食品衛生行政の動き(11月)国を中心に

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 「令和6年食品、添加物等の年末一斉取締り」の実施

 厚生労働省は11月15日、「令和6年度食品、添加物等の年末一斉取締り実施要領」を通知し、例年同様、年末における食中毒の発生防止、積極的に食品衛生の向上を図るため、全国一斉に取締りを行うこととしました。
 なお、例年、実施要領は一斉取り締まり終了まで公開されていません。

https://www.mhlw.go.jp/content/001333338.pdf

(参考)
「令和5年食品。添加物等の年末一斉取締り実施要領」
https://www.mhlw.go.jp/content/001234348.pdf
「令和5年食品、添加物等の年末一斉取締り」の結果
https://www.mhlw.go.jp/content/001234347.pdf


2 食品添加物の使用基準等の改正

 消費者庁は、11月5日、食品衛生法第13条第1項に基づき、二炭酸ジメチルの保存基準、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びデンプングリコール酸ナトリウムの使用基準を改正、メチルセルロースの使用基準を削除等の改正を行いました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/second_additive_01/assets/cms_standards102_241105_01.pdf

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/second_additive_01/assets/cms_standards102_241105_02.pdf

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/assets/cms_standards102_241105_03.pdf


3 「令和5年度特別用途食品(特定保健用食品を除く。)に係る栄養成分等、特定保健用食品に係る関与成分及び機能性表示食品に係る機能性関与成分に関する検証事業(買上調査)」の調査結果の公表

 消費者庁は11月7日、「令和5年度特別用途食品(特定保健用食品を除く。)に係る栄養成分等、特定保健用食品に係る関与成分及び機能性表示食品に係る機能性関与成分に関する検証事業(買上調査)」の調査結果を公表しました。調査対象101商品について関与成分等の分析試験を実施した結果、機能性表示食品2商品が申請等資料に記載された含有量を下回りました。当該届出者は当該ロットを含め当該商品の販売を中止し、届出を撤回しました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/research/2023/assets/food_labeling_cms206_241107_01.pdf


4 食品期限表示の設定のためのガイドラインの見直し検討会

 消費者庁は10月21日、食品期限表示の設定のためのガイドラインの見直し検討会を開催し、第1回検討会での委員からの意見、加工食品の期限表示設定に関する実態調査アンケート結果及びヒアリング中間報告、「食品期限表示の設定のためのガイドライン」見直しに向けての論点(案)、表示期限を過ぎた食品の取扱いについて議論が行われました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/meeting_materials/review_meeting_011/039619.html


5 食品の営業規制の平準化に関する検討会開催

 厚生労働省は10月30日、食品の営業規制の平準化に関する検討会を開催し、従業者が常駐しない施設に対する施設基準の適用、従業者が常駐しない施設に対する施設基準追加項目、従業者が常駐しない施設に対する施設基準等について検討を行いました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44456.html


6 食品衛生基準審議会新開発食品調査部会の開催

 消費者庁は11月18日、食品衛生基準審議会新開発食品調査部会を開催し、細胞培養により製造される食品(細胞培養食品)、「錠剤、カプセル剤等食品の製造管理及び品 質管理(GMP)に関する指針(ガイドライン)」の改正(微生物等関連原材料指針の追加)等について審議しました。

https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/review_meeting_004/039977.html


(解説)カンピロバクター食中毒をめぐる事情

 毎年11月から3月までの間は、多くのノロウイルス食中毒の発生が報告されます。ノロウイルス食中毒は平成10年に単独の病因物質として食中毒統計で分類されて以降、病因物質別の事件数、患者数ともに毎年上位を占めています。令和5年では食中毒の総事件数1,021件、総患者数1万1,803人に対し、ノロウイルスが原因となった事件は163件で、総事件数に占める割合は16%、患者数2人以上の事件537件に対しては30%を占め、患者数5,502人の総患者数に占める割合は47%に達しています。

 ノロウイルス食中毒の原因は、近年は飲食店、給食施設、仕出し屋、旅館などの調理施設で提供された食事を原因とする事件がそのほとんどを占めています。平成28年の薬事・食品衛生審議会食中毒部会資料によると、ノロウイルス食中毒の原因の80%が調理従事者からのウイルス汚染であり、25%は下痢、嘔吐などの症状があったが、55%は無症状だったとされています。こうしたことから、ノロウイルス食中毒予防には、調理従事者からの食品へのウイルス汚染を防止することが最も効果が高いことがわかっていますが、平成29年以降もノロウイルスによる食中毒が食中毒統計の上位を占めています。これはノロウイルスが食事だけでなく、家庭、保育所、学校、高齢者施設などの日常生活の中で感染者の糞便が手指を介して感染し、さらに地域での散発、流行を引き起こす冬期に流行する感染性胃腸炎の主要な原因となっており、調理従事者は日常生活の中で感染リスクに曝されているためです。

 ノロウイルスに感染した調理従事者が食品を直接取り扱うことを防止するには、一般衛生管理としての始業前の健康状態の確認と記録を徹底し、下痢、嘔吐などのノロウイルス感染の疑いのある従事者を発見して、食品を直接取り扱う作業を行わないようにすることが一義的な対策となります。また、無症状病原体保有者による食中毒事例が有症状者による事例の2倍以上あることを考慮すると、衛生管理の基本中の基本とも言える正しい手洗いを励行し、食品への汚染リスクを低減することが極めて重要です。また、調理器具などを介して汚染した食品を喫食することによりノロウイルス食中毒の発生例もあり、調理器具の消毒も重要です。

 公益社団法人日本食品衛生協会では、ノロウイルスによる食中毒を未然に防止し、消費者の食への不安を解消するため、厚生労働省、文部科学省、農林水産省、消費者庁をはじめ、全国保健所長会、全国食品衛生主管課長連絡協議会、主婦連合会、一般社団法人全国消費者団体連絡会、全国女性団体連絡協議会の後援、食品関係事業者、食品関係団体などの協賛を得て、毎年11月から2月までの4か月間を、「ノロウイルス食中毒予防強化期間」と定め、全国の食品衛生協会と連携して、食品等事業者の自主的な衛生管理の徹底を図るとともに、ノロウイルスに関する的確な情報を提供し、消費者と事業者が、相互に情報を共有する事業に力を入れています。さらに、食品衛生指導員の「手洗いマイスター」による適切な手洗いの普及にも取り組んでいます。

 また、無症状病原体保有者を着実に発見する観点から平成28年当時、厚生労働省は調理従事者に月1回のノロウイルスの検便を求めようとしましたが、当時の検査法の限界や高コストを理由に反対意見が強く、検便は必要な場合の病原体保有者のスクリーニング手段と位置付け、流行時期の10月から3月までの間には月に1回以上、又は家族などに感染性胃腸炎が疑われる有症者がいる場合、病原微生物検出情報におけるノロウイルス検出状況の増加時などに、実施に努める旨を「大量調理施設の衛生管理マニュアル」に規定しました。

 また、平成30年には食品衛生法が改正され、HACCPに沿った衛生管理の制度化に伴い、事業者団体が作成し、厚生労働省が内容確認したそうざい、べんとう、セントラルキッチン、旅館、ホテル、べんとう、製パンなどの手引書ではノロウイルスの検便検査の実施を規定しています。

 ノロウイルス検査は平成28年当時と比較して、広く普及し、低コスト化されており、無症状病原体保有者を発見するため、調理従事者の一部又は全てを対象としたスクリーニング検便の導入や検便間隔の短縮などにも取り組みやすい状況になってきました。一方で飲食店、給食施設などの食品産業の現場では、高齢化、人手不足の中で、パートやアルバイト、外国人労働者に頼っており、陽性者や有症状者、家族が発症している者を単に自宅待機とするのではなく、職場の感染防止対策を徹底し、飲食物に直接触れることのない感染リスクの低い作業に一時的に変更するなどの対応も併せて考えていく必要があります。

 コロナウイルスのパンデミックが記憶に新しく、感染対策の導入に対する社会の理解が高まっている今こそ、ノロウイルス対策を積極的に進めていく好機ととらえ、予防対策に取り組んでいくことが必要です。