「食品衛生行政の動き(国を中心に)」  2024年4月


株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 食品衛生基準行政が厚生労働省から消費者庁へ移管

 4月1日付で、食品等の規格基準の策定その他の食品衛生基準行政に関する事務について、科学的知見に基づきつつ、内閣総理大臣が行う食品の安全性の確保を図る上で必要な環境の総合的な整備に関する事項の総合調整等に係る事務と一体的に行う観点から、厚生労働大臣から内閣総理大臣(消費者庁)に移管されました。これに伴い、 薬事・食品衛生審議会の調査審議事項のうち、食品衛生法の規定によりその権限に属せられた事項であって、内閣総理大臣が新たに事務を行うもの(食品衛生基準行政)に関しては食品衛生基準審議会に、厚生労働大臣が引き続き事務を行うもの(食品衛生監視行政)に関しては、厚生科学審議会に移管されました。
※内閣総理大臣に移管された食品衛生法の主な事務及び関連規定:特定の成分等の指定(第8条)、食品添加物の指定(第12条)、食品、食品添加物等の規格基準の制定(法第13条)、農林水産大臣への資料の提供等協力要請(法第14条)、器具、容器包装の規格基準の制定(法第18条)、食品添加物公定書の作成(法第21条)、基準制定時等の国民からの意見聴取(法第70条)、内閣総理大臣及び厚生労働大臣の協力等(法第72条)、内閣総理大臣の権限の消費者庁長官への委任(法第81条)など
消費者庁サイト
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation
厚生労働省サイト
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/index.html

2 小林製薬株式会社が製造した紅麹を含む健康食品に関する情報

 回収命令対象の3製品、その他の製品に関する情報、健康被害情報、原因究明、病像、関連通知等を掲載しています。概要については後述の解説を参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/daietto/index.html
(関連情報)
消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/other/caution_001/#qa
農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/kaishu.html
内閣官房
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/benikouji/dai1/gijiyousi.pdf

3 令和6年度輸入食品監視指導計画の実施

 厚生労働省では年度ごとに輸入食品監視指導計画を策定して輸入食品の安全性確保を図っています。本年度の計画は例年と同様、(1) 輸出国段階での措置(輸出国政府との二国間協議、技術協力、計画的な現地調査等の実施)、(2) 輸入時段階での措置(輸入者への輸入前指導を含む安全性確保に関する指導の実施、輸入届出の審査による食品衛生法への適合性の確認、輸入届出内容と実際の貨物が同一であることの確認等、多種多様な食品等の安全性を幅広く監視するためのモニタリング検査の実施、食品衛生法違反の可能性が高いと見込まれる食品等の輸入者に対する検査の命令、食品衛生法違反判明時の輸入者への改善結果報告の指導、海外からの問題発生情報等に基づく緊急対応の実施(3) 国内流通段階での措置(食品衛生法違反判明時の回収等の指示)(4)リスクコミュニケーションの推進から構成されています。本年度のモニタリング検査の計画件数は10万件です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yunyu_kanshi/kanshi/index.html

4 輸入検査の強化

 厚生労働省は、4月5日、インド産おくら及びその加工品(簡易な加工に限る。)検疫所におけるモニタリング検査の結果、インド産おくらからクロルピリホス及びテブコナゾールを検出したことから、食品衛生法違反の可能性が高い品目と判断し、検査命令の対象とすることとして、検疫所に通知しました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39481.html

5 原子力災害対策本部が「食品中の放射性物質に関する「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」を改正

 原子力災害対策本部では、地方公共団体が実施する食品中の放射性物質検査の検査計画や原子力災害対策特別措置法に基づく出荷制限等の取扱いに関するガイドラインを定め、毎年度見直しを行っています。
 令和5年4月以降の検査結果等を踏まえて、原子力災害対策本部がガイドラインの改正を行いました。主な改正内容は、これまでの検査結果等を踏まえ、検査対象品目及び水産物関連の記載を見直しました。原子力発電所事故発生から12年が経過し、基準値を超過する品目は、主として栽培飼養管理が困難な野生きのこ、野生鳥獣の肉、内水面産魚などであり、これらの品目を中心に検査対象品目が定められています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11135000/001233140.pdf


(解説)小林製薬の紅麹を含む健康食品について

1 健康食品を取り巻く状況

 国内では健康志向や高齢化の進展に伴い、健康に効果が期待できる食品へのニーズが高まっています。こうした食品は、食品表示法に基づき、消費者庁が個別に審査・許可した「特定保健用食品」、基準に従って栄養成分の機能を表示する「栄養機能食品」、消費者庁に届出をした「機能性表示食品」、そして一般の食品との境界があいまいな「いわゆる健康食品」に大別されます。民間の調査会社のデータでは、国内のこうしたサプリ・健康食品市場の規模は、年間で1兆2千億円と推計され、約5千万人が平均で2万4千円以上購入しているとされています。

2 食品衛生法の改正経緯

 こうした健康食品の市場拡大に伴い、食品衛生法も順次改正を重ねてきました。2001年に粉末、カプセル、錠剤などサプリメント形態での加工・販売が解禁され、有効成分とともに有害成分が濃縮されて高濃度となる懸念がありました。食品衛生法では2003年に第7条を制定し、食経験がないものや食経験があっても乾燥や濃縮などの加工したものについて、安全性の確証がなければ販売を禁止できることとしました。この結果、ダイエット効果を標榜するアマメシバ粉末について、食べた人に閉そく性細気管支炎を起こすことがわかり、販売が禁止されました。アマメシバはマレーシアでは生野菜として問題なく食べられており、乾燥濃縮された有害成分が問題だったわけです。また、若返り効果を標榜するエストロジェン様成分を含むプエラリア・ミリフィカが原因で女性に不正出血などの健康被害が多発したことから、2017年には食品衛生法第8条を制定し、こうした特定の成分を含む食品について、健康被害の報告や製造・品質の管理基準の順守が義務付けました。なお、厚生労働省に報告される健康食品による被害事例の多くは医薬品成分が原因で発生しており、無承認医薬品として対処されています。

3 小林製薬の製造した紅麹を含む健康食品の問題

(1)経緯

 去る3 月 下旬、大阪市の小林製薬株式会社が製造、販売した紅麹を原料とする機能性表示食品を摂取した人に健康被害の発生が判明したため、厚生労働省と大阪市は食品衛生法に違反するとして廃棄等を命令し、同社が回収を進めています。

(2)健康被害の概要

 15日現在、関連して5人が死亡、延べ233人が入院したことが同会社からの報告で明らかになっています。日本腎臓学会が同社の紅麹製品の摂取後に生じた95症例をまとめたところ、40歳から69歳、女性が比較的多く、製品の摂取期間に関わらず初診はほとんどが昨年12月以降の受診でした。おもな症状は倦怠感や食思不振、尿の異常や腎機能障害で、検査では腎臓の尿細管異常を示し、ファンコニー症候群とされています。

(3)原因究明

 同社の紅麹原材料は、米に紅麹菌を加えて培養、加熱、粉砕などしたもので、通常紅麹菌が作る腎毒性のあるシトリニンという物質は陰性としています。腎機能障害の原因を明らかにするため、厚生労働省や大阪市は同社の製造方法、品質管理、製品からのアオカビが作るプベルル酸の検出などの報告を受け、調査を進めています。
 なお、3製品に使用された紅麹原料が一次販売先52社、2次販売先173社とされましたが、含有量が少なく、健康被害の報告もなく、問題はないようです。

(4)ベニコウジ色素や麹は無関係

 一方で、加工食品に広く使用されている天然着色料のベニコウジ色素は、紅麹菌の培養液から抽出した色素が主成分で、食品衛生法に基づく規格基準に従って製造、販売されています。無論、酒やみそなどの発酵食品の製造に使用される麹とはカビの種類が異なっています。

(5)今後の課題

 今後、被害拡大の防止のための3製品の迅速な回収、病像の解明や治療方法の確立、再発防止のための原因物質の特定、外因性のものか、内因性のものかなど解明が待たれています。
 加えて、厚生労働省においては食品による健康被害等に関する情報収集体制の見直し、消費者庁において機能性表示食品制度の今後の在り方などについて、5月末を目途に取りまとめる予定です。