食品衛生行政の動き(国を中心に)2024年6月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 令和6年度食品、添加物等の夏期一斉取締りの実施

 6月12日、厚生労働省健康・生活衛生局長から各都道府県知事等に対して、「令和6年度食品、添加物等の夏期一斉取締り」の実施要領が通知されました。
 食品衛生法に基づく「食品衛生に関する 監視指導の実施に関する指針(平成 15 年厚生労働省告示第 301 号)」では、細菌性食中毒が多発する夏期には監視指導を重点的に実施することが定められています。各都道府県等では、食中毒リスクの高い、食肉や水産食品などの食品や集団給食施設、弁当・仕出し製造施設など営業施設の監視指導、HACCPの導入支援に加え、地域の事情を考慮して監視指導を実施します。
https://www.mhlw.go.jp/content/001263565.pdf
(参考情報)
東京都
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/05/23/24.html
静岡県
https://www.pref.shizuoka.jp/kenkofukushi/eiseiyakuji/shokuanzen/1003123/1024955.html
静岡市
https://www.city.shizuoka.lg.jp/s2564/s003273.html
浜松市
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/158812/r6kanshishidoukeikaku.pdf


2 食品中の有害化学物質等の検査結果調査及び畜水産食品の 残留有害物質モニタリング検査実施について

 6月10日、厚生労働省は各自治体に対し、令和6年度畜水産食品の残留有害物質モニタリング検査の実施については、「畜水産食品の残留有害物質モニタリング検査実施要領」により実施するよう通知しました。対象物質は家畜等の生産加工の過程において使用される可能性、過去の検出頻度、健康リスクの程度等を考慮し、都道府県等の畜頭数、食鳥処理羽数、養殖魚介類、生乳等の出荷量、流通量を勘案して計画を策定することとしています。
 また、令和5年度の農産物、地区水産物の有害化学物質等検査の結果の報告を要請しました。
https://www.mhlw.go.jp/content/001264572.pdf
(参考情報)
過去の食品中の残留農薬等検査結果
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/index.html


3 厚生科学審議会食品衛生監視部会の開催

 5月29日、厚生労働省は食品衛生基準行政の内閣府への移管に伴い設置された厚生科学審議会食品衛生監視部会を開催しました。同部会は、食品衛生法に規定に基づく未経験食品の暫定流通禁止、包括的輸入禁止などのほか、食中毒の予防対策、食品等事業者の監視指導に関する事項など食品衛生監視行政の重要事項を審議するとされています。
 当日は脇田陸字国立感染症研究所長が部会長に選出したのち、厚生労働省から食品衛生監視行政の取組の現状に加えて、紅麹関連製品に係る事案を受けた機能性表示食品制度等に関する対応状況、今後の対応について説明を聴取しました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40326.html


4 紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合

 5月31日、政府は第2回紅麹製品への対応に関する関係閣僚会合を開催し、今般の健康被害事案は機能性表示食品の信頼にかかわる重大な問題であるとの認識のもと、今後の機能性表示食品制度などに関する対応をとりまとめました。
 厚生労働省から食品衛生法に基づく回収命令の対象となった3種の紅麹関連製品以外には問題となる製品がなかったことに加え、原因究明の現状としては原料ロットに混入したアオカビが産生したプベルル酸のほか、機能性成分であるモナコリンKと構造が類似した2つの化合物が確認され、今後動物実験が進められることが報告されました。
 消費者庁から機能性表示食品による健康被害の情報提供の義務化、すなわち、機能性表示食品の届出を行った事業者が医師の診断による健康被害情報を得た場合は、製品との因果関係が不明であっても速やかに消費者庁長官と保健所等に情報提供しなければならない制度とすることが報告されました(食品衛生法でも機能性表示食品の製造・販売等を行う営業者に対して、同様の情報提供を義務とする)。また、機能性表示食品制度の信頼性を高めるため、機能性表示を行うサプリメント形状の加工食品について、GMP(適正製造規範)を届出者の遵守事項とし、消費者庁が立入検査等を行います。 このほか、新規成分について消費者庁における販売前の科学的知見からのチェックを強化することとしました。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/benikouji/index.html


5 輸入食品に対する検査命令の実施

 6月5日、厚生労働省は検疫所における輸入時のモニタリング検査でインド産カレーリーフから残留基準値を超えるプロフェノホス(殺虫剤)が検出されたため、食品衛生法第26条第3項に基づく検査命令(輸入届出ごとの全ロットに対する検査の義務づけ)を実施することとし、各検疫所長あて通知しました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40541.html


6 フランス領ポリネシア、マレーシアが日本産食品に対する輸入規制を見直し

 5月30日、フランス領ポリネシア政府は東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い、2011年から講じていた日本産食品に対する輸入規制(検査証明等)を撤廃しました。また、マレーシア保健省は昨年のALPS処理水の海洋放出を受けて日本産の魚・海塩、生海苔などを対象に強化していた輸入検査を緩和したと日本政府に通知しました。
https://www.maff.go.jp/j/export/e_info/attach/pdf/hukushima_kakukokukensa-69.pdf
https://www.maff.go.jp/j/export/e_info/attach/pdf/hukushima_kakukokukensa-71.pdf


7 牛肉骨粉等の鶏・豚等用飼料への利用に関するリスク評価

 5月22日、食品安全委員会は、農林水産省から諮問された「牛又はめん山羊に由来する肉骨粉等の馬、豚、鶏又はうずらを対象とする飼料の原料への利用」について、人への健康影響は無視できるとする食品健康影響評価の結果をとりまとめました。
 この結果は、これまで実施されてきた牛等に対するリスク管理措置が同様に遵守される限りにおいては、牛等に牛肉骨粉等を含む飼料が給与される可能性は低く、さらにSRM等が除去された牛肉骨粉等の安全性も考慮すると、これらを通じて人がBSEに感染するリスクは極めて低いとの考え方によるものです。
https://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20231121196


8 カフェイン含有飲料の過剰摂取に関する注意喚起

 5月23日、消費者庁はホームページ上の「カフェインを多く含む清涼飲料水の過剰摂取に注意しましょう」を更新しました。近年、カフェインを多く含む清涼飲料水(例えば、いわゆるエナジードリンク)が販売されています。
 カフェインについては、コーヒー、紅茶、緑茶といった日常的に摂取している飲料程度であれば、過剰摂取につながる可能性は低いものの、海外においてはカフェインを多く含む清涼飲料水を過剰に摂取したことによる死亡事例も報告されていることから、製品に記載されているカフェイン含有量を確認するなどして、多量のカフェインを摂取することは避けるべきとしています。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/food_safety_portal/other/contents_002/


9 世界食品安全の日

 毎年6月7日は国際連合が定める「世界食品安全の日」です。すべての人々に食品安全についての関心を高め、食品に由来する病気を防ぐための行動を促すために制定されています。今年のテーマは食品安全問題への備えの重要性に着目しています。
 FAOやWHOは、「食品安全問題では食品摂取を通じた人の健康へのリスクが生じる又はその可能性あり、事故、不十分な管理、食品偽装、自然災害などで生じる。食品安全問題への対処に備えるため、政治家、行政機関、生産者、食品事業者、消費者の不断の努力が必要である。」としています。
https://www.who.int/campaigns/world-food-safety-day/2024
(関係情報)
食品安全委員会
https://www.fsc.go.jp/sonota/world_food_safety_day.html
消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/codex/assets/consumer_safety_cms203_240522_01.pdf


(解説)健康食品摂取のリスク管理
 5月31日、政府は「第2回紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」を開催し、今後の機能性表示食品制度などに関する対応をとりまとめました(概要は上記3を参照)。
 一方、経済産業省が公表した商業動態統計の4月の速報値では、ドラッグストアの売上額は7157億円、前年同月比は6.2%増となりましたが、「健康食品」の販売額は217億円で、前年同月と同水準でした。ドラッグストアでの健康食品の売り上げは過去5年間、2%から10%の伸びを示してきたので、紅麴問題の影響はあるものの、健康食品には根強い需要があるようです。
 こうした中で、健康食品を摂取する方々には、2015年に内閣府食品安全員会が公表した「いわゆる「健康食品」に関する メッセージ」を改めて知っていただくことが必要と考えます。このメッセージは過去の健康食品の問題事案を踏まえた示唆に富んだ内容であり、今回の紅麹関連製品の事案にも通じるものがあります。
 例えば、このメッセージでは、まず「食品として販売されていても安全とは限りません」、「食品だからと言ってたくさん食べてはいけません。」、「同じ食品や食品成分を長く続けて摂った場合の安全性は正確にはわかっていません」としています。健康食品には食経験が無いものや食経験があってもサプリメント形状のものは成分を濃縮、乾燥、製剤化しているので、これまで経験したことがない多量の成分を摂取する設計になっている製品もあります。さらには体に良い、効果が出ないなどと摂取目安を超えてさらに多量に摂取するおそれもあります。また、機能成分を継続的に摂取して悪影響が出たり、有毒有害成分が含まれていると長期間摂取してしまうリスクもあります。過去にも若返りを標榜したホルモン様成分を含むサプリによる不正出血事案、国内外でダイエット効果を標榜したサプリによる細気管支炎事案などが発生しています。今回の紅麹関連食品3製品による腎障害事案は原因究明の途上ですが、製造過程で有毒有害物質が生成、混入すれば、継続的に又は多量に摂取した懸念もあります。
 また、このメッセージでは「健康食品として販売されているからと言って安全ということではありません」としています。機能性表示食品であったとしてもあくまで消費者庁に資料を「届出」はしていますが、「許可」や「承認」を受けたものではなないことに留意する必要があります。まして、食品表示法に基づく「許可」や「届出」を経ていない「いわゆる健康食品」が多く出回っており、注意が必要です。
 さらに「健康食品は、医薬品並みの品質管理がなされているものではありません」としており、今回の事例を受けて消費者庁は、機能性表示食品には適正製造規範を導入することにしました。
 メッセージの最後には「 知っていると思っている健康情報は、本当に(科学的に)正しいものとは限らないので、情報が確かなものであるかを見極めて、摂るかどうか判断してください。」と慎重な判断を求め、「 健康の保持・増進の基本は、健全な食生活、適度な運動、休養・睡眠です。」としており、健康食品に依存しない、バランスの取れた食生活の重要性を強調しています。
https://www.fsc.go.jp/osirase/kenkosyokuhin.html