食品衛生行政の動き(国を中心に)2024年7月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 有機フッ素化合物(PFAS)の健康影響評価

 食品安全委員会は、「有機フッ素化合物(PFAS)」の健康影響(令和4年度自ら評価案件)について、6月25日に開催した第944回委員会において、PFOS、PFOAそれぞれについてTDIを50ng/kg体重/日とするなどの評価書をとりまとめ、内閣府、厚生労働省、農林水産省、環境省に通知しました。また、同委員会ホームページに評価書、Q&A(更新版)、パブリックコメント募集結果、評価書の概要、評価及びパブリックコメントの要点等を掲載しました。

https://www.fsc.go.jp/osirase/pfas_health_assessment.html

(参考)「PFASをめぐる事情」については後述。

(参考)過去の自ら評価実施状況

https://www.fsc.go.jp/hyouka/mizukara/mizukara_index.html


2 食品表示法に基づく食品表示基準の一部改正に係る消費者委員会への諮問・答申

 消費者庁は小林製薬株式会社の紅麹関連製品に係る事案を踏まえ、制度の信頼性を高める観点から食品表示基準を一部改正するため、6月27日、同改正に係る消費者委員会への諮問を行いました。消費者委員会は、7月16日、諮問された改正案のとおりとすることが適当との答申を行いました。答申に際して、附帯意見「サプリメント食品に係る消費者問題に関する意見」として、①健康被害情報の収集・活用、➁有効性・安全性の実効性の確保、➂表示・広告規制の強化、④消費者への情報提供及び注意喚起、⑤消費者保護の取組を規律する法制度や組織の明確化について、消費者庁が関係省庁とともに適切に対応することを求めました。

(諮問)

https://www.caa.go.jp/notice/entry/038499/

(消費者委員会食品表示部会資料)

https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/syokuhinhyouji/bukai/073/shiryou/index.html

(答申)

https://www.cao.go.jp/consumer/content/20240716_toshin.pdf

(付帯意見)

https://www.cao.go.jp/consumer/content/20240716_iken.pdf


3 「特定保健用食品の表示許可等について」の一部改正案

 消費者庁では、7月19日、特定保健用食品について、機能性表示食品制度の見直しと同様の措置を許可制度の運用においても講ずることとし、関係通知の一部改正案のパブリックコメントを開始しました。主な改正内容は、許可等に係る食品について、医師の診断を受け、当該症状が当該食品に起因する又はその疑いがあると診断された情報を収集し、その発生又は拡大のおそれがある旨の情報を得た場合には、食品衛生法施行規則の規定により都道府県知事等に速やかに提供するとともに、当該情報について消費者庁長官に提供するための申請者の体制整備、及びこれらの実施等について明確化するものです。

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000277200


4 令和6年度第2回食品衛生基準審議会の開催

 消費者庁は7月3日、食品衛生基準審議会を開催し、食品添加物の規格基準の改正(メチルセルロース、二炭酸ジメチル)、器具及び容器包装の規格基準の改正(既存物質のポジティブリストへの13 物質の追加、4物質の特記事項及び材質区分別使用制限量(%)の変更)について報告をしました。

https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/review_meeting_001/038583.html


5 非破壊検査法による食品中の放射性セシウムスクリーニング法の改正

 厚生労働省は、7月1日、非破壊検査法による食品中の放射性セシウムスクリーニング法を改正し、対象食品にくりたけ、こしあぶらを追加しました。本改正により、原子力災害対策特別措置法に基づく出荷制限の対象となっている地域においても、全数検査による出荷制限の一部解除が認められれば、すでに検査の対象食品となっている、まつたけ、皮付きたけのこ、なめこ、ならたけ、むきたけに加えて、新たにくりたけ、こしあぶらが出荷可能となります。

https://www.mhlw.go.jp/content/11135000/001270167.pdf


6 食品中の放射性物質の調査結果 (令和5年9~10月調査分)

 消費者庁は令和5年9月から10月に全国15地域で流通する食品を購入し、マーケットバスケット調査方式により、食品中の放射性セシウムから受ける年間放射線量を推定しました。その結果、食品中の放射性セシウムから、人が1年間に受ける放射線量は、0.0006~0.0010ミリシーベルト/年と推定され、これは現行基準値の設定根拠である年間上限線量1ミリシーベルト/年の0.1%程度であり、極めて小さいことが確かめられました。

https://www.caa.go.jp/notice/entry/038755/


(解説)「PFAS」について

 このところ、水道水、水源地、河川水、化学工場周辺の水路などに加えて、人の血液からPFAS(ペル又はポリ・フルオロアルキル化合物)が検出されたとする報道を頻繁に目にします。検出事例の中には、厚生労働省が定めた水道水、環境省が定めた公共用水域や地下水の暫定指針値を超えるものもあります。去る6月25日に内閣府食品安全委員会が食品に含まれるPFOSのリスク評価結果をとりまとめたので、PFASをめぐる状況について概説します。

 PFASはフッ素原子2個以上を有する有機フッ素化合物の総称で、エアコンディショナーの冷媒、高分子素材など広範な化学物質が含まれ、OECD(経済協力開発機構)は4千7百、米国環境保護庁は関連物質も含めると約1万2千の化学物質が該当するとしています。PFASは構成するフッ素原子と炭素原子の共有結合が非常に強いため、水や油をはじく、熱に強い、薬品に強い、光を吸収しないなどの特性があり、一部は消火剤、コーティング剤、はっ水剤、表面処理剤、乳化剤など幅広い用途で用いられています。

 PFASのうち、PFOS(パーフルオロスルホン酸)とPFOA(パーフルオロカルボン酸)は、消火剤やフライパンのコーティング剤などに使われてきました。しかし、自然界や生体内で分解されにくい、生物から排出されにくい、人への毒性があるなどの問題があり、難分解性、高蓄積性の有害化学物質の製造、使用の廃絶や制限をするPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)でPFHxS(パーフルオロヘキサンスルホン酸)とともに規制され、国内でも化審法に基づき製造や輸入が原則禁止されています。こうした状況を受けて、厚生労働省は2020 年に水道水の水質管理上の暫定指針値をPFOSと PFOA の 合算値で 50 ng/L (ngは10億分の1g)と設定し、2021 年にはPFHxSを要検討項目としたほか、環境省でも河川、湖沼、地下水に同様の指針値を設け、調査を進めています。

 環境中の検出状況をみると、環境省の2019年度、2020年度の全国調査では、PFAS排出源の可能性がある施設、泡消火剤を保有・使用する施設、有機フッ素化合物の製造・使用の実績がある施設、廃棄物処理施設、下水道処理施設等周辺 143 地点のうち、21 地点の河川水や地下水などで暫定指針値を超過し、最大値は 5,500 ng/Lでした。厚生労働省が2019年度に実施した浄水場における水質検査では暫定指針値を超えたところはありませんでしたが、2020年度に実施した調査 では1 か所での暫定指針値を超過したため、その浄水場は水源を切替えました。

 食品については、農林水産省が2012年度から2014年度の間に東京、大阪、名古屋、福岡でPFOS、 PFOAの摂取調査を行い、その結果ではPFOSは 0.60~1.1 ng/kg 体重/日、PFOAは 0.066~0.75 ng/kg 体重/日でした。また、この摂取調査での魚介類の寄与率は、PFOSで 97.3~52.4%、PFOAでは 89.7~12.1%で食品からの暴露評価では魚介類が重要であることが確認されました。

 こうした中で、去る6月25日、内閣府食品安全委員会はPFASのリスク評価結果を公表し、耐容一日摂取量(TDI)はPFOSでは20 ng/kg体重/日、PFOAは20 ng/kg体重/日で、PFHxS は評価を行うための十分な知見は得られていないとしました。

 なお、諸外国や国際機関の一部には今回の食品安全委員会の評価よりも厳しい評価結果を示しているケースもありますが、食品安全委員会はPFASのヒトの健康への影響に関する情報は不明な点が多く、米国や欧州のリスク評価機関が採用したヒトの疫学研究で報告されている血清ALT値の増加、血清総コレステロール値の増加、出生時体重の低下、ワクチンに対する抗体応答の低下については、いずれも可能性は否定できないものの、指標値を算出することは困難としています。まずは今回の評価を踏まえた飲料水や食品のデータ収集、高濃度のPFASが検出された場合の汚染源や食品、飲料水への対策を進めるべきとしています。