食品衛生行政の動き(国を中心に)2024年8月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 輸入食品に関する検査命令

 厚生労働省は、7月31日、ニジェール産ごまの種子について、輸入届出ごとに全ロットのアフラトキシン検査(食品衛生法第26条第3項に基づく検査命令)を行う旨、各検疫所長あて通知しました。

 本措置は、7月26日に検疫所の輸入時検査において、同国産ごまの種子(519 BG、25,748.10 kg)からアフラトキシン 19 μg/kg 検出したことによるものです。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41806.html


2 機能性表示食品に係る健康被害情報の情報提供義務化等に関する説明会

 消費者庁は、7月23日、厚生労働省との共催で、食品等事業者を対象とした「機能性表示食品等に係る健康被害の情報提供義務化等に関する説明会」を8月16日から29日の間に全国7か所(札幌市、仙台市、さいたま市、名古屋市、大阪市、岡山市、福岡市)で開催することを公表しました。この説明会では機能性表示食品等に係る健康被害の情報提供の義務化、機能性表示食品等のGMPの要件化及び表示事項の見直しについて説明が行われる予定です。

 (参考)説明会資料の概要(詳細は消費者庁HPをご確認ください。)

〇機能性表示食品の今後について

・機能性表示食品の届出事業者について、医師の診断を受け、当該症状が当該食品に起因する又はその疑いがあると診断された健康被害に関する情報の収集、都道府県知事等への報告を義務化(知事等は消費者庁長官に情報提供)。

・機能性表示食品について、天然抽出物等を原材料とする錠剤、カプセル剤等形状の加工食品である機能性表示食品の製造管理及び品質管理(GMP)基準の義務化。

・表示基準の見直し(「機能性表示食品」の枠囲み、届出番号、機能性関与成分又はこれを含有する食品の機能性の科学的根拠、特定保健用食品と異なり、機能性及び安全性について国による評価を受けたものではない旨、科学的根拠等の情報が消費者庁のウェブサイトで確認できる旨、医薬品及び他の機能性関与成分との相互作用、過剰摂取等に係る注意喚起等当該機能性関与成分の安全性に関する科学的根拠を踏まえた具体的な表示など。)

・上記のほか、新規成分、表示内容等の確認に時間を要すると消費者庁長官が認める場合は届出確認期間を60日から120日に延長、年1回の自己点検及び評価並びにその結果の報告、特定保健用食品について機能性表示食品と同様の健康被害情報の収集報告等。

〇機能性表示食品等に係る健康被害の情報提供の義務化

・食品衛生法に基づき、事業者は衛生管理計画を作成、遵守するとされ、計画において健康被害と疑われる情報を把握したときの都道府県知事等への情報提供に努めるところ。食品表示基準の見直しに併せて、機能性表示食品の届出者及び特定保健用食品に係る許可を受けた者(現在管理計画作成が努力義務とされている輸入、常温での保管、運搬、販売を行う事業者を含む。)は、これらの食品について医師の診断を受け、当該症状が当該食品に起因する又はその疑いがあると診断された健康被害に関する情報を収集、都道府県知事等への報告を含む計画策定を義務化。

・ 報告義務の対象となる場合の考え方は、同一の機能性表示食品等による健康被害が概ね30日以内に主な症状が同一の症例が複数発生した場合、死亡事例や重篤事例が発生した場合などとする予定。

https://www.caa.go.jp/notice/entry/038785/index.html

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41777.html


3 令和5年度のと畜・食鳥検査等に関する実態調査結果

 厚生労働省は、8月15日、都道府県、保健所設置市、特別区あてに「と畜・食鳥検査等に関する実態調査の結果」をとりまとめ、送付しました。

 この実態調査は、と畜場及び食鳥処理場の設置状況、と畜料金、と畜検査手数料及び食鳥検査手数料の設定状況、休日、年末年始、時間外のと畜検査及び食鳥検査の対応状況等都道府県市における自治事務の対応状況について情報を収集、公表しているものです。

https://www.mhlw.go.jp/content/001288717.pdf

4 食品中の放射性物質解説資料改訂

 消費者庁は7月29日、「食品と放射能Q&A」、「食品と放射能Q&Aミニ」を最新の検査や調査の結果を踏まえて改訂し、ホームページに掲載しました。この冊子は、消費者庁が関係省庁等の協力を得て、食品等の安全性や放射性物質に関して消費者が疑問や不安とすることをQ&Aによって分かりやすく説明しています。

食品と放射能Q&A
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety_portal/radioactive_substance/assets/consumer_safety_cms203_240701_01.pdf

食品と放射能Q&Aミニ
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety_portal/radioactive_substance/assets/consumer_safety_cms203_240701_02.pdf


5 アレルゲンを含む食品に関するファクトシート公表

 食品安全委員会は、7月23日、アレルゲンを含む食品(総論、牛乳、小麦)のファクトシートを公表しました。食品安全委員会は、令和3(2021)年6月8日に、アレルゲンを含む食品のうち「卵」に関する食品健康影響評価結果(評価書)を公表し、「卵」以外の食品については、科学的な評価を行うための情報が十分ではなく、健康影響評価を行うことが困難としており、国内外の最新情報や研究結果等を集約した概要書(ファクトシート)を作成することとしています。そば、えび・かに、落花生、くるみについても、ファクトシートができ次第、公表する予定としています。

https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/allergen.html


(解説)保健所が取り組む食中毒の原因調査

 今年の7月は危険な暑さの日々が続き、全国の平均気温は気象庁が統計を取り始めてから最も高く、8月半ばの現在も涼しくなる気配は全くありません。

 最近の食中毒事件に関連したニュースを見ると、井戸水を原因とするカンピロバクター食中毒で患者25人、焼きそばを原因とする黄色ブドウ球菌食中毒で患者9人、うなぎ弁当を原因とする黄色ブドウ球菌食中毒で患者159人、弁当を原因とするサルモネラ食中毒で患者16人、おにぎりを原因とするノロウイルス食中毒で患者28人、弁当を原因とするノロウイルス食中毒で患者20人、煮豆を原因とする黄色ブドウ球菌で患者17人、弁当を原因とするノロウイルス食中毒で患者42人、鶏レバーを原因とするカンピロバクター食中毒で患者4人、鶏レバ刺しを原因とするカンピロバクター食中毒で患者5人など全国で発生しており、枚挙のいとまがありません。また、大分県では患者数400人を超えるノロウイルス食中毒が発生し、湧き水が原因ではないか、と報道されています。また、国立感染症研究所が8月13日に公表した感染症発生動向調査では7月29日から8月4日の週に腸管出血性大腸菌感染者が全国で131人確認されており(最も多い東京都では17人の発生)、警戒が必要となっています。

 こうした食中毒事件では、原因となった食品や施設を早期に特定し、原因食品の提供中止や回収、原因施設の営業中止など食中毒被害の拡大を防止し、同様の食中毒事件が再発しないように衛生管理計画の見直し、従事者の再教育、施設の消毒などが必要となります。このため、保健所が食品衛生法に基づき原因調査を行っており、その結果を公表すると、前述のような報道となるわけです。

 保健所が食中毒発生の探知は、食中毒の患者やその疑いのある人を診断した医師に保健所への届出義務があるので、この届出が基本となりますが、患者やその家族、関連事業者などから通報があった場合も保健所は独自に判断して食中毒調査を開始します。保健所では探知後できるだけ早く調査を開始し、まず、患者やその疑いのある人に食中毒に関係していることを認識し、適切な医療を受けてもらい、次に患者や調理従事者など関係者の記憶がはっきりしている間に聞き取り調査を進め、さらに患者や調理従事者の糞便、吐物、手指、食べ残しや原材料、関係食品、調理設備や器具、トイレなどから発生後時間が経過しないうち検査に適した検体を採取することが重要となります。患者からの聞取り調査では症状、発症日時などを確認し、患者の検便、食品や施設の検査結果で確認された食中毒菌やウイルスなどの病因物質と矛盾しないか検証します。また、患者から発症前約1週間に食べた食品を聞き取り、患者が食べた共通の食品や食中毒発生前に食べた食品ごとに患者と健康者の摂取率を統計学的に比較して、発症と関連が強い食品を推定します。さらに腸管出血性大腸菌、サルモネラ属菌及び赤痢菌感染症患者が確認されれば、遺伝子解析を行う国立感染症研究所と協力して他の地域に関連した感染者がいないか調査します。このようにひとたび食中毒が発生すると保健所の職員は休日夜間を問わず、迅速な対応が求められます。また、食品の製造の大規模化や流通の広域化に伴い、大規模・広域食中毒の発生もあり、他の保健所や他の都道府県市と協力して対応することとなります。このように食中毒調査は苦労の多い仕事ですが、すべての食中毒の原因が判明するとは限りません。例えば患者の糞便や関係食品の検査で食中毒を起こす細菌やウイルスが検出されない、食中毒と関連する食品が特定できないようなケースもまれではなく、原因調査の努力が報われない場合もあります。

 食中毒のニュースを見られるときにはこうした保健所職員の努力があることも少し思い出していただければ幸いです。