食品衛生行政の動き(国を中心に) 2025年1月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 第10回食品ロス削減推進会議の開催

 政府では12月24日、食ロス削減推進会議を開催し、「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」改正素案、「食品寄附ガイドライン」及び「食べ残し持ち帰り促 進ガイドライン」を公表しました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/meeting_materials/review_meeting_002/040584.html


2 令和6年度輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果(中間報告)の公表

 厚生労働省は12月20日、令和6年度輸入食品監視指導計画に基づく、令和6年4月から同年9月までの監視指導結果(中間報告)を公表しました。
 この間の輸入届出の件数は1,248,232件[1,197,058件]、重量は約11,696千トン[約11,098千トン]、検査104,714件[102,256件]数値)を実施し、うち374件[379件]を食品衛生法違反として、積み戻しや廃棄等の措置を講じました。
注 [ ]内は前年度同期間の実績値、今年度の数値はいずれも速報値

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_46917.html


3 「いわゆる「健康食品」・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領」の一部改正

 厚生労働省は12月27日、 「いわゆる「健康食品」・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領について」 の一部改正について都道府県等に通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/001368553.pdf


4 消費者庁が消費者委員会に対して食品表示基準の改正案を諮問

 消費者庁は12月25日、消費者委員会に①栄養強化目的で使用した食品添加物に係る表示免除規定の削除、➁栄養素等表示基準値等の改正、➂個別品目ごとの表示ルールの見直しを行う旨について諮問しました。

https://www.caa.go.jp/notice/entry/040562/


5 保健機能食品等に関する説明会の開催

 消費者庁及び農林水産省は12月26日、保健機能食品等に関する説明会を開催し、機能性表示食品、特定保健用食品、特別用途食品、栄養成分表示等について説明が行われました。この中で機能性表示食品の表示基準のうち、「天然抽出物等を原材料とする錠剤、カプセル剤等食品」として届出を要しない食品(すなわちGMP規制の対象から除外される食品)の考え方の案として、①最終製品において、本来天然に存在するものと成分割合が異なっていないもの、➁最終製品(1包装等)の全てを摂取しても、成分の摂取量が本来天然に存在するものと同等程度と思われるものが示されました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_health_claims/info_session/


6 消除予定添加物名簿の作成に係る販売等調査及び 既存添加物「5’-デアミナーゼ」の基原等調査を通知

 消費者庁は12月27日、既存添加物の消除予定添加物名簿の作成に係る販売等調査及び既存添加物「5’-デアミナーゼ」の基原等調査の周知について都道府県等に通知しました。販売等の実態が無いと認める既存添加物について、名簿を作成し、必要な手続を経て、既存添加物名簿から消除する本手続きにより、現在までに132品目が消除されました。今般、8品目について販売等の実態の調査、一品目の基原等調査を行うことしたものです。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/common_knowledge/


7 「錠剤、カプセル剤等食品の原材料の安全性に関する自主点検及び製品設計に関する指針(ガイドライン)」及び「錠剤、カプセル剤等食品の製造管理及び品質管理(GMP)に関する指針(ガイドライン)」の一部改正

 消費者庁は12月27日、「錠剤、カプセル剤等食品の原材料の安全性に関する自主点検及び製品設計に関する指針(ガイドライン)」及び「錠剤、カプセル剤等食品の製造管理及び品質管理(GMP)に関する指針(ガイドライン)」を改正し、都道府県等に通知しました。主な改正内容は、①微生物等関連原材料の同等性/同質性の規格及び試験検査の方法、➁「微生物等関連原材料を用いる錠剤、カプ セル剤等食品の製品標準書の作成に関する指針(微生物等関連原材料指針)」の追加等でした。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/health_food/assets/cms_standards107_241227_01.pdf


8 欧州委員会は容器などの食品接触部分へのビスフェノールAの使用を禁止

 欧州委員会は12月19日、容器などの食品接触部分へのビスフェノールA(BPA)の使用禁止を決定しました。 この措置により、金属缶、プラスチック飲料ボトル、給水クーラー、その他の台所用品のコーティングなど、食品や飲料と接触する製品へのBPAの使用が禁止されます。EFSAは、BPAが免疫系に有害な影響を及ぼす可能性があるとしています。

https://food.ec.europa.eu/food-safety-news-0/commission-adopts-ban-bisphenol-food-contact-materials-2024-12-19_en


9 米国FDAが着色料赤色3号の使用許可を取り消し

 米国食品医薬品庁(FDA)は1月15日、連邦食品医薬品化粧品法 のデラニー条項に基づき、着色料赤色 3 号の使用許可を取り消すことを公表しました。高用量の赤色 3 号がラット特有のホルモン機構により雄ラットにがんを引き起こしますが、ヒトには発生せず、人への健康影響は、入手可能な科学的情報によって裏付けられていません。しかし、デラニー条項では、食品添加物または着色料が人間または動物にがんを引き起こすことが判明した場合、認可を禁止することを求めています。食品および医薬品に FD&C 赤色 3 号を使用するメーカーは、それぞれ 2027 年 1 月 15 日または 2028 年 1 月 18 日までに製品の配合を変更する必要があります。

https://www.fda.gov/food/hfp-constituent-updates/fda-revoke-authorization-use-red-no-3-food-and-ingested-drugs

(参考)消費者庁の赤色3号Q&A
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/qa_erythrosine


(解説)「循環型食料システムと食品安全(FAO報告書より)」

1 はじめに
 循環型の食料の生産、流通、消費は、国連のSDGs、持続可能な開発目標を達成するための重要な課題です。昨年10月、FAO(国連食糧農業機関)は、「循環型社会における食品安全」に関する報告書(https://openknowledge.fao.org/items/86013cbe-5172-42aa-954a-fcee0e65e935)を公表しました。この報告書では、循環型食料システムの構築は環境や社会経済の持続可能性を高める一方、循環プロセス中で細菌、カビ、寄生虫、汚染物質や農薬、異物などの危害の要因が持ち込まれ、また蓄積される懸念があるとして、特にリサイクル水の利用、食品ロスと食品廃棄の低減化、食品包装廃棄物対策、土地の効果的利用に着目して食品安全上の課題をまとめています。また、今後の課題として消費者教育の重要性についても言及しています。
以下、報告書の概要について、国内の類似の課題も踏まえて、その一部をご紹介します。

2 リサイクル水の利用
 日本は水資源が豊富なためイメージが湧きにくい分野ですが、水資源の限られた地域では産業用水などに一度使用された水をリサイクルして使用することがあり、微生物、化学物質などの制御が課題となります。報告書ではカリフォルニア州の実例が示されています。カルフォルニア州の乾期の山火事については最近も報道されていますが、干ばつによる水不足により農業生産にも大きな被害が出ています。農作物の灌漑には通常、河川や湖沼の水、地下水が使用されますが、カリフォルニア州ではろ過や消毒などの処理を行ったリサイクル水の使用も認められています。
 干ばつ時には農作物のほか、家畜にも安全で信頼性の高い水を供給する必要があり、殺菌済みのリサイクル水の使用の可否が検討されました。化学物質が食品の安全性や肉や卵の品質に影響を与える可能性は低いとされたものの、牧場の使用水に消毒済みの三次リサイクル水を使用する場合には、と畜施設廃棄物、動物園廃棄物、濃縮された産業排水などに使用した水を避け、使用前に紫外線や消毒が必要とされました。

3 食品ロス、食品廃棄の低減化
 食品のロスや廃棄の低減化については、過剰生産の防止、食品寄付などの余剰食品の再分配、飼料へのリサイクルや食品副産物からの添加物などの製造、バイオマスによるガス生成や肥料利用など様々な取り組みが進められています。
 食品廃棄物には微生物、化学物質、異物などがリサイクル、付加価値化プロセスを通じて持ち込まれ、維持され、場合によっては増加する可能性があり、その結果、食品の安全性上の課題となります。事業系、家庭系いずれの食品廃棄物にもリステリア、サルモネラ、エルシニアなどの食中毒細菌が検出されます。こうした食品廃棄物を飼料として使用する場合、十分な加熱することで病原菌を殺菌することが重要です。また、食品廃棄物からつくられた有機肥料からは 食中毒菌などの検出されることがありますが、堆肥は、適切に熟成することにより病原菌を十分減少させることができます。

4 食品包装廃棄物
 プラスチックの食品包装廃棄物は海洋汚染問題もあって注目度が高く、リユース、リサイクル、さらには安全で持続可能な代替品開発が進められています。こうした取組に当たっては、代替品を使用する、不要な包装をなくすことが重要なのですが、同時にプラスチック包装のメリットが損なわれないようにする配慮も必要です。
 こうした中で、代替品開発に当たっては安全性に問題を生じることもあり、カップの原材料にメラミン樹脂と混合した竹の成分を使用したところ、メラミンやホルムアルデヒドの食品への移行レベルが高くなり、リコールが必要となりました。また、消費者にアレルゲン、賞味期限、栄養情報などを示す表示ラベルは削減が難しいのですが、表示に使用されるインクや接着剤の成分は、リサイクル工程の障害になったり、リサイクル材料への移行が問題となる場合があります。
 最も大きい課題のひとつに多層プラスチックへの対応があります。多層プラスチックを使用した包装は、酸素や紫外線を遮断するバリア機能が高く、加えて商品の強度を上げて保存性や輸送性を大きく向上させるため、レトルトパウチ、茶や鰹節などの密封包装、マヨネーズ容器、パックライス容器、スナック菓子包装など多くの食品に使用されています。しかしながら、現時点では多層包プラスチックはリサイクルが難しいとされています。
 現在、食品接触材料にリサイクルできるプラスチックは、使用済みポリエチレンテレフタレート(PET)です。欧州食品安全機関(EFSA)では食品に使用されたPETに加えて、食品以外の材料または物質と接触して使用されたPETを最大5パーセントまで混合することが可能としています。

5 土地の効果的利用
 輪作などの伝統的な循環型農業は、土壌の栄養を効率よく保持し、病害虫の脅威を軽減するなどのメリットがあり、現代の農業食品システムでも活用されています 。また、統合型農業は、農業生産の流れをより相乗的にすることで、土地の利用効率を向上させ、廃棄物を効果的にリサイクルしようとするものです。
 田んぼでのアヒルの放し飼いは、アジアの一部で長年行われている伝統的な農法であり、農業の循環性を改善し、気候変動に適応するための低コストの解決策として関心が高まっています 。しかし、アヒルなどの水鳥が、サルモネラ症や大腸菌症、トキソプラズマ、寄生虫などのさまざまな人獣共通感染症の病原体保有者継続していることが原因であると推測され、アヒル肉の摂取には感染リスクが伴うことなどが指摘されています。

6 消費者教育が必要な食品衛生上の懸念
 消費者が食品廃棄防止策として、まだ食べられる食品を捨てずに安全に食べることは重要ですが、目に見えるカビ、腐敗、異臭のみで食用の可否を判断することは避け、期限表示に基づいて判断するべきです。また、目に見える腐敗やカビの生えた部分を取り除いて食べることも、目に見えない細菌やカビ、カビ毒によるリスクがあります。
 また、外食で残った食べ物を持ち帰って食べることも、食品廃棄を避けるために消費者に勧められる習慣です。しかし、常温、長時間など不適切な保管により、微生物の増殖や毒素生成が起こる可能性があります。さらにエコバッグの内側に肉汁、冷凍食品のグレーズなど汚染源となるものが付着し、そのまま生野菜、そうざいなど加熱せずに消費される食品に使用すると、細菌が付着し、食中毒リスクが高くなるので、日ごろからのエコバッグの洗浄や消毒は欠かせません。

7 おわりに
 この報告書では、循環型経済の構築にあたって、食品安全に対する配慮は極めて重要としていますが、現時点では、循環プロセス、リユース、リサイクル材料のリスク評価に必要なデータが十分ではなく、研究を推進し、様々なイノベーションをサポートすることを求めています。また、消費者には、教育とリスクコミュニケーションが最も効果的としています。