食品衛生行政の動き(国の動きを中心に)2024年9月分

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 令和5年度における「輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果」及び「輸入食品監視統計」の公表

 厚生労働省は、8月30日、令和5年度における輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果及び輸入食品監視統計を公表しました。

(概要)
・令和5年度の輸入届出件数は約235万件[約 240万件。](以下、[]内は前年度)、輸入届出重量は約2,987万トン[約3,192万トン]。199,272件[202,671件]の検査を実施し、このうち763件(延べ812件)[781件(延べ825件)]を法違反として、積み戻し又は廃棄等の措置を講じた。
・モニタリング検査については、計画数100,109件[100,021件]に対し、延べ101,096件(実施率:約101%)[100,947件(実施率:約101%)]を実施し、延べ139件[158件]を法違反として、回収等の措置を講じた。
・輸出国政府に対しは、引き続き、違反原因の究明及び再発防止対策の確立を要請し、二国間協議等を通じて輸出国における衛生対策を推進した。

(監視指導結果)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42843.html

(輸入食品監視統計)
https://www.mhlw.go.jp/content/001296449.pdf


2 チリ産ブルーベリーに対する検査命令の実施

 厚生労働省は、8月23日、検疫所におけるモニタリング検査の結果、チリ産ブルーベリーから基準値を超えるテブコナゾールを検出したため、輸入者に対して、食品衛生法第26条第3項に基づく検査命令(輸入届出ごとの全ロットに対する検査の義務づけ)を実施することとし、各検疫所長あて通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42776.html


3 毒キノコによる食中毒の注意喚起

 厚生労働省は、8 月 3 0 日、夏の終わりから秋にかけて、毒キノコを誤食した食中毒が多く発生するため、食用のキノコと確実 に判断できないキノコ類の採取、譲渡、販売、喫食を行わないよう、改めて消費者、食品関係事業者に対して、より一層の注意喚起及び情報提供を行うよう都道府県等に要請しました。
 令和5年は、ツキヨタケ、テングタケ、 ドクツルタケ等の毒キノコの誤食による食中毒事例が報告されています。

https://www.mhlw.go.jp/content/001298009.pdf

(自然毒のリスクプロファイル)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/index.html

(予防リーフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/001298254.pdf


4 紅麹関連製品に係る事案を受けた機能性表示食品制度等の改正

(1)消費者庁関係
 消費者庁は、 8 月23 日、食品表示基準の一部を改正する内閣府令を公布しました。改正の主な概要は以下のとおりです。
・機能性表示食品の届出者は健康被害と疑われる情報を収集し、 健康被害と疑われる情報を得た場合には、速やかに都道府県知事等及び消費者庁長官に提供する(令和6年9月1日施行)。
・届出者は錠剤、カプセル剤等食品については GMPに基づく製造管理を行う(令和6年9月1日施行、経過措置は令和8年8月31日まで。)。
・「機能性及び安全性について国による評価を受けたものではない旨」等表示の方法や表示位置などの方式等を見直し(令和6年9月1日施行、経過措置は令和8年8月31日まで。)。
・届出者は、一年ごとに自己評価し、その結果を毎年消費者庁長官 に報告する(令和7年4月1日施行)。
・届出実績がない新規の機能性関与成分について、消費者庁長官は販売前の届出資料の提出期限を原則 60 営業日を特例として 120 営業日とすることを可能とする(令和7年4月1日施行)。

(改正概要)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_240823_10.pdf

(新旧対照条文)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_240823_11.pdf

(関係告示・通知の制定・改正)
〇食品表示基準第2 条第1 項第10 号イの別表第26 の5 の項の規定に基づき、内閣総理大臣が定める届出の方法を定める告示
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_240823_12.pdf
〇機能性表示食品のうち天然抽出物等を原材料とする錠剤、カプセル剤等食品の製造又は加工の基準
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms205_240830_01.pdf
〇機能性表示食品の届出等に関するマニュアル
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/assets/food_labeling_cms205_240902_02.pdf
〇「機能性表示食品の届出等に関するマニュアル」の制定について
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/assets/food_labeling_cms205_240902_01.pdf
〇「機能性表示食品に関する質疑応答集」の一部改正について(新旧対照表)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/assets/food_labeling_cms205_240902_16.pdf
〇「特定保健用食品の表示許可等について」の一部改正について(健康被害の情報提供の義務化)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/meeting_materials/assets/food_labeling_cms206_20240920_15.pdf
〇「特定保健用食品に関する質疑応答集」の一部改正について
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_specified_health_uses/notice/assets/food_labeling_cms206_20240830_03.pdf


(2)厚生労働省関係
 厚生労働省は、 8 月23 日、食品衛生法施行規則の一部を改正する省令を公布しました。主な改正内容は以下のとおりです。
・営業者のうち、機能性表示食品の届出者及び特定保健用食品に係る許可を受けた者は、衛生管理計画にこれらの食品に係る健康被害の情報を収集し、健康被害の発生及び拡大のおそれがある旨の情報を得た場合には、速やかに、当該情報を都道府県知事等に 提供する(令和6年9月1日施行)。
・衛生管理計画を必要に応じて作成することとされている輸入、常温保管・運搬・運搬等を行う営業者のうち、機能性表示食品の届出者及び特定保健用食品に係る許可を受けた者については、健康被害に関する情報収集と情報提供の義務に係る衛生管理計画を作成し、これを遵守することを義務付ける(令和6年9月1日施行)。

(新旧対照条文)
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/hourei/H240826H0030.pdf

(施行通知)
https://www.mhlw.go.jp/content/001297242.pdf

(関係通知)
〇機能性表示食品等に係る健康被害の情報提供について
https://www.mhlw.go.jp/content/001297243.pdf
〇機能性表示食品等に係る健康被害の情報提供に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001298188.pdf
〇いわゆる「健康食品」・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領の改正(機能性表示食品及び特定保健用食品に係る健康被害の情報提供が義務化に伴い、「いわゆる「健康食品」・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領」をとりまとめ、改正前の令和6年通知から別紙様式を見直し、機能性表示食品及び特定保健用食品による健康被害情報の届出、指定成分等含有食品による健康被害情報の届出についても同様式により報告することとする等の見直し。併せて「指定成分等含有食品に関する留意事項について」(令和2年4月 17 日付け薬生食基発 0417 第1号)を廃止。)
https://www.mhlw.go.jp/content/001297245.pdf
〇 食品衛生監視票について(健康被害に関する情報の提供につき項目を追加するなど、改正施行規則を反映。)
https://www.mhlw.go.jp/content/001298092.pdf
〇「食品等事業者団体による衛生管理計画手引書策定のためのガイダンス」 の一部改正(食品衛生法 施行規則の改正に伴い、手引書の構成に機能性表示食品及び特別保健用食品の健康被害情報の提供が義務付けられたことを明記。)。
https://www.mhlw.go.jp/content/001298093.pdf


5 食品、添加物等の規格基準の一部を改正

 消費者庁は、9 月 1 8 日 、食品、添加物等の規格基準の一部を改正し、品目について、食品中の残留基準値を設定又は改正しました。
 農薬イソピラザム、農薬及び動物用医薬品テフルベンズロン、飼料添加物 3-ニトロオキシプロパノール、動物用医薬品フェノキシエタノール、農薬フ ルオキサストロビン、農薬プロチオホス、農薬フロニカミド、農薬及び動物 用医薬品ブロフラニリド、農薬ヘキサコナゾール、農薬ベンチアバリカルブ イソプロピル、農薬ポリオキシンD亜鉛塩並びに農薬メタフルミゾン

(告示)
https://kanpou.npb.go.jp/20240918/20240918g00217/20240918g002170035f.html

(施行通知)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/pesticide_residues/notice/assets/standards_cms208_240918_01.pdf


(解説)「食品リコール、企業に求められるのは、日頃の備えと迅速な対応」
 消費者庁は事業者が市場から回収している製品の情報を収集して、「消費者庁リコールサイト」を公開しています。このサイトを見ると、食料品、家電製品、車両・乗り物、保健衛生品など様々な製品が日々、品質や安全性の問題を理由に回収されていることがわかります。
 「リコール(Recall)」ということばは、製品に欠陥がある場合、事業者が事実を公表して製品を市場から回収するという意味で使われることが多く、行政の命令によるものと事業者が自主的に行うものがあります。行政機関が回収を命令する場合には同時にプレスリリースを行い公表されますが、事業者の自主的な判断による回収は事業者自身がプレスリリースや社告などを出さないと一般の消費者に知らされない懸念があります。自動車、医薬品、消費生活製品などは製品に欠陥がある場合、事業者が公表して製品を回収し、必要な場合は修理をするなどの適切な対応を法律などで義務付けており、食品についても食品衛生法と食品表示法の制度改正で令和3年6月から製品の安全性を理由に市場から食品を自主回収する場合には、行政機関への報告することを義務付けました。具体的には食品衛生法違反や安全性に関連する食品表示法違反、またはそのおそれがある食品を対象としており、腐敗変敗した食品や有毒有害物質を含む食品、食中毒菌などの病原微生物に汚染された食品、残留農薬基準違反の農産物、日本で認められていない食品添加物を使用した食品、アレルギー表示が不備である食品などが対象となります。
 自主回収を決めた事業者はウェブで都道府県へ報告し、自主回収の報告を受けた都道府県は回収の対象となった食品の健康影響の程度を、「重篤な健康被害または死亡の原因となる可能性がある(クラス1)」、「重篤な健康被害の原因となる可能性が低い(クラス2)」、「健康被害の可能性がほとんどない(クラス3)」の3つの段階に分類して、同じくウェブで国に報告します。こうした食品衛生法、食品表示法に基づく令和5年度の自主回収の報告は合計2,649件で、内訳は表示の不備1,798件(67.4%)、シール不良450件(16.9%)、異物混入93件(3.5%)残留農薬基準超過64件(2.4%)などでした。今年度は9月半ばまでに500件以上の自主回収が報告されました。マスコミで頻繁に報道される小林製薬関連では、回収命令となった同社の3製品のほかに、78社134品目の自主回収が継続中です。また、報道ベースで規模が大きいものには、食パン10万個、ベビーフード9万5千個、焼き菓子22万個などがあり、いずれも異物混入が原因でした。過去の国内での大きな自主回収事例としては、2001年に発生した未承認の遺伝子組み換えジャガイモを使用したポテトチップの回収事例では120万袋が対象となり、2008年の中国産冷凍餃子への農薬混入事件では冷凍餃子などの冷凍食品3800トンが対象となり、同年の事故米の不正流通事件ではコメ1,180tが回収対象となりました。
 事業者は万が一の事故発生の際には、①問題の探知、➁調査、➂対応の決定、④回収の実施を迅速かつ的確に進める必要があります。小林製薬の事案でも組織的な対応が遅れたことが健康被害拡大の原因になったとの指摘がされています。米国のFDA(米国保健省食品医薬品庁)では事業者に対して迅速かつ的確に自主回収を進めるようガイダンスを公表しています。内容としては、平時から事故対応の責任者、担当者を定め、研修を行い、リコールコミュニケーションプランとして、社内、FDA、製品の一次販売先、一般消費者など関係者それぞれへの対応について、基本方針や想定問答を定めるよう求めています。さらに問題の探知から回収終了までの実務的な作業や意思決定プロセスなど関係者の責任分担などを定め、特にリコールの開始に当たっては、リコール計画の策定、一次販売先、一般へ提供する情報の整理を素早く対応することを求めています。また、基本的なこととして、回収対象品の特定に必要な製品のロット管理やロット表示を必ず行う、流通状況を明らかにする出荷、販売の記録の作成と維持を求めています。
 持続可能な開発目標の一環として、食ロス問題に社会が取り組む中で、こうした食品が市場から大量に回収されている事案が発生しないように製品の品質や安全管理を徹底することが最も重要ですが、万が一事態が発生した際には、消費者の健康保護を最優先に迅速かつ的確な対応ができるよう事業者の日ごろからの備えが望まれています。