の表示の義務付けを検討する必要がある。 http://www.cao.go.jp/consumer/doc/150520_houkoku_honbun.pdf3 麻痺性貝毒による食中毒の防止について通知  平成27年5月15日、厚生労働省は医薬食品局食品安全部監視安全課長名をもって各都道府県等衛生主管部(局)長宛標記通知を出した。その内容は次のとおり  下記のとおり、栃木県において麻痺性貝毒を原因とする食中毒が発生したので、生産地又は出荷地の都道府県等においては、引き続き貝類の毒化の推移の把握に努め、食品衛生法第6条第2号に違反する貝類(以下「違反品」という。)が出荷されることのないよう監視指導を強化するなど必要な対策を講じるようお願いする。  あわせて、生産地又は出荷地以外の都道府県等においても、違反品が流通販売されることがないよう監視の強化をお願いする。 記  栃木県が調査したところ、平成27年5月9日(土)及び10日(日)に栃木県内で開催されたイベントでホタテガイを購入して自宅で喫食した者のうち、4名が、5月10日から脱力感、しびれ等の食中毒症状を呈していることが判明した。  患者は当該イベントで購入したホタテガイを共通して喫食していること、患者の発症状況に共通性があり麻痺性貝毒による食中毒症状と一致すること、患者が購入したホタテガイの残品から規制値(4MU/g)を超える麻痺性貝毒が検出されたこと、医師から食中毒の届出があったことから、栃木県は麻痺性貝毒を原因とする食中毒と断定した。  現在、岩手県において、イベントでホタテガイを販売した業者に対して、食中毒の原因となった当該ホタテガイについて、食品衛生法に基づき回収を命じるとともに、立入調査等を実施し、原因を究明している。 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000086509.pdf4 豚の食肉の生食用としての販売等の禁止について事務連絡  平成27年5月27日、厚生労働省は医薬食品局食品安全部基準審査課及び監視安全課の連名をもって各都道府県等衛生主管部(局)宛標記事務連絡を出した。その内容は次のとおり。  平成24年6月25日付け食安発0625第1号及び平成24年10月4日付け食安監発1004第1号(以下「通知」という。)に基づき、飲食店等事業者に対して豚の食肉を飲食に供する際に必要な加熱を行うよう指導するとともに、消費者に対しても加熱して喫食するよう注意喚起することをお願いしてきたところです。  本日、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会において、豚の食肉の生食について、食品衛生法第11条第1項に基づく基準を設定し、豚の食肉の生食用としての販売等を禁止にすることが了承されました。  つきましては、豚の食肉の規格基準については、本年6月中旬を目途に施行を予定しているところですが、施行までの間においても、引き続き上記通知に基づき適切に対応していただくようお願いします。  (注)設定される基準は、食品衛生法に基づく食品、添加物等の規格基準 第1 食品 B 食品一般の製造、加工及び調理基準の9 牛の肝臓に関する規定に「豚の食肉及び内臓」が加えられる予定。 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000087033.pdf5 食品の安全に関するリスクコミュニケーションのあり方に関する報告書公表  平成27年5月28日、内閣府食品安全委員会事務局は標記報告書を公表した。  食品安全委員会企画等専門調査会では、今後のより適切かつ効果的なリスクコミュニケーションを推進していくため、平成26年12月にワーキンググループを設置し、リスクコミュニケーションのあり方について検討を進めてきたところ、今般、同ワーキンググループにおける議論を報告書として取りまとめたもので、次の目次で構成されている。 目 次 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.リスクコミュニケーションとは ・・・・・・・・・・・・・・・・・2 2.これまでのリスクコミュニケーションの取組における課題・・・・・・2 3.食品分野におけるリスク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2  (1)食品の特徴  (2)食品のリスク認知の特徴  (3)食品に係る様々な情報への反応 4.望ましいリスクコミュニケーションのあり方 ・・・・・・・・・・・4  (1)リスクコミュニケーションの目標  (2)リスクコミュニケーションの取組体制  (3)個々のリスクコミュニケーションの目的の明確化と評価  (4)リスクコミュニケーションの実施における留意点  (5)科学的妥当性を欠く情報への対応  (6)科学的な基礎知識の普及 5.関係者に期待される姿勢 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6  (1)リスク評価機関としての食品安全委員会  (2)行政機関  (3)食品関係事業者  (4)消費者・消費者団体  (5)科学者  (6)メディア おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8  この中で、4.望ましいリスクコミュニケーションのあり方の(1)リスクコミュニケーションの目標として次のように書かれている。  リスクコミュニケーションは、十分な情報提供を踏まえた関係者間の双方向の情報・意見の交換である。これらの取組は関係者がともに考え、立場を相互に理解し、信頼を確保することを目標とする。その結果、合意形成に至ることもあるが、合意形成が主目的ではない場合があることを留意しておくべきである。また、消費者の食品安全に関連する様々な意思決定が、偏った情報に左右されず、科学的根拠に基づき合理的に行われるよう支援することも、目標である。 http://www.fsc.go.jp/osirase/pc2_ri_arikata_270527.data/riskomiarikata.pdf