食品衛生行政の動き(国を中心に) 2025年7月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

※URLは2025年7月20日時点

1 水道水におけるPFAS(PFOS及びPFOA)の基準設定

 環境省は6月30日、水道法に基づく水質基準を改正し、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)の和として 0.00005mg/l 以下とする基準を設定ました。令和8年4月から水道事業者等に対して、PFOS及びPFOAに関する水質検査の実施及び基準を遵守する義務が新たに課されます。(解説参照)

「水質基準に関する省令の一部を改正する省令」
https://www.env.go.jp/content/000324630.pdf

「水道法施行規則の一部を改正する省令」
https://www.env.go.jp/content/000323150.pdf

(施行通知)
https://www.env.go.jp/content/000325798.pdf


2 ミネラルウォーター類におけるPFAS(PFOS及びPFOA)の成分規格の設定

 消費者庁は6月30日、食品、添加物等の規格基準を改正し、清涼飲料水のうち、「ミネラルウォーター類のうち殺菌又は除菌を行うもの」について、水質基準と同様、PFOS及びPFOAの和として 0.00005mg/l 以下とすることとし、告示の日から施行しました(令和8年3月 31 日までに製造、輸入されたものには経過措置あり。)(解説参照。)。

(告示)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/pfas/assets/standards_cms105_250630_001.pdf

(施行通知)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/pfas/assets/standards_cms105_250630_002.pdf

(課長通知)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/pfas/assets/standards_cms105_250630_003.pdf

(Q&A)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/pfas/qa/#q01


3 食品中の残留農薬基準を設定

 消費者庁は6月19日、食品、添加物等の規格基準を改正し、農薬3剤の残留基準を設定しました。

(告示)
https://www.kanpo.go.jp/20250619/20250619g00136/20250619g001360004f.html

(施行通知)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/pesticide_residues/notice/assets/standards_cms208_250619_01.pdf


4 従業者が常駐せず、全自動調理器により調理された食品を販売する飲食店の施設基準の見直し

 厚生労働省は7月2日、従業者が常駐せず、全自動調理機により調理された食品を販売する飲食店営業について、食品衛生法施行規則の営業施設の共通基準の適用除外規定を定め、業種別基準に規定を追加しました(令和8年4月1日施行)。

https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100023/20260401_507M60000100072?tab=compare


5 中国産いちごに対する残留農薬の検査命令の実施

 厚生労働省は7月9日、輸入時のモニタリング検査において中国産いちごから基準値を超えるブピリメートを検出(3件)したため、輸入者に対し、輸入届出ごと、全ロット食品衛生法に基づく検査命令を行うこととし、各検疫所長に通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59450.html


6 食品表示の適正化に向けた夏期一斉取締り

 消費者庁は6月26日、食品、添加物等の夏期一斉取締りの時期に合わせ、食品表示の衛生・保健事項に係る取締りの強化を全国一斉に実施する旨通知しました。表示の適正化等に向けた重点的な取組については、いわゆる「健康食品」等の監視指導、特定原材料等の取扱い、経口補水液と誤認されるおそれのある表示、カンピロバクター食中毒対策の推進等としました。

https://www.caa.go.jp/notice/assets/food_labeling_cms203_250626_01.pdf


7 食品表示に関する消費者意向調査報告書の公表

 消費者庁は6月20日、「令和6年度 食品表示に関する消費者意向調査報告書」を公表しました。対象の57.7%が食品表示から必要な情報が得られていると答えた一方、34.0%が商品選択時に食品表示を確認していないと答えました。また、不足しているとの答えがあった表示項目は原産地、添加物、アレルギー表示などでした。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/research/2024/assets/food_labeling_cms201_250620_01.pdf


8 外食・中食における食物アレルギーに関する情報提供の取組に係る実態調査報告書の公表

 消費者庁は6月26日、「令和6年度外食・中食における食物アレルギーに関する情報提供の取組に係る実態調査報告書」を公表しました。「食物アレルギーに関する対応は必要だと思う」と回答した事業者は83.5%と大半を占めました。「現在、食物アレルギーに関する対応を行っている」と回答した事業者は51.8%、うち、最も行われている対応は「お客様からの問合せに対する口頭での回答」(89.6%)、以下「食物アレルギーについての社内教育」(55.4%)、「店舗側からの口頭によるお客様確認」(51.8%)、「メニュー表への表記」(43.8%)、「ホームページ上での周知」(41.8%)、 「アレルギーチェックシート等の専用用紙を用いたお客様確認」(23.5%)でした。


9 令和5年度食品ロス量推計値の公表

 消費者庁、農林水産省、環境省は6月27日、令和5年度の食品ロス量推計値が464万トン(前年度472万トン)、このうち、食品関連事業者から発生する事業系食品ロス量は231万トン(同236万トン)、一般家庭から発生する家庭系食品ロス量は233万トン(同236万トン)となったことを公表しました。また、「食品ロスによる経済損失・温室効果ガス排出量」の推計を公表しました。
※食品ロス量推計値

(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_education_cms201_250627_10.pdf

(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/250627.html

(環境省)
https://www.env.go.jp/press/press_00002.html
※食品ロスによる経済損失・温室効果ガス排出値の推計
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_education_cms201_20240621_0003_attached.pdf


10 日中動物衛生検疫協定の発効

 農林水産省は7月11日、日中動物衛生検疫協定が発効したと発表しました。同省は日本産牛肉の早期輸出再開に向けて、中国政府との間で関連の食品安全や放射性物質検査を含めた協議を引き続き推進していくとしています。

https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/250711.html


11 米国FDAがクチナシ青色素を食品添加物(着色料)として承認

 米国FDAは7月14日、クチナシ青色素を食用色素として承認しました。FDAはこの2か月で4件目の天然色素の使用許可であり、食料供給から石油由来の合成着色料を排除する方針に沿ったものとしています。なお、本申請は日本の農林水産省の支援を受けてクチナシ青色素申請懇話会が行ったものです。

https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-gardenia-genipin-blue-color-additive-while-encouraging-faster-phase-out-fdc-red-no-3


(解説)「水道水、ミネラルウォーター等のPFAS規制について」

1 はじめに
 PFAS(通称ピーファス、ペル又はポリ・フルオロアルキル化合物)は水道水、水源地、河川水、化学工場周辺の水路など環境のほか、住民の血液からも検出され、報道されることもめずらしくありません。PFASのうち、PFOS(通称ピーフォス、ペルフルオロオクタンスルホン酸)と PFOA(通称ピーフォア、ペルフルオロオクタン酸)について、6月末に水道法の水質基準と食品衛生法のミネラルウォーター等の規格基準に基準が設定されたので、関係省庁のホームページなどを参考に関連情報をまとめました。


2 PFASとは
 PFASは主に炭素とフッ素からなる化学物質で1万種類以上の物質があるとされています。水や油をはじく、熱に強い、薬品に強い、光を吸収しないなどの特性があり、溶剤、界面活性剤、表面処理剤、イオン交換膜、潤滑剤、泡消火薬剤、半導体原料、フッ素ポリマー加工助剤など幅広い用途で使用されています。
 今回基準が設定されたPFOSは半導体や金属の表面加工、泡消火薬剤などに、PFOAはフッ素ポリマー加工の添加剤、界面活性剤などに使われていました。2物質の代替品として使用されていたPFHxS (通称ピーエフヘクスエス、ペルフルオロヘキサンスルホン酸)を加えたこれらの物質は、特に環境中で分解しにくく、生物への蓄積性が高いため、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」の対象物質に追加されました。日本国内では「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入等が原則禁止となり、新たに製造・輸入されることは原則ありませんが、前述のとおり過去に環境中に排出されたものが検出されることがあります。
 こうしたことから令和2年に水道水の水質管理上留意すべき項目として、目標値を PFOAとPFOSの合算値で50 ng/l(暫定値)とし、超過した場合には水源からの取水停止、切替え、活性炭処理などの対応が進み、超過事例は年々減少してきました。


3 食品安全委員会のリスク評価
 昨年6月、内閣府食品安全委員会はPFASのリスク評価結果を公表し、耐容一日摂取量(TDI)をPFOS、PFOA各々20 ng/kg体重/日とし、PFHxS は評価に必要な十分な知見は得られていないとしました。
 諸外国には今回の食品安全委員会の評価よりも厳しい評価結果を示しているケースもありますが、食品安全委員会はPFASのヒトの健康への影響に関する情報には不明な点が多く、米国や欧州のリスク評価機関が採用したヒトの疫学研究で報告されている血清ALT値の増加、血清総コレステロール値の増加、ワクチンに対する抗体応答の低下については、いずれも可能性は否定できないものの、指標値を算出することは困難、発がん性に関する知見については限定的または不十分としました。まずは今回の評価を踏まえた飲料水や食品のデータ収集、高濃度のPFASが検出された場合の汚染源や食品、飲料水への対策を進めるべきとしました。


4 水道水とミネラルウォーター等の基準設定
 食品安全委員会のリスク評価結果を踏まえて、本年6月30日に環境省が水道法に基づく水質基準に関する省令に暫定値と同じPFOSとPFOAの和として 0.00005mg/l(50ng/l) 以下と基準を設定し、検査頻度を3か月に1回程度と定めました。
 また、消費者庁は同日付で食品衛生法に基づく食品、添加物等の規格基準の一部を改正し、水道水の代替品として消費されると考えられる、「殺菌又は除菌を行ったミネラルウォーター類」に水道水と同じ基準値を設定しました。また、「殺菌又は除菌を行わないミネラルウォーター類(二酸化炭素圧力が 20℃で 98kPa 以上のものを除く)」の泉源の原水の基準にはすでに人為的な環境汚染物質を含んでいるものであってはならないことが規定されており、PFOSとPFOAについて同じ基準での管理が必要としました(除外されているガス入りのものについても、上記基準を参考に可能な範囲で低減措置等の対応を検討することが望ましいとしました。)。
 ミネラルウォーター類以外の清涼飲料水については、製造基準に水道水又はミネラルウォーター類の規格に適合する水を原料として用いなければならないとすでに定められているので、清涼飲料水の原料となる水にもPFOSとPFOAについて同じ基準が適用されます。
 なお、食品の洗浄や冷却など、食品の製造、加工、調理等の目的に使用される食品製造用の水については、水道水の代替として摂取されているものではないので現時点で基準を設定していないが、自主的にPFOS、PFOAの濃度を管理し、基準値を参考に可能な範囲で低減措置等の対応を求めるとしています。令和8年3月 31 日までに製造、輸入された清涼飲料水を加工、使用、調理、保存、又は販売する場合には、なお従前の例による、すなわち基準は適用されません。


5 今後の課題
 食品安全委員会は、ばく露量推定で参照したデータからみて、通常の一般的な国民の食生活から食品を通じて摂取される程度のPFOS、PFOAによって著しい健康影響が生じる状況にはないと考えられるとしています。一方で、PFASについては、健康影響に関する情報が不足しており、不明な点は多いものの、まずは、飲料水、食品等におけるデータの収集を早急に進め、高い濃度が検出されたものに対する対応を進めることが必要としています。