食品衛生行政の動き(国を中心に) 2025年2月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 食品衛生責任者の要件に管理栄養士を追加

 厚生労働省は12月27日、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令」により、食品衛生法施行規則の一部を改正し、食品衛生責任者の要件に管理栄養士を加えました(施行日は令和7年4月1日)。
 栄養士法の改正により令和7年4月1日以降、管理栄養士の養成施設の卒業者は栄養士免許を取得しなくても管理栄養士国家試験を受けることができるため、食品衛生管理者の資格要件に現在規定されている栄養士に加え、管理栄養士を追加したものです。

https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/hourei/H250106H0010.pdf

「営業許可申請・届出等に関する様式、記載要領及び添付書類の取扱いについて」の一部改正(1月24日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001385223.pdf


2 「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン~SDGs目標達成に向けて~」の周知

 消費者庁と厚生労働省は1月27日、「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン~SDGs目標達成に向けて~」について、都道府県等に対して同ガイドラインの趣旨を理解の上、消費者及び食品関係事業者に対して、周知するよう通知しました。

(ガイドライン)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/conference/assets/consumer_education_cms201_241225_02.pdf

(周知依頼通知)
https://www.mhlw.go.jp/content/001386222.pdf


3 営業届出対象となる高度な機能を有する自動販売機リストの更新

 厚生労働省は2月3日、調理機能を有する自動販売機のうち、営業届出の対象となる「高度な機能」の条件を満たす自動販売機の機種のリストの更新について、都道府県等に通知しました。なお、本リストに掲載されていない調理機能を有する自動販売機は営業許可が必要です。

https://www.mhlw.go.jp/content/001393101.pdf


4 既存添加物「ゴム」の成分規格の制定など

 消費者庁は1月23日、食品、添加物等の規格基準の一部を改正し、既存添加物「ゴム」、「単糖・アミノ酸複合物」の成分規格の制定、「分岐シクロデキストリン(粉末品)」の成分規格の一部改正等を行いました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/assets/cms_standards102_250123_01.pdf


5 食品、添加物等の規格基準等の改正

 消費者庁は2月10日、食品、添加物等の規格基準の一部を改正する告示及び食品衛生法第13条第3項の規定により人の健康を損なうおそれのないことが 明らかであるものとして内閣総理大臣が定める物質の一部を改正する告示を改正しました。前者では農薬、動物用医薬品16物質について食品中の残留基準値を設定又は改正し、後者では1物質をポジティブリストの対象外物質に追加しました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/pesticide_residues/notice/assets/standards_cms208_250210_01.pdf


6 食用赤色3号のQ&A

 消費者庁は1月17日、米国FDAの食品添加物「食用赤色3号」の食品への使用許可を取り消す旨の決定を受け、「食用赤色3号のQ&A」を公表しました。また、2月18日に開催した食品衛生基準審議会添加物部会におけるとりまとめを踏まえ、食用赤色3号については、食品添加物としての通常の使用の範囲内では安全性上の懸念はないとしました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/qa_erythrosine


7 既存添加物「キナ化合物」の使用実態調査

 消費者庁は2月14日、既存添加物「キナ抽出物」の使用実態調査について、都道府県等に周知を依頼する旨を通知しました。 既存添加物「キナ抽出物」について食品添加物としての使用に関しては安全性に懸念がないとされたものの、主成分のひとつであるキニーネについて、生殖発生に関する懸念を示唆する情報が報告されたことから、キナ抽出物が使用されている製品を介したキニーネの摂取実態を把握するため、現在のキナ抽出物の使用実態について調査するものです。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/common_knowledge_002/assets/cms_standards102_250214_01.pdf


8 令和6年度第5回食品衛生基準審議会

 消費者庁は1月30日、食品衛生基準審議会を開催し、曽根智文国立保健医療科学院院長を審議会会長に選出し、会長代理の指名、部会に所属する委員の指名等を行いました。

https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/review_meeting_001/040918.html


9 令和6年度第1回食品衛生基準審議会食品規格・乳肉水産・伝達性海綿状脳症対策部会

 消費者庁は2月10日、食品衛生基準審議会食品規格・乳肉水産・伝達性海綿状脳症対策部会を開催し、ミネラルウォーター類中のPFOS及びPFOAの規格基準を合算値として5×10-5 mg/L(50 ng/L)と設定すること等について審議し、調製粉乳及び調製液状乳に係る承認手続について(案)について報告しました。

https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/review_meeting_006/041076.html


10 「食品期限表示の設定のためのガイドライン」の改正案に関する意見募集

 消費者庁は2月7日から3月10日までの間、「食品期限表示の設定のためのガイドライン」の改正案の意見を募集しています。改正案では、食品の特性等に応じて、期限設定の際に用いる「安全係数」を1に近づけること、レトルトパウチ食品や缶詰の食品など品質のばらつき等の変動が少なく、安全性が十分に担保されている食品については、安全係数を考慮する必要はないこと等としています。

https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&Mode=0&id=235080081


11 アニサキスのリスクプロファイルを公表

 食品安全委員会は1月21日、「アニサキスのリスクプロファイル」を公表しました。アニサキスは、食中毒事件数で上位を占める病因物質で、主にアニサキス科線虫の幼虫が人体内で胃や腸などに穿入し、胃腸炎などの症状を引き起こします。

https://www.fsc.go.jp/risk_profile/index.data/250121AnisakisRiskprofile.pdf


12 2024年の農林水産物・食品の輸出額は1.5兆円超

 農林水産省は2月4日、2024年の農林水産物・食品の輸出額が1兆5,073億円となり、初めて1.5兆円を超えたことを公表しました(※解説参照)。

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_info/zisseki.html


13 新たな食料・農業・農村基本計画策定に向けた意見募集の開始

 農林水産省は2月7日、食料・農業・農村基本計画の策定に向けて、国民から意見・要望の募集を開始しました。令和6年6月に改正された食料・農業・農村基本法に基づく新たな食料・農業・農村基本計画の策定について食料・農業・農村政策審議会企画部会において議論が行われ、2月5日に計画の骨子案が示されました。

https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kihyo01/250207.html


14  米国FDAは、包装食品の前面栄養表示の義務付けを提案

 米国FDA(食品医薬品局)は1月14日、包装食品にパッケージ前面 (FOP) の栄養表示を義務付けることを提案しました。表示の対象となる成分は飽和脂肪、ナトリウム、添加糖分の含有量としています。

https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-proposes-requiring-glance-nutrition-information-front-packaged-foods


(解説)「昨年も過去最高額となった日本産農林水産物・食品の輸出」

 農林水産省は2月4日、2024年の農林水産物・食品の輸出額が前年より3.7%増加して1兆5,073億円となり、初めて1兆5,000億円を超えて過去最高となったことを公表しました。

 国・地域別の輸出額では、米国、台湾、韓国、ベトナム、タイなどその他の主要な国・地域向けが10%を超えて増加し、中国向けが29%、香港向けが6%と大きく減少しました。これにより20年ぶりに米国が1位(2,429億円)となり、加えて3位台湾(1,703億円)、5位韓国(911億円)への輸出額が拡大し、2021年以降、最大の輸出先だった中国は4位(1,681億円)となりました。

 品目別の上位は、1位がウイスキーや日本酒などのアルコール飲料、2位は生鮮・冷蔵・冷凍のホタテ貝、3位は牛肉で、近年これらが主要な輸出品目となっています。1位のアルコール飲料の輸出額は1,337億円で、日本酒が2年ぶりに増加し、主な輸出先は中国、米国、香港でした。米国向けの輸出が25%増え、中国向けや香港向けが減少したものの、総額で前年を上回りました。一方、ウイスキーは原酒の不足や3年前のジャパニーズウイスキーの定義の厳格化などが影響して、2年連続で輸出額が減少しています。2位のホタテ貝の輸出額は695億円で、前述のALPS処理水放出後の日本産水産物に対する輸入規制強化により中国向けがゼロになるなどの大きな影響が出ています。しかし、米国さらにはベトナム、タイへの輸出が大幅に増加し、総額では昨年比で0.9%増となりました。3位の牛肉の輸出額は648億円で、前年よりも70億円、12%増となりました。米国、台湾、香港、EU諸国が輸出先の上位で、近年UAE、インドネシアなどのイスラム諸国への輸出も増加しています。そのほかの主な農産物では、米国や香港などですしやおにぎりなどの外食の需要が増加しているコメ、台湾などで人気が高いリンゴ、ラテやスイーツへの需要が高い緑茶、ぶどう、かんしょ、ながいも、もも、かんきつなどが輸出額を伸ばしました。

 このように、ALPS処理水放出に伴う水産物の輸入規制の強化や景気の後退などで、一昨年までトップだった中国向け輸出が減少しました。一方、経済が好調で外食需要が高い米国や他のアジア諸国への輸出が増大し、総輸出額の増につながりました。

 こうした輸出の順調な伸びは、輸出先国政府の規制への対応、賞味期間の延長、様々なマーケット特性への対応、プロモーション、価格交渉など関係者の粘り強い努力に支えられています。特に輸出先国の規制への対応は食品安全基準、動物の伝染病や植物の病害虫の検疫、表示、動物福祉など多岐にわたっており、政府では日本産農林水産物・食品の輸出実行計画を策定して政策的にサポートを強化しています。特に牛肉やホタテ貝などの水産物に代表される動物性食品については、国際的にも食品安全リスクが高い食品とされており、厳しい規制への対応が必要となります。まずは輸出施設認定、安全基準への対応、輸出証明書の発行などが必要となるほか、輸出開始後も規制への適合性の維持するための施設・設備の修繕や改善などの維持管理、輸出先国政府の担当官の査察の受け入れ、食品中の医薬品や農薬、環境汚染物質などの検査、病原菌検査などを継続する必要があります。

 また、加工食品では食品添加物規制が国ごとに異なるため、変更や使用を断念せざるを得ない場合もあります。ビジネス上、流通期間が長い方が有利なため、半年から1年以上の賞味期限が求められるケースも多く、製法、原材料、添加物、包装などを変更する必要が生じます。こうした対応は、安全規制が厳しいとされる欧米だけではなく他の国・地域への輸出にも必要な場合が多々あります。さらに輸出先での輸入検査は、中国では証明書類、台湾では残留農薬検査、韓国では放射能検査など国、地域によって重点が異なるようなので、こうした情報にもアンテナを高くして対策を講じる必要もあります。

 加えて、安全性が確認されている日本産水産物に対してALPS処理水放出に伴い突如、輸入規制を行う国や地域がありましたが、このような規制やマーケットの予測可能性が低い国・地域に輸出先が偏っている品目は、輸出先の多角化も重要です。

 政府では日本産農林水産物・食品の輸出額の目標を2025年に2兆円、2030年に5兆円としており、規制対応に限らず、様々なハードルを乗り越えて、さらなる輸出増に向けて取り組んでいくことが農林水産業や食品産業の振興だけではなく、地域の創生や活性化にもつながると期待されています。