食品衛生行政の動き(12月)国を中心に

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 食品表示の衛生・保健事項に係る年末一斉取締りの実施

 消費者庁は11月28日、都道府県等に対して、12月1日から31日の間、食品、添加物等の年末一斉取締りの時期にあわせて、例年どおり、食品表示の衛生・保健事項に係る取締りの強化を全国一斉に実施する旨を通知しました。重点的な取り組みには、いわゆる「健康食品」の監視指導、くるみの特定原材料への追加及び特定原材料に準ずるものの取扱い、「乳児用規格適用食品である旨」の表示の周知啓発、外食・中食における食物アレルギーに関する情報提供に係る啓発資材の活用等が掲げられています。

https://www.caa.go.jp/notice/assets/food_labeling_cms203_241128_04.pdf


2 令和6年度食品、添加物等の夏期一斉取締りの実施結果をホームページに公表

 厚生労働省は12月5日、令和6年度食品、添加物等の夏期一斉取締りの実施結果(飲食店などの未加熱、加熱不十分な食肉の取り扱いへの改善指導状況、大量調理施設や弁当製造施設、いわゆる健康食品製造施設への監視指導状況等)をホームページに掲載し、都道府県等に通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/001346875.pdf


3 ランピースキン病発生農場の移動自粛解除後の生乳等の出荷再開を通知

 厚生労働省は11月29日、各都道府県等に対して、ランピースキン病発生農場の真症牛、疑症牛について、家畜防疫員により皮膚病変の症状の消失が確認され、又は真症牛等と判定された日から 28 日目以降に実施する抗原検査で陰性が確認された場合、これらの生乳及びと畜場等への出荷の自粛が解除されること、と畜検査申請書の備考欄等には抗原検査の実施日及びその結果が記載されることになること等について通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/001342718.pdf

注 内閣府食品安全委員会は11月19日、ランピースキン病に関する情報をホームページ上で公表しました。ランピースキン病はランピースキン病ウイルスによって引き起こされる牛や水牛の病気で、人には伝播しないとされています。 令和6年11月6日以降、福岡県、熊本県の農場で本病の発生が確認されています。

https://www.fsc.go.jp/sonota/lsd.html


4 ポーランドから輸入される牛肉等の取扱いについて

 厚生労働省は12月11日、各検疫所対し、ポーランドの1施設から輸出された牛舌を検査したところ、輸入条件である扁桃の除去が不十分であることが確認されたため、当該施設で処理され牛舌の輸入手続を保留するよう通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/001350659.pdf


5 令和6年度第2回食品衛生基準審議会添加物部会の開催

 消費者庁は11月28日、食品衛生基準審議会添加物部会を開催し、既存添加物であるゴム及び単糖・アミノ酸複合物の規格基準設定、シクロデキストリンの規格基準改正について審議しました、また、既存添加物の安全性の確認、令和5年度マーケットバスケット方式による保存料等の摂取量調査の結果、WHOの非糖質甘味料の使用に関するガイドラインと国内における非糖質甘味料の摂取量推計について報告しました。

(参考)令和5年度マーケットバスケット方式による保存料等の摂取量調査の結果
https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/assets/fscc_cms101_241203_01.pdf

(参考)WHOの非糖脂質甘味料の使用に関するガイドラインと国内における非糖質甘味料の摂取量推計
https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/assets/fscc_cms101_241203_02.pdf


6 令和6年度第4回食品衛生基準審議会

 消費者庁は12月11日、食品衛生基準審議会を開催し、既存添加物であるゴム、単糖・アミノ酸複合物の成分規格の設定及びシクロデキストリンの成分規格の改正を審議しました。また、農薬等の残留基準設定、器具容器包装の規格基準等の改正について報告しました。

https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/review_meeting_001/040328.html


7 令和6年度第1回食品衛生基準審議会器具・容器包装部会の開催

 消費者庁は12月16日、食品衛生基準審議会器具・容器包装部会を開催し、器具及び容器包装の規格基準ついて、現行の合成樹脂のポジティブリストに加え、合成樹脂個別に安全性審査を受けた物質及びその使用方法を合成樹脂に係る規定として定めること、難分解性、高蓄積性及び長期毒性又は高次捕食動物への慢性毒性を有する化学物質化審法に規定する第一種特定化学物質を器具及び容器包装の原材料として使用できないこととすることを審議しました。また、器具及び容器包装に関する試験法、食品衛生法第18条第3項のただし書きの規定の「加工されている場合」に関するQ&Aについて報告しました。

https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/review_meeting_005/040263.html


8 第2回食べ残し持ち帰りに係る法的取扱いに関するガイドライン検討会の開催

 消費者庁は12月12日、食べ残し持ち帰りに係る法的取扱いに関するガイドライン検討会を開催し、「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン案」についての検討、モデル事業の報告などを行いました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/meeting_materials/review_meeting_008/040397.html


(解説)飲食店における「食べ残し持ち帰り」の民事上、食品安全上のリスク対応

1 食品ロスとSDGs
 国際連合が掲げる持続可能な開発目標、すなわちSDGsの17のゴールのうち、12番目の目標である「持続可能な生産消費形態を確保する(Ensure sustainable consumption and production patterns)」のひとつとして、2030年までに、飲食業、小売業や消費者の段階での一人当たりの食品廃棄量を半分に減らし、食料生産からサプライチェーンでの食品ロスを減少させるとしています。国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)が本年4月にまとめたレポートによると、2022年に世界では10億5千万トンの食料が廃棄され、その内訳は外食、給食、飲食業などから2億9千万トン、小売業からは1億3千万トン、家庭からは6億3千万トンでした。

2 国内の現状
 政府は 2030 年度までに 2000 年度に980万トンだった食品ロス量を半減させる目標を数年前に設定しました。本年6月、2022年度の推計値が公表され、前年に比べて50万トン減少して472万トンとなり、削減目標を達成しました。しかし、これはコロナウイルスのパンデミックにより事業系食品ロスが大幅に減少した影響と考えられ、政府では一層の取り組みが必要としています。

3 飲食店の食品ロス対策と課題
 国内の食品ロスは家庭系、事業系に分類され、それぞれ236万トンとなっています。飲食店での食品ロスは事業系の約3割、80万トンを占めており、主な発生要因は作りすぎや食べ残しです。
 12月から1月の忘年会、新年会シーズンの間、全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会では、外食時の「「おいしい食べきり」全国共同キャンペーン」を展開しています。その中では、「宴会5箇条」(適量注文、おいしく食べきりの声掛け、食べきりタイム(「30・10運動」)、食べきれないものは仲間で分ける、持ち帰り)の普及や小盛りサイズメニュー導入などを要請しています。
 飲食店で発生している食品ロスの約5割が消費者による「食べ残し」との推計があり、飲食店での「食べきり」に加えて「食べ残し持ち帰り」が食品ロスの減少に大きく貢献する可能性があります。しかし、「食べ残し持ち帰り」には食中毒などのリスクへの懸念から抵抗感がある飲食店も少なくないようです。

4 食べ残し持ち帰りガイドラインの策定
 飲食店での食品ロス削減は、お客自身が食事の適量を理解して、食べ切れる量を注文し、その場で食べ切ることが最も望ましく、小盛や小分けのメニューを提供してポーションコントロールを可能とする対応が必要となります。
 消費者庁はこうしたお客と飲食店が食べ切りのための取組を実践してもなお、食べ切れなかったものは両者の協力と相互理解の下、お客が持ち帰って食べることが有効な方法としています。そこで、消費者庁と厚生労働省は飲食店が民事上、食品衛生上留意すべき事項とお客が求められる行動を整理し、「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン~SDGs目標達成に向けて~」を策定しています。12月12日に開催された第2回 食べ残し持ち帰りに係る法的取扱いに関するガイドライン検討会に提出されたパブリックコメント実施後のガイドラインのほぼ最終と思われる案の要旨を私なりに以下にまとめましたので参考にしていただきたいければと思います。
 このガイドラインは、円滑な「食べ残し持ち帰り」の実施のため、飲食店とお客両者の合意の内容を明確にして、お客の衛生上のリスクの把握や飲食店の民事上のリスク、衛生上のリスクの予見可能性を高めることが重要としています。すなわち、「食べ残し持ち帰り」に当たって、あらかじめ、持ち帰りの際の留意点、利用規約をお客に説明したり、チラシを渡すことが有効としています。特にお客は食中毒リスクなどを十分な理解の上、 持ち帰る際、持ち帰った後の食品の管理の責任が基本的に自らにあることを十分に認識し、飲食店からの事前説明事項を適切に遵守することが求められます。

(1)民事上の留意事項
 飲食店はお客が客席などの特定の場所で短時間のうちに食べ切ることを前提として、提供する飲食物の安全性を確保する義務を負っています。お客にはこの特定の場所から提供された飲食物を持ち出さないという制約があり、食べ残したものを自由に持ち帰ることはできないと考えられます。
 したがって、飲食店は、お客が食べ残しを持ち帰ることを申し出ると、お客との間で新たに「持ち帰り」に関する合意をすることになります。この際、飲食店はお客に対して、①生ものなど食中毒の可能性が高い飲食物については「食べ残し持ち帰り」に合意しない、②持ち帰りに合意する飲食物の種類、持ち帰る際の飲食物の状態を考慮して、持ち帰って食べる際の安全性に関する注意事項の説明を行うなど義務が生じます。飲食店がこれらを行わずにお客に損害が発生した場合には、持ち帰りに合意した飲食店に必要な判断や説明を怠ったなどの問題が発生する可能性があるとしています。

(2)衛生上の留意点
 飲食店は、食品衛生法に基づき「HACCPに沿った衛生管理」を行い、十分な加熱、冷蔵保管など提供する飲食物を短時間のうちに食べ切ることを前提として、安全性を確保しています。したがって、「食べ残し持ち帰り」には一定の食中毒リスクが生じること認識した上で、お客からの要望があった場合に対応することとなります。
 持ち帰り可能とする食品は、十分に加熱されたものなど飲食店が認めた範囲に限り、生ものなどは避けます。お客は速やかに帰宅する必要がありますが、帰宅までの時間が長くなる場合や気温が高い季節は食品の安全性の維持が難しくなるので、飲食店の判断により持ち帰りを断念します。
 「食べ残し持ち帰り」に当たっては、発熱や下痢などの体調不良のない大人が飲食店が用意した清潔な容器や箸などを使って、食べ残しを移し替えます。フードコートなどでは、異なる飲食店の食品を同一の容器に詰めないようにします。帰宅後、すぐに食べない場合には、冷蔵庫に保管する必要があります。また、異味、異臭などを感じた場合は食べないこととします。飲食店において手を付けた食品は本人が食べ、譲渡を行う場合は食物アレルギーがある人には譲渡しないこととします。なお、食べた後に体調不調があった場合には、医療機関等を受診し、必要に応じて、保健所、当該飲食店に連絡します。
 なお、食品衛生法上は、「食べ残し持ち帰り」を禁止する規定はありません。飲食店がお客に提供した段階で食品の「販売」は終了しているため、お客が食べ残しを持ち帰る場面において食品衛生法上の新たな義務は生じません。また、飲食店が設備を設けて飲食させる場合は、基本的に食品表示基準の対象外とされているので、飲食店で食べ残しを持ち帰る場合も表示の義務は生じません。

5 まとめ
 このガイドラインでは、飲食店でお客が食べきることが重要とし、やむを得ず「食べ残し持ち帰り」をする場合は、飲食店が持ち帰り可能な食品の範囲を判断し、注意事項、利用規約などを説明する、チラシを配布するなど民事上や衛生上のリスクの低減を図りながら、お客も自己責任の下に持ち帰ることを認識して、飲食店、お客両者の協力と理解のもと、持ち帰りの取組を促進することが求められています。