食品衛生行政の動き(国を中心に) 2025年9月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

※URLは2025年9月19日時点

1 令和6年度輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果、輸入食品監視統計の公表

 厚生労働省は8月28日、令和6年度の輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果及び輸入食品監視統計を公表しました(詳細は解説を参照)。

https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/001549911.pdf

(輸入食品監視統計)
https://www.mhlw.go.jp/content/001548392.pdf

(図表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yunyu_kanshi/kanshi/index.html


2 食品衛生法施行規則の一部を改正する省令の公布(従業者が常駐しない全自動調理機による食品を販売する営業)

 厚生労働省は7月2日、食品衛生法施行規則の一部を改正する省令の公布し、従業者が常駐せず全自動調理機により調理された食品を販売する営業に対応するため、規則別表19及び20の施設基準の一部の改正を行いました。
 改正基準には、施設全体の衛生状況を確認するためのカメラ等監視設備、施設等に異常が生じた場合に全自動調理機を遠隔操作により停止できる機能、全自動調理機の内部に異常があった場合に自動的に停止する機能、期限経過食品の自動廃棄機能等が規定されました。
 なお、「常駐せず」とは、メンテナンス等を目的とした訪問を除き、従事者が常に置かれていない状態を想定しています。

https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100023/20260401_507M60000100072?tab=compare

(施行通知(8月29日付)
https://www.mhlw.go.jp/content/001552524.pdf


3 と畜・食鳥検査等に関する実態調査結果の公表

 厚生労働省は8 月 2 9 日、令和6年度のと畜・食鳥検査等に関する実態調査の結果を都道府県等に通知しました。この実態調査は、と畜場、食鳥処理場の設置状況、と畜料金、と畜検査手数料、食鳥検査手数料の設定状況、休日、年末年始、時間外のと畜検査、食鳥検査の対応状況等都道府県等における自治事務の対応状況について情報を収集、公表しているものです。
 令和6年度末現在、と畜場数は162施設、食鳥処理場は1,430施設(大規模139施設、認定小規模1,291施設)でした。また、令和6年度のと畜頭数は牛1,123,061頭、豚16,171,179頭、食鳥処理羽数は846,362,616羽(大規模830,262,256羽、認定小規模16,100,360羽)でした。

https://www.mhlw.go.jp/content/001557514.pdf


4 毒キノコによる食中毒の注意喚起

 厚生労働省は 9 月 1 日、都道府県等に対して、例年毒キノコを食用キノコと誤認して採取、喫食したことによる食中毒が多く発生しているため、食用のキノコと確実に判断できないキノコ類の採取、譲渡、販売、喫食を行わないよう、改めて消費者、関係事業者に注意喚起、情報提供を行うよう通知しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/001552533.pdf

(自然毒のリスクプロファイル)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/index.html

5 既存添加物名簿及び 食品、添加物等の規格基準の一部改正

 消費者庁は8月25日、既存添加物名簿の改正を告示(令和7年消費者庁告示第 9 号)し、一部の添加物の名称を既存添加物名簿から消除等を行いました。また、食品、添加物等の規格基準の改正を告示(令和7年内閣府告示第 113 号)し、既存添加物名簿から消除した添加物を削除しました。

https://www.kanpo.go.jp/20250825/20250825g00191/20250825g001910059f.html

(施行通知)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/assets/standards_cms102_250825_05.pdf


6 器具及び容器包装の試験法に関するQ&Aの公表

 消費者庁は9月4日、器具及び容器包装の試験法に関するQ&Aを公表しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/001556478.pdf


7 食品用器具及び容器包装のポジティブリストへの新規物質の追加等の申請等の手引の一部改正

 消費者庁は9月5日、「食品用器具又は容器包装の原材料に含まれる物質の規格の改正等に係る要請の手引について」(令和7年5月 28 日消食基第 357 号消費者庁食品衛生基準審査課長通知。)の一部を改正し、安全性審査等に係る手続等を追加しました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/notice/assets/standards_cms101_250910_02.pdf


8 食品添加物である酵素の生産菌の届出及び公開

 消費者庁は9月10日、「食品添加物である酵素の生産菌の届出及び公開について」を都道県知事等に通知しました。食品、添加物等の規格基準では、酵素の生産菌の属種を定めていますが、学名の変更等が行われた場合、生産菌は従前と同じであるにも関わらず、記載上の齟齬が生じる懸念があります。このため、酵素の製造者に生産菌について消費者庁へ届出を求め、学名の変更等が生じた場合には、従前の生産菌と同じであることを確認すること、知的財産等に考慮して情報を公開すること等としました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/research_003/assets/standards_cms102_250910_01.pdf


(解説)「輸入食品の安全性の確保について」


1 はじめに
 農林水産省の「令和5年度食料需給表」では、供給熱量ベースの自給率は37%とされ、過去30年間で43%から6ポイント減少しました(畜産物の国内生産に使用された輸入飼料の寄与分は国外からの供給として計算)。カロリーベースでの国内で供給される食料の6割以上を海外に依存しており、輸入食品の安全性の確保は国民の食生活を守るうえで重要な課題です。8月下旬に厚生労働省から公表された令和6年度の「輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果」、「輸入食品監視統計」をもとに輸入食品の安全対策と現状について解説します。


2 食品衛生法と輸入状況
 食品衛生法では、食品(添加物や食品に接触する器具、容器包装などを含む。)を営業目的で輸入する事業者に対して、輸入のつど、検疫所を通じて厚生労働大臣に届出を行うことを義務づけています。令和6年度には247万件、3,191万トンの輸入届出が行われ、過去30年間で輸入件数は2倍となり、輸入重量は1割ほど増加しました。輸入件数の増加は、原料輸入から製品輸入が増加して小口化が進んだ結果であり、輸入重量の増加は食料の生産、製造・加工が国内から海外にシフトした影響と考えられます。
 主な対日輸出国は、重量ベースでは米国、中国、カナダ、豪州と中国以外は穀類の輸入先が上位です。一方、届出件数ベースでは中国が最も多く、次いでフランス、米国、タイ、ベトナム、韓国の順でした。これらの国からの輸入品の上位品目(重量ベース)は中国では冷凍野菜、水産加工品、食肉加工品、フランスではワイン、ミネラルウォーター、豚肉、米国ではとうもろこし、小麦、大豆、豚肉、牛肉、タイでは食肉加工品、鶏肉のほかコメ、ベトナムではコーヒー豆、水産加工品、果実、韓国では糖類調整品、飲料、めん類でした。


3 検疫所での水際対策
(1)審査と検査のしくみ
 輸入食品の水際での安全対策は、東京、大阪、横浜、成田空港など32か所の検疫所と横浜と神戸の検査センターに配置された422名の食品衛生監視員が担っています。検疫所では、輸入届出の食品の原材料、使用添加物、製造加工方法、生産地や製造加工所などの情報をひとつひとつ審査し、命令検査、モニタリング検査などの対象を決定するほか、初回輸入品の検査や定期検査を実施するよう輸入業者に指導しています。
 命令検査は過去の検査で法違反があるなど、違反の可能性が高いと見込まれる食品について、輸入業者に食品衛生法で登録された検査機関で検査を受けるよう命令し、検査に合格しなければ輸入を認めません。また、モニタリング検査は違反の可能性が高い食品を見つけるため、多種多様な輸入食品について広範な項目の検査を年間計画に基づいて実施します。

(2)令和6年度の実施状況
 令和6年度については、20万6千件の届出について検査を実施し、このうち731件を法違反として、積み戻し又は廃棄等の措置を行いました。うち、モニタリング検査は10万9百件で、延べ127件を法違反として、回収等の措置を行いました。
 731件の法違反は、食品や添加物の規格基準違反477件が最も多く、次いで腐敗変敗、有毒物質や病原微生物の汚染193件、国内で使用が認められていない添加物の使用43件、などでした。違反事例の主な輸出国や品目は、残留農薬基準違反では中国産野菜、ガーナ産カカオ豆、アフラトキシン(カビ毒)汚染では米国産アーモンドや中国産落花生、食品の微生物規格基準違反では中国産やベトナム産の加工食品などでした。
 違反が発見された食品については、輸出国政府に対し、違反原因の究明、再発防止対策の実施を要請するとともに、二国間協議を通じて輸出国における衛生対策の推進を図っています。

(3)輸入前相談
検疫所では、事業者に対する輸入前相談を行っており、令和6年度は2万件以上の輸入前相談で法に適合しない約500件について改善を指導し、輸入を見合わせるよう指導を行いました。輸入前相談の違反を発見する確率は22%で、廃棄等のロスも避けられるため、効果的な違反食品の輸入防止対策となっています。新規の食品輸入を検討している事業者の方には、原材料や製造加工方法が食品衛生法の規定や規格基準に適合するか確認の上、検疫所に相談することをお勧めします。


4 結語
 現在の輸入食品の安全確保対策は平成7年及び平成15年の食品衛生法改正で骨格が構築され、平成30年改正では食肉等の輸入要件にHACCPに基づく衛生管理の追加や輸出国政府機関発行の衛生証明書の添付義務が拡大されました。しかしながら、輸入食品の課題である輸出国の生産段階からのフードチェーンを通じた食品の安全確保とその「見える化」については輸入業者によって格差が大きく、行政と輸入業者が連携して取組みを進める必要があると考えます。