食品衛生行政の動き(国を中心に) 2025年5月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

※文中URLは5月19日現在

1 アフガニスタン産ピスタチオナッツについて検査命令の実施

 厚生労働省は4月18日、アフガニスタン産ピスタチオナッツ及びその加工品について、輸入時の自主検査でアフラトキシンを検出したため、輸入届出ごとに全ロットを命令検査の対象とする旨、各検疫所長に通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57061.html


2 中国産ごまの種子について検査命令の実施

 厚生労働省は5月9日、中国産ごまの種子について、輸入時のモニタリング検査でアフラトキシンを検出したため、輸入届出ごとに全ロットを命令検査の対象とする旨、各検疫所長に通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57637.html


3 フィリピン産そばについて検査命令の実施

 厚生労働省は5月14日、フィリピン産そばについて、輸入時のモニタリング検査でアフラトキシンを検出したため、輸入届出ごとに全ロットを命令検査の対象とする旨、各検疫所長に通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57772.html


4 ノルウェー産牛肉の輸入条件の改正

 厚生労働省は5月16日、ノルウェー産牛肉等の対日輸入条件について、30か月齢以下としていた月齢条件を撤廃し、SRM(全月齢の扁桃及び回腸(盲腸との接続部分から2メートルの部分に限る)並びに30か月齢超の頭部(舌、頬肉、皮及び扁桃を除く。)、脊髄及び脊柱)の除去のみとすることを検疫所等に通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57771.html


5 食品中の食用赤色3号の自主点検要請

 消費者庁は4月21日、都道府県等に対して、錠剤、カプセル剤、粉末剤、ドリンク剤、ドリンク剤類似清涼飲料水等の形態を有し、かつ、一日当たりの目安の摂取量を明示している食品を対象として、事業者に対し食品中の食用赤色3号の含有量等に関する自主点検を指導するよう通知しました。自主点検の結果、想定される食用赤色3号の最大一日摂取量が、欧州食品安全機関(EFSA)及びFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)が定める許容一日摂取量(0.1 mg/kg体重/日)を上回る製品について、食用赤色3号の使用量とともに、報告するよう求めました。
 本件は医薬品の製造販売業者の調査において、一部の品目において、食用赤色3号の含有量、承認された用法・用量から算出される最大一日摂取量が、EFSA及びJECFAが定める許容一日摂取量を上回ることが確認されたことを踏まえたものです。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/assets/cms_standards102_250421_01.pdf


6 食品、添加物等の規格基準の一部改正

 消費者庁は4月23日、食品、添加物等の規格基準の一部を改正し、農薬アクリナトリン等の食品中の残留基準値を改正しました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/pesticide_residues/notice/assets/standards_cms208_250423_01.pdf


7 令和7年度第1回食品衛生基準審議会の開催

 消費者庁は4月25日開催した令和7年度第1回食品衛生基準審議会は、ミネラルウォーター類のうち殺菌又は除菌を行うものについて、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及び ペルフルオロオクタン酸(PFOA)の基準値を合算値として0.00005 mg/l (50ng/l)に設定することを了承しました。本基準は水道水質基準の改正の施行日(現在の案は令和8年4月1日)に施行予定とし、施行日前に製造・輸入されたものを加工・使用・調理・保存・販売する場合には適用しないこととしました。

https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/review_meeting_001/042031.html


(解説)米国の食中毒事情

1 はじめに
 前号では昨年国内で発生した食中毒について、厚生労働省の食中毒統計をもとにご紹介しました。今月は米国の疾病管理予防センター(U.S. Centers for Disease Control and Prevention、以下「CDC」)が本年4月にまとめた研究報告をもとに米国の食中毒事情について日本と比較しながら触れたいと思います。

2 食中毒被害の統計学的推計
 下痢や嘔吐など食中毒症状があっても、医師に診断され、かつ行政当局に報告されて統計に計上される患者は限られています。CDCはノロウイルスやカンピロバクターなど米国の主要な食中毒の原因となる7種類の病原体について、連邦政府や州政府が収集したデータなどをもとに全米での年間の発生総数を推計しています。こうした食中毒の社会的な影響を把握する研究は公衆衛生政策の目標設定、予算や人員などの公的資源の対策への配分、経済影響の評価などの政策決定に重要なものです。
 この推計は、病原体ごと、地域ごとに集団発生や散発事例、医療機関の受診情報などのサーベイランス情報、これらに関連する周辺の未報告例、未診断例のデータを収集し、まずサンプルとなった地域の食中毒被害の推計値を計算します。次にこの推計値をサンプルとなった地域と全米の人口比で割り戻して米国内全体の数値を算出します。さらに各病原体の推定値を加算して、90%信頼区間も計算します。
 こうした方法で推定された2019年の米国内での食中毒の患者の推定値は、患者数990万人、入院者数5万3千人、死亡者数900人としています。

3 日米の食中毒被害の比較
(1)全般
 日本の食中毒統計は、行政統計の側面が強く、食中毒患者を診察した医師の届出を起点とし、保健所が実際に調査した患者数、死亡者数を食中毒事件ごとに報告し、年間の報告数をそのまま統計値としており、2025年のウイルスや細菌による食中毒の患者数1万4千人とされています。日本国内の食中毒患者については、米国のような推定値は公表されていませんが、厚生労働省が以前に食中毒の実発生数を推計した研究があり、国内の発生数は食中毒統計の数値の100倍以上となるとされています。したがって、日米両国とも人口1億人当たりで数百万人の患者が発生している可能性があると言えるようです。また、米国では死亡者数を900人と推定していますが、米国では日本と比較して、リステリア、腸管出血性大腸菌、サルモネラなど致死率が高い食中毒の発生が多い、医療環境が異なるなどの理由が考えられます。

(2)病原体
 米国の病原体別の発生状況については、日本と同様、最も患者数が多いのはノロウイルスです。2位以下はカンピロバクター、サルモネラ、ウエルシュ菌、腸管出血性大腸菌、リステリアの順となっています。日本の2位以下はウエルシュ菌、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌であり、米国とは少し異なります。米国ではサルモネラ、腸管出血性大腸菌、リステリアの発生が日本よりも多いようです。

(3)原因食品など
 原因食品についてみると、ノロウイルスは日米いずれも感染した調理従事者からウイルスが食品に移行して食中毒を起こすとみられています。また、カンピロバクターは一般的な細菌性下痢症の原因であり、生又は加熱不十分な鶏肉や七面鳥肉や消毒等の未処理の飲料水などが原因食品とされ、日米で共通しています。
 ウエルシュ菌は、鍋料理などまとまった量を加熱調理したあとで、10℃から60℃の温度帯に一定の時間置かれると、加熱では死なないウエルシュ菌が食品中で増え、その食品を食べた人の腸内で毒素を産生して食中毒を起こす特徴があります。病院、学校のカフェテリア、刑務所、福祉施設、イベントのケータリングなどのいわゆる集団給食施設での発生が多く、日米共通しています。また、11月のサンクスギビングから12月のクリスマスの間に七面鳥料理やローストビーフが原因となり、頻発するのが米国の特徴と言えそうです。
 腸管出血性大腸菌では生野菜、牛肉が原因となる場合が多く、5歳未満の幼児、65歳以上の高齢者、免疫低下状態にある者には重症化リスクか高く、溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こし、治癒困難な後遺症や死亡に至る場合もあるとされており、米国でも日本と同様の注意喚起がされています。
 日本では報告が少ないサルモネラ食中毒では鶏肉、果物、豚肉、種子野菜が原因であり、主要な血清型は日米ほぼ共通しています。リステリアは患者1,250人と少ないものの、入院者1,070人、死亡者172人で重症化リスクが高く、乳製品、果物、生野菜などが原因となっています。

4 おわりに
 過去に米国では多発していたものの、日本では食中毒発生が限られていた腸管出血性大腸菌が1996年に突然大流行した例があります。国際的な人やモノの移動はますます盛んになっていることも踏まえると、食品の取扱いに関する注意喚起や食中毒が発生した際の検査や治療の体制整備に配慮しておく必要があります。