食品衛生行政の動き(10月)国を中心に

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 器具及び容器包装のポジティブリストの最終化

 消費者庁は、9月27日、食品、添加物等の規格基準の一部を改正する告示(令和5年厚生労働省告示第324号。以下「令和5年告示」。)の一部を改正し、器具及び容器包装の合成樹脂原材料のポジティブリスト第2表に物質等を追加するため、同リストを差し替えました。改正された令和5年告示の施行に変更はなく、来年6月1日としています。
 食品衛生法の平成30年改正により器具及び容器包装に使用される合成樹脂の原材料及びこれに含まれる物質についてのポジティブリスト制度が定められました。具体的な内容は令和5年告示の別表第1のポジティブリストに示され、その最終化が進められてきました。今回の改正は、令和5年告示の制定時点ではポジティブリストに規定することができなかった既存物質について追加等を行い、同リストを差し替えるものです。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/positive_list_new#h2_2


2 令和5年度 食品中に残留する農薬等の一日摂取量調査結果

 消費者庁は、9月25日に開催した食品衛生基準審議会農薬・動物用医薬品部会において、令和5年度のマーケットバスケット調査方式による農薬等の一日摂取量調査の結果を報告しました。本調査は、国民が日常の食事を介して食品中に残留する農薬、動物用医薬品及び飼料添加物をどの程度摂取しているのかを把握するため、毎年度行われているものです。
 対象とした48農薬等について、8地域(北海道、宮城県、栃木県、東京都、新潟県、大阪府、高知県及び長崎県)から入手した全14群の食品を調製した112 試料を分析した結果、定量値が得られた農薬等は25農薬等で、それらのADI比は0.000~0.551%の範囲であり、国民が一生涯に渡って毎日摂取したとしても健康に影響が生じるおそれはないと考えられるとしました。

https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/pesticide/meeting_materials/review_meeting_003/assets/fssc_cms207_240924_18.pdf


3 と畜検査における民間獣医師等の活用

 厚生労働省は、9月 10日、 都道府県等に対して、①と畜検査員が法の規定による検査を実施することを前提として、検査補助を委託した民間獣医師が生体、頭、内臓、枝肉の異常の有無をスクリーニングすること、②精密検査を薬剤師や臨床検査技師等が実施し、結果判定を行い、その検査結果等を踏まえてと畜検査員が法に基づき措置を講じることが可能であることについて通知しました。本件の背景には、近年の公務員獣医師の確保が困難となっている状況があります。

https://www.mhlw.go.jp/content/001302732.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/001302740.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/001302741.pdf


4 第1回 紅麹関連製品に係る事案の健康被害情報への対応に関するワーキンググループ

 厚生労働省は、9月18日、紅麹関連製品に係る事案の健康被害情報への対応に関するワーキンググループを開催し、8月15日までに大阪市から報告があった小林製薬株式会社の紅麹を使用した機能性表示食品(3製品)に係る健康被害情報58 例の死亡例のうち、6名が ① プベルル酸が含まれる令和5年7月以降に出荷された製品を喫食した可能性が高い者 であって、② 近位尿細管障害を含め、何らかの腎障害がある又は疑われる者であること踏まえて、プベルル酸を発生させない製造条件やプベルル酸に係る規格基準等の要否について検討していくことが必要ではないかとし、引き続き、必要な情報を収集すること、再発防止のための知見を蓄積していくことが重要とされました。

議事概要
https://www.mhlw.go.jp/content/001305612.pdf

資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43358.html


5 「高度な機能」の条件を満たす自動販売機の機種のリストの更新

 厚生労働省は、10月2日、「高度な機能」の条件を満たす自動販売機の機種のリストを更新しました。リストに掲載された自動販売機を屋内に設置して行う営業は営業許可ではなく、営業届出の対象になります。

https://www.mhlw.go.jp/content/001312743.pdf


6 高病原性鳥インフルエンザの疑似患畜の確認に伴う監視体制の 強化

 厚生労働省は、10月17日、 都道府県等に対して、北海道厚真町において高病原性鳥インフルエンザ疑似患畜が確認されたことから、引き続き、食鳥処理場における鳥インフルエンザを疑う場合のスクリーニング検査及び感染の疑われる生体の搬入防止の指導等の実施について、対応を依頼しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/001317965.pdf


(解説)カンピロバクター食中毒をめぐる事情

1 鶏肉は最も消費量が多い食肉
 鶏肉は、価格が比較的安く、安定しており、脂質が少ないなど、消費者の低価格志向や健康志向にマッチして、食生活に欠かせない食材です。国民一人当たりの食肉の消費量は、農林水産省の2023年の食料需給表によると、牛肉6.1kg、豚肉13.1kg、鶏肉14.4kgで、最も消費量の多い食肉となっています。


2 カンピロバクター食中毒の発生状況と特徴
 2023年の食中毒統計によると、食中毒発生の総件数1,021件、総患者数11,803人うち、カンピロバクターによる食中毒は事件数211件(20.7%)、患者数2,089人(17.7%)を占め、過去7年間連続で細菌性食中毒の原因のトップとなっています。カンピロバクター食中毒は、飲食店で発生することが多く、原因施設が判明した160件のうち、9割以上の151件が飲食店でした。本年は、8月末時点で事件数95件、患者数485人が報告され 81件が飲食店、1件が給食施設、13件は原因施設が不明とされています。また、これらの食中毒事件の多くは、生または加熱不十分な鶏肉を原因としています。
 カンピロバクター食中毒の主症状は下痢、腹痛、発熱などで、多くは1週間ほどで治癒し、死亡例や重篤例はまれです。カンピロバクターに感染した数週間後に手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを起こすギラン・バレー症候群などを発症する場合があると指摘されています。カンピロバクター感染がギラン・バレー症候群を誘発する要因の一つとして考えられていますが、そのメカニズムはわかっていません。


3 フードチェーンにおけるカンピロバクターの動態
 食中毒の原因となるカンピロバクター・ジェジュニ/コリは、家畜や家きん、ペットなど動物の腸管内に棲息していますが、病気を起こすことはまれです。肉用鶏、すなわちブロイラーのヒナからはカンピロバクターは検出されませんが、農場で飼育されているうちに飲み水、ハエなどが関与して感染すると考えられています。
 農場から出荷され、食鳥処理場に搬入される肉用鶏、すなわち、ブロイラーの5割から8割程度の腸内からカンピロバクターが検出されています。国内ではブロイラーが年間7億6千万羽処理されており、その99%以上が136か所の大規模食鳥処理施設で処理されています。平均すれば大規模食鳥処理施設1か所1あたり、年間550万羽、1日2万羽、1時間当たり2千5百羽、1分間当たり50羽とハイペースで機械化された工程で処理されています。こうしたことから、食鳥処理工程でカンピロバクターが含まれる腸内容物の漏出防止や汚染部位の完全除去は難しい状況です。また、工程の最後に食鳥肉の鮮度を保つために水槽の中で冷却されるため、カンピロバクターに汚染された鶏肉が入れられると同じ水槽内の鶏肉に汚染が広がります。
 こうしたことから調査結果にばらつきはあるものの、市販される鶏肉の2割から9割にはカンピロバクターが付着していると考えられています。また、カンピロバクターは凍結することで多くが死滅するので、冷蔵の鶏肉のリスクが最も高いことになります。
 なお、カンピロバクターは人や動物の腸管中では増殖する一方、外気中では増殖しないいため、食品の流通・保管中にはほとんど増殖しません。また、乾燥に弱く、通常の加熱調理で死滅しますが、比較的少量の菌数(500~800個/人)でも感染が成立するため、注意を要します(サルモネラや赤痢は10万個/人)。


4 対策の現状
 農場段階では、高病原性鳥インフルエンザ予防のための衛生対策は進んでいるものの、ブロイラーのカンピロバクター感染メカニズムには不明な点が多く、感染しても生産に悪影響がありません。このため、対策を講じることに経営上のメリットが小さいと認識されており、カンピロバクターに特化した対策は進んでいません。
 したがって、カンピロバクター食中毒の予防方法は、鶏肉はカンピロバクターが付着していることを前提に十分に加熱調理(中心部を75℃以上で1分間以上加熱)し、生または加熱不十分な鶏肉料理を避けることが最も効果的です(調理現場では鶏肉から調理従事者の手指、器具や設備を介した他の食材への2次汚染も問題となります。)。
 厚生労働省は保健所に対して、飲食店業者に鶏肉の加熱が必要である旨の情報を確実に伝達するため、食鳥処理業者や流通業者が飲食店への卸売にあたって、「加熱用」の表示を行うとともに、飲食店営業者に対しては生または加熱不十分な鶏肉の提供の中止を指導するよう対応を求めています。昨年の全国の保健所による夏期一斉取り締まりでは、飲食店など4万3千施設に立ち入り検査をして、277施設で生食での鶏肉の提供があり、664施設で加熱不十分な鶏肉の提供が確認され、改善指導が行われました。また、鶏肉を飲食店に卸す卸売業者2,194施設に立ち入り検査を行った結果、421施設が鶏肉の提供に際して加熱が必要な肉であることを表示や書類で伝達していないことが確認され、改善指導が行われました。


5 今後の予防対策の方向性
 農林水産省では、「肉用鶏における衛生水準の向上等に関する検討会」を9月末から開催し、肉用鶏の生産における衛生水準の向上、消費者、飲食店に対する情報提供に関する方策などを検討するとしており、厚生労働省や消費者庁、食品安全委員会などの協力を得て、生産段階だけではなく、処理、流通、販売、さらに消費の段階の取り組みが推進されることを期待したいと思います。