食品衛生行政の動き(国を中心に) 2025年6月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

※URLは2025年6月18日現在のもの

1 食品、添加物等の夏期一斉取締りの実施

 厚生労働省は6月6日、都道府県等に対して「令和7年度食品、添加物等の夏期一斉取締り」を実施するよう通知しました。夏期一斉取締りは、特に夏期に多発する食中毒の発生防止を図り、食品衛生の向上を図るため、全国一斉に行うものです。重点的な対象施設は、生食用又は加熱不十分な食肉関係施設や鶏肉卸販売の施設、魚介類関連施設、大量調理施設のほか、最近の食中毒の発生状況を踏まえて、井戸水、湧き水等を飲用に使用する施設、いわゆる「健康食品」の製造等施設、さらに国際的イベントの開催を踏まえてこれらの関係施設としています。

https://www.mhlw.go.jp/content/001500298.pdf


2 「高度な機能」の条件を満たす自動販売機の機種のリストの更新

 厚生労働省は6月2日、 都道府県等に対して営業許可の対象から除外される「高度な機能」の条件を満たす調理機能を有する自動販売機の機種のリストの更新を通知しました(営業届出は必要)。

https://www.mhlw.go.jp/content/001497793.pdf


3 「畜水産食品の残留有害物質等モニタリング検査実施要領」等の通知

 厚生労働省は6月2日、都道府県等に対して令和6年度分の食品中の有害化学物質等の検査結果を「食品中の有害化学物質等の検査結果調査実施要領」に基づき報告するよう依頼するとともに、令和7年度分の検査を「畜水産食品の残留有害物質等モニタリング検査実施要領」により実施するよう通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/001497685.pdf


4 器具・容器包装の規格基準等の改正

 消費者庁は5月30日、食品、添加物等の規格基準の一部改正を告示し、ポジティブリスト制度の導入、レトルト食品、清涼飲料、乳・乳製品などへの多様な種類の合成樹脂の使用要望等を踏まえて、関係する器具及び容器包装の規格基準を改正し、試験法を通知しました。具体的には、規格基準中の試験法、材質別規格、用途別規格等を改正するとともに、試験法、留意事項、分析法の性能評価の手引き等を通知しました。
 本改正は、令和7年6月1日から施行、ただし、規格や試験法の変更に係る規定については令和8年の同日から施行、さらに令和9年の同日の前に販売され、販売の用に供するために製造され、若しくは輸入され、又は営業上使用されている器具又は容器包装については、従前の例によることができるとされています。

(告示)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/assets/standards_cms101_250530_001.pdf

(施行通知)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/assets/standards_cms101_250530_002.pdf

(試験法通知)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/assets/standards_cms101_250530_004.pdf


5 食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度Q&Aの追加

 消費者庁、厚生労働省は5月23日、食品用器具・容器包装ポジティブリスト制度Q&Aを公表しました(5月14日公表の追加分)。(平成30年6月13日に公布された食品衛生法等の一部を改正する法律により、食品用器具・容器包装について、安全性を評価した物質のみを使用可能とするポジティブリスト制度が令和2年6月1日に施行され、本年5月31日にポジティブリスト制度の経過措置が満了しました。)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/positive_list_new#Q&A


6 日本産水産物の中国向け輸出再開に必要な技術的要件について合意

 農林水産省は5月28日、中国海関総署との間で、日本産水産物の輸出再開に必要な技術的要件について合意したことを公表しました。令和5年8月のALPS処理水の海洋放出に伴い、中国側が日本産水産物の輸入を停止しています。日中双方は、中国向け輸出再開のために必要な技術的要件について合意に至り、今後、中国側の必要な手続を経て、輸出再開が見込まれるとしています。

https://www.maff.go.jp/j/press/yusyutu_kokusai/kisei/250530.html


(解説)細菌性食中毒の夏に向けて

 6月に入って、梅雨入り、気温が30度超えと、細菌性食中毒の夏の到来を感じさせるニュースが続いています。食品事業者の方々は、この時期には特に食中毒対策への細心の注意と配慮が求められます。実際、夏の細菌性食中毒はコロナ禍が終息した令和5年5月以降、コロナ禍以前と同様に、5、6月から10月の間、多数の発生が報告されるようになりました。近年の主な細菌性食中毒は、生や加熱不十分の鶏肉によるカンピロバクター食中毒、加熱済みの煮物料理を常温放置、不十分な加熱で喫食すると発生するウェルシュ菌食中毒、調理従事者の手指の傷などから食品を汚染し、毒素で発症させる黄色ブドウ球菌食中毒、加熱不十分な牛ひき肉料理を原因とする腸管出血性大腸菌に代表される病原大腸菌食中毒などです。

 HACCPに沿った衛生管理では、一般衛生管理や重要管理工程においてこれらの食中毒に必要な対策をとることができるので、現場での実施の徹底が極めて重要です。食中毒が発生すると、行政処分や場合によっては告発されることもあります。また、経済上の影響も大きく、昨年の損害保険の支払いには、ノロウイルス食中毒で600名を超える被害者に対する損害賠償金と13日間の休業補償金で合計1千万円を超える例もありました。

 さて、こうした食中毒を減らし、食品の安全性を向上するために厚生労働省は毎年、食品衛生法に定められた「食品衛生に関する監視指導の実施に関する指針」に基づき、全国一斉に「食品、添加物等の夏期一斉取締り」を実施しています。保健所の食品衛生監視員がスーパーマーケットに立ち入るニュースを見たことがある方も多いかと思います。

 昨年の夏期一斉取締りでは、全国の保健所の食品衛生監視員が1万6千余りの弁当屋、仕出し屋、旅館、学校、病院、福祉施設などの大量調理施設に立ち入り検査を行い、その約半数の5千7百施設に対して、衛生管理の改善、HACCP手引書の配布などの指導を行いました。一昨年に広域流通する弁当を原因とした大規模食中毒が発生したため、県外に弁当を販売、つまり広域流通する弁当を製造する施設の立ち入り検査結果もまとめられており、389施設中半数以上の施設に同様の指導を行いました。

 また、無加熱、加熱不十分な豚肉や鶏肉、牛ひき肉を使用した料理による食中毒が後を絶たないことから飲食店や販売店約4万施設に立ち入り、千5百施設で改善指導を行いました。こうした施設では、食肉の中心部までの十分な加熱、未加熱の食肉を取り扱う器具の使い分け、未加熱、加熱不十分な肉を用いた料理の提供中止などが指導されました。特に鶏肉を生食用で提供していた施設が246施設、加熱不十分な状態で提供していた施設が678施設あり、提供中止が指導されました。

 今年の「夏期一斉取締り」で厚生労働省が都道府県等に通知した内容は、例年同様、基本的な実施期間を7月1か月間として、重点的な監視指導が必要としている施設は、前年同様、生食用又は加熱不十分な豚肉、鶏肉、牛ひき肉などの食肉関連施設や大量調理施設に加え、過去2年連続で水道水以外の水を原因とした大規模食中毒が発生したため、井戸水、湧き水を飲用水として使用する施設 さらに紅麹関連製品による健康被害発生を受けて、 いわゆる「健康食品」の製造施設、大阪・関西万博の関連施設などが示されています。

 また、厚生労働省と(公社)日本食品衛生協会では、「飲食店従事者の不正解率なんと40%、新鮮ならば安全は間違い、生や生焼けの鶏肉は提供しない!!、ココ大事復唱して!!」と食品衛生テストで零点をとった調理人のイラストが入った啓蒙チラシを作成しました。これは、令和4年の東京都の食肉の生食等に関する実態調査の正誤問題で、「カンピロバクター食中毒は、生又は加熱不十分な鶏肉が原因で起こることが多い。」の飲食店従事者の正答率が6割にとどまったことを参考として作成したものです。

 8月には全国食品衛生月間が予定されています。暑い夏を無事に乗り切りましょう。