「食品衛生行政」国の動き 2022(令和4)年9月

 
(株)中部衛生検査センター顧問
森田邦雄
 

1 腸管出血性大腸菌による食中毒防止の徹底について

 令和4年9月16日、厚生労働省は、医薬・生活衛生局食品監視安全課長名をもって各都道府県等衛生主管部(局)長宛て表記通知を出した。

 その主な内容は、次の通り。
 平成23年4月に発生した腸管出血性大腸菌による食中毒を踏まえ、生食用食肉(牛肉)の規格基準の設定や食品等事業者への監視指導、消費者への注意喚起等を行っているところですが、今般、レアステーキと称するユッケ様の食品等を原因食品とする腸管出血性大腸菌O157による食中毒事例が発生しました(別添)。

 食中毒防止の観点から、食肉等は中心部を75℃で1分間以上又はこれと同等以上の加熱効果を有する方法により加熱調理をするよう指導してきたところですが、当該事例は加熱調理が不十分であったことが一要因とされていることから、下記の点に留意し、生食用食肉(牛肉)の規格基準の遵守及び飲食店における有効な加熱調理の実施について食品事業者等への監視指導の徹底をお願いします。

                   記
 1.生食用食肉を取り扱えない施設において、社会通念上ユッケと呼称される生の食肉をレアステーキと称して販売することは不適切であり、消費者が生食用食肉と誤認して加熱せずに喫食する蓋然性が高い態様で販売又は提供しないこと。

 なお、食肉の表面を焼いた後に冷却したもので、中心部まで十分に加熱されていないものは、生食用食肉として取り扱うこと。

https://www.mhlw.go.jp/content/000991923.pdf

2 「食品安全総合情報システム」公表

 令和4年9月20日、食品安全委員会が公表した標記システムに次の記事が掲載されている。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/search?year=&from=struct&from_year=2022&from_month=8&from_day=20&to=struct&to_year=2022&to_month=9&to_day=2&max=100

 世界保健機関(WHO)は、2022年8月31日、「鉛中毒」と題するファクトシートを更新した。

 概要・構成は、以下のとおり。
1.主な事実
・鉛は多数の体内組織に影響を及ぼす蓄積性の毒性物質であり、特に若年小児に有害である。
・体内の鉛は、脳、肝臓、腎臓、及び骨に運ばれる。歯及び骨に貯蔵され、徐々に蓄積する。ヒトへのばく露は、通常血中鉛濃度を測定して評価される。
・骨の鉛は妊娠期に血液中に移行し、発達中の胎児へのばく露源になる。
・有害影響がないことが分かっている鉛ばく露レベルはない。
・鉛へのばく露は、予防可能である。

2.概要

3.ばく露源・経路
 人々は職業的及び環境的な起源により、鉛にばく露される可能性がある。
 これは、主に以下に由来する。
・鉛含有物質の燃焼により発生する鉛粒子の吸入(製錬、再資源化、有鉛塗料剥離の作業中、及び有鉛航空燃料の使用中等)。
・鉛で汚染した粉塵、水(鉛製水道管から)及び食品(鉛釉薬や鉛はんだの容器から)の摂取。

4.小児における健康影響
 既知の安全な血中鉛濃度はない。血中鉛濃度が3.5 μg/dLと低くても、小児の知能低下、行動障害、及び学習障害に関連している可能性がある。鉛へのばく露が増加するにつれて、症状及び影響の範囲及び重症度も増加する。

5.疾病負荷
 WHOの「化学物質の公衆衛生への影響:既知のこと及び未知のこと」2021年最新情報によると、2019年に既知の化学物質へのばく露によって失われた200万人近くの命の半分近くが鉛へのばく露によるものであったと推定されている。鉛へのばく露は、健康への長期的な影響により、世界中で2,170万年相当の障害調整生存年(disability-adjusted life years、DALYs)を喪失し、特発性知的障害の世界的負荷の30%、心血管疾患の世界的負荷の4.6%と、慢性腎臓疾患の世界的負荷の3%を占めたと推定されている。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05900020294

 世界保健機関(WHO)は、2022年8月30日、出版物「ナノ及びマイクロプラスチック粒子への食事及び吸入ばく露とヒトの健康への潜在的な影響」を公表した。

 概要は、以下のとおり。
 環境中のマイクロプラスチックは、深刻な社会的懸念を引き起こしている新興の汚染物質である。マイクロプラスチック粒子へのばく露によるヒトの健康への影響について、そのポリマー自体から、モノマー、プラスチック材料の製造に使用される添加剤、吸着化学汚染物質、及び関連するバイオフィルムまで、様々な質問が寄せられている。これを認識して、WHOは飲用水中のマイクロプラスチックに関するエビデンスの状態を再検討し、2019年8月にヒトの健康リスクを評価する報告書を発行した。マイクロプラスチックへのばく露に関連する潜在的な健康リスクを評価するWHOの取り組みを継続するために、食品、水、及び空気を介したばく露を含む環境からのばく露を調べることを目的としたプロジェクトが実施されている。2019年に参集した国際的な専門家グループの支援を受けて、WHOは2021年12月までに公開された利用可能なデータを収集して精査し、環境からのマイクロプラスチック粒子へのばく露によるヒトの健康リスクを評価した。この作業の結果、WHOは研究の必要性を特定し、現在の不確実性に対処するためにマイクロプラスチック粒子に関して必要な今後の作業の範囲を以下の通り定義した。

・標準的な方法
 空気、水、食品、飲料中のナノ及びマイクロプラスチック粒子(NMP)のサンプリングと分析のためには、確実で質が保証された方法と、環境に関連したNMPを代表する適切な参照標準物質が必要である。

・粒子の解析
 ヒトの健康に対するばく露影響の研究に重要である環境中のNMPのサイズ、形状、及び組成それぞれの分布を解析するため、そして環境に関連する毒性試験の参照標準物質を調製するために、質が保証された環境モニタリング研究を実施する必要がある。

・NMPの発生源
 NMPは環境中に普遍的に存在しているが、現在、その発生源を正確に特定することはできていない。発生源には、タイヤや道路の摩耗粒子、繊維、プラスチックの劣化と破片が含まれるが、どの発生源が支配的であるかはわかっていない。様々な要因の寄与が、ばく露を軽減するための戦略を導くであろう。

・吸入及び摂取されたNMPの取り込みと運命
 NMPの吸収と系統的な取り込みに関する情報は、限られた種類のプラスチックポリマーを使用したいくつかの研究からのみ入手できる。NMPの吸収、分布、排泄についてさらに詳しい情報が必要である。摂取された粒子の生物学的利用能(bioavailability)及びそれらの吸収と排泄の効率に対する食品マトリックスの影響について、さらに研究が必要である。

・毒性学
 ヒトが最も一般的にばく露されるタイプのNMP へのばく露の適切な解析と共に、リスク評価に適した質の保証された実験を実施する必要がある。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05900010294

3 有毒植物による食中毒予防の徹底について

 令和4年10月4日、厚生労働省は医薬・生活衛生局食品監視安全課長名をもって各都道府県等衛生主管部(局)長宛て表記通知を出した。

 その内容は、次の通り。
 今般、有毒植物(クワズイモ)が誤って食用として流通・販売され、これを購入し、喫食 したことによる食中毒事例が発生しています(別添参照)。

 令和3年6月1日からHACCP に沿った衛生管理が完全施行されているところですが、青果販売業向けの手引書には、有毒植物による食中毒を予防するためのポイント等が記載されていることから、これら手引書も参考に、仕入れ・検品等の工程における衛生管理を徹底するよう、貴管内の野菜果物販売業者等への注意喚起の実施をお願いします。

https://www.mhlw.go.jp/content/000997375.pdf