食品衛生行政の動き(国を中心に) 2025年4月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 令和6年食中毒発生状況

 厚生労働省は3月26日、第3回厚生科学審議会食品衛生監視部会を開催し、令和6年食中毒発生状況、令和7年度輸入食品監視指導計画(案)等について報告しました(令和6年食中毒発生状況については解説を参照ください。)。

(部会資料)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_53849.html

(令和6年食中毒発生状況)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html


2 と畜場、食鳥処理場におけるHACCPの外部検証結果

 厚生労働省は3月 26日、全国のと畜場、食鳥処理場における「HACCPに基づく衛生管理」の外部検証成績の概要をとりまとめ、都道府県等に通知しました。
 と畜場、食鳥処理場については、令和2年からHACCPに基づく衛生管理が制度化され、都道府県等のと畜検査員、食鳥検査員による外部検証が行われています。本調査結果は令和2年度から令和4年度に実施された試験結果全体の解析を行ったもので、その概要は牛肉、豚肉、鶏肉の一般生菌数、腸内細菌科群数、鶏肉のカンピロバクターいずれについても、年次変動、季節変動はなくほぼ一定範囲内の値となり、生産現場の衛生状態の上限指標として95パーセンタイル(≒「平均値+2×標準偏差」)が一つの目安としました。
https://www.mhlw.go.jp/content/001463477.pdf


3 有毒植物の誤食防止に関する注意喚起

 厚生労働省は3月 27日、有毒植物の誤食による食中毒防止の徹底について、都道府県等に対し注意喚起を要請しました。例年、春先から初夏にかけて、有毒植物の誤食による食中毒が多く発生し、令和6年もイヌサフラン、バイケイソウ、スイセン等の有毒植物の誤食による食中毒事例(事件数14件、患者数24名、死者数2名)が報告されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/001476148.pdf


4 「令和6年度食品、添加物等の年末一斉取締り」の実施結果の公表

 厚生労働省は3月27日、「令和6年度食品、添加物等の年末一斉取締り」の実施結果を公表し、都道府県等に通知しました。主な内容は、食肉を取り扱う施設20,808施設に立ち入り、生食用としての販売・提供の中止(132施設)、加熱不十分な食肉の調理方法の改善(764施設)、加熱不十分な食肉の販売・提供の中止(183施設)を指導したほか、大量調理施設9,788施設に立ち入り、4,764施設に対して改善を指導したとのことでした。
https://www.mhlw.go.jp/content/001465200.pdf


5 令和7年度輸入食品監視指導計画の公表

 厚生労働省は3月27日、輸入食品監視指導計画(食品衛生法に基づき輸入食品等の安全性を確保するため、輸出国における生産段階から輸入後の国内流通までの各段階における対策を毎年度定めるもの)を公表しました。また、3月28日には令和7年度の法違反リスクの高い食品に対する検査命令、令和7年度のモニタリング検査計画について、検疫所あて通知しました。

(輸入食品監視指導計画)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200506_00003.html

(検査命令通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56304.html

(モニタリング検査実施通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000201772_00008.html


6 災害時の避難所における炊き出しに関する食品衛生法上の取扱い

 厚生労働省は3月27日、 災害時の避難所における炊き出しに関する食品衛生法上の取扱いについて、都道府県等に通知しました。これは、規制改革推進会議において、災害時の炊き出しによる食事の提供について、営業行為に当たらず都道府県知事等の許可を必要としない場合の考え方を明確化するよう求められ、対応したものです。
 本通知では、災害時の避難所において、事業者がボランティアとして被災者に炊き出しで食事を提供する行為は、一般には営業とは判断されないと考えられる等詳細について示しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/001465145.pdf


7 令和6年度野生鳥獣肉の衛生管理等に関する実態調査の結果

 厚生労働省は3月31日、令和6年度野生鳥獣肉の衛生管理等に関する実態調査の結果をとりまとめ、都 道 府 県等に通知しました。特に消化管内容物による肉への汚染防止措置が十分ではないなどのガイドラインの遵守状況に課題が確認されたため、関係事業者への指導を要請しました。
https://www.mhlw.go.jp/content/001468760.pdf


8 食品中の放射性物質に係る検査計画、出荷制限等の見直し

 政府の原子力災害対策本部は3月31日、東京電力(株)福島第一原子力事故に伴う食品中の放射性物質対策について、令和6年度の検査結果等を踏まえて、「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」を改正し、検査対象自治体、検査対象品目等を見直しました。
https://www.mhlw.go.jp/content/001468182.pdf


9 「食品ロス削減の推進に関する基本的な指針」の閣議決定

 政府は3月25日、「食品ロス削減の推進に関する基本的な指針」を閣議決定しました。第1次基本方針において設定した食品ロスの削減目標(家庭系食品ロスと事業系食品ロス共に、2000年度比で2030年度までに食品ロス量を半減)のうち、事業系については2030年度目標を8年前倒しで達成したことから、新たな目標を60%減と設定し、更なる削減の取組が進むよう「食べ残し持ち帰りガイドライン」、「期限表示設定のためのガイドライン」、「食品寄付ガイドライン」の周知などの具体的な施策を追加しました。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/promote/assets/consumer_education_cms201_250325_01.pdf


10 機能性表示食品に係る届出等に関する告示の改正等

 消費者庁は3月25日、機能性表示食品に係る届出の方法、遵守事項、報告等に関する告示を改正しました。従来「機能性表示食品の届出等に関するマニュアル」で規定していた事項を告示や新たに作成した「機能性表示食品の届出等に関する手引き」に規定するなど所要の改正を行いました。

(告示)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms205_250325_01.pdf

(手引き)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/notice/assets/food_labeling_cms205_250325_02.pdf

(質疑問答集)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/notice


11 食品表示基準の改正

 消費者庁は3月28日、食品表示基準(内閣府令)の一部を改正し、栄養強化目的で使用した食品添加物に係る表示免除規定の削除、栄養素等表示基準値等の改正及び個別品目ごとの表示ルールの見直しを行い、あわせて関係通知(「食品表示基準について」、「食品表示Q&A」等)を改正しました。

(内閣府令)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1012.pdf

(「表示基準について」)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1018.pdf

(「食品表示基準Q&A」)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1031.pdf

(「食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン」)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/nutrient_declearation/business/


12  令和7年度食品の安全性に関する有害化学物質及び有害微生物のサーベイランス・モニタリング年次計画の公表

 農林水産省は3月31日、令和7年度食品の安全性に関する有害化学物質及び有害微生物のサーベイランス・モニタリング年次計画を公表しました。
https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/seisaku/attach/pdf/250331-1.pdf


13 カドミウム基準値を超えるコメの流通

 農林水産省は4月4日、秋田県においてカドミウム基準値(0.4ppm)を超える米の流通が確認され、自主回収が行われたため、関係自治体と連携し、関係流通事業者の協力を得て対応している旨公表しました。また、消費者庁は同日、短期間、基準値を超過した米を食べてしまった場合でも健康に悪影響が生じる可能性は低いと考えられる旨をQ&Aに追記しました。

(第1報)
https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/seisaku/250404.html

(第2報)
https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/kansa/250411.html

(「米に含まれるカドミウム」に関するQ&A(消費者庁))
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/cadmium/faq


14 「食料・農業・農村基本計画」の閣議決定について

 政府は4月11日、改正食料・農業・農村基本法に基づく、新たな「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定しました。生産基盤の強化、食料自給率・食料自給力の向上を通じて食料安全保障の確保等を様々な環境変化に対応する政策を進めるとしており、概ね5年ごとに変更することとされています。
https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kihyo01/250411.html


(解説)令和6年の食中毒発生状況

1 概要
 令和6年に報告された食中毒は、事件数1,037件、患者数1万4,229人でした。前年と比較すると事件数は微増、患者数は20%増となり、1事件あたりの患者数の増加傾向となりました(以下、括弧内の数値は対前年)。死亡者は3人、患者数500人以上の大規模食中毒事件は1件でした。
 原因施設別では飲食店での食中毒事件が件数、患者数ともに増加し、コロナ禍以前のレベルとなりました。
 病因別ではノロウイルスによる食中毒事件が大幅に増加し、これに伴い1月、2月の事件数、患者数がともに大きく増加しました(1月113件(50%増)、2,912人(170%増)、2月118件(51%増)2,348人(170%増))。
 また、細菌性食中毒が3月から12月に多発し、春や秋には野草やきのこの植物性自然毒による食中毒が見られ、アニサキス食中毒は年間を通じて発生する傾向は従来と同様でした。

2 死者が報告された食中毒事件
 4月に札幌市の家庭で発生した有毒植物イヌサフランの誤食による食中毒で2人、7月に長野市の事業所の寄宿舎で発生した野生毒きのこ(ドクツルタケ、コテングタケモドキ)の誤食による食中毒で1人、計3人の死者が報告されました。

3 大規模食中毒事件
 患者数500名以上の大規模食中毒事件は、8月に大分県で発生した湧き水を飲用や飲食店の調理に使用して発生したノロウイルス食中毒事件で、595人の患者が報告されました。前年にも石川県で湧き水を使用した流しそうめんによるカンピロバクター食中毒事件が報告されおり、湧き水による大規模食中毒事件が2年連続で発生しました。

4 原因施設別発生状況
 原因施設が判明した845件の食中毒事件の内訳を見ると、飲食店での発生が6割以上を占め、事件数548件(12%増)、患者数8,656人(31%増)となり、コロナ禍前のレベルとなりました。
 飲食店で発生した食中毒を病因別にみると、ノロウイルス食中毒が事件数201件(77%増)、患者数5,537人(67%増)で最も多く、次いでカンピロバクター食中毒が165件(9%増)、1,019人(42%減)でした。また、昨年はウェルシュ菌食中毒が22件(140%増)、855人(300%増)と大幅に増加しました。加えて、黄色ブドウ球菌食中毒については2月に姫路市で恵方巻を原因とした患者数150人の事件や7月に横浜市で発生した土用のうなぎかば焼きを原因とした患者数162人の事件が発生し、患者数で前年の5倍となりました。

5 病因別発生状況
 ノロウイルスによる食中毒が事件数276件(69%増)、患者数8,656人(57%増)報告され、大幅な増となりました。原因施設は前述のとおり、飲食店が201件(77%増)、5,537人(67%増)で最も多く、学校や事業所などの集団給食施設では29件(107%増)、851人(140%増)の発生となりました。
 原因食品としては、カキを含む魚介類が17件(4倍)、361人(14倍)、複合調理食品19件(3倍)、839人(4倍)、その他が236件(60%増)、7,386人(50%増)となりました。複合調理食品やその他とされる事件が多いのは、感染した調理従事者の手指を通じてウイルスが様々な調理食品に付着し、食中毒の原因となるためです。

6 まとめ
 全般的としてはノロウイルス食中毒の増加が最も特徴的で、その結果として食中毒患者総数の増加、1事件あたりの患者数の増加、飲食店における食中毒の発生がコロナ禍以前のレベルに戻ることとなりました。ノロウイルス食中毒の発生原因を見ると、近年減少していたカキを原因とする事件が増加しており、生産段階での生食用カキの検査や水質管理の強化が必要です。また、多くのノロウイルス食中毒は感染した調理従事者が原因となっているため、飲食店や大量調理施設での従事者の健康確認に加えて検便など対策の重層化が望まれます。
 次に、患者数の多い食中毒事件をみると、湧き水を原因とした500人を超える大規模食中毒事件が2年連続で発生しており、水道水以外の水を使用する施設は給水設備の管理や水質検査の適切に行うことが求められます。また、恵方巻や土用のうなぎによる患者数100人を超える黄色ブドウ球菌食中毒は調理施設の能力を超える受注が原因であり、繁忙期の受注管理や臨時的に雇用する従事者の衛生教育や健康確認などが非常に重要となります。
 また、飲食店を中心にウェルシュ菌食中毒が増加しており、特に煮物の加熱、再加熱の際のかきまぜや十分な加熱など基本的な衛生管理の再確認が必要です。
 食中毒による死亡者は依然として有毒植物や毒キノコによる発生が原因であり、これらの採取が盛んな地域での住民に対する普及啓発を粘り強く続けることが重要です。