食品衛生行政の動き(国を中心に) 2025年11月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

※URLは10月20日現在

1 湧き水又は井戸水等を飲用に使用する施設における 食中毒予防の徹底

 厚生労働省は 10 月 17 日、都道府県等に対して、湧き水や井戸水等を飲用に使用する施設での食中毒を予防するため、衛生管理の徹底の指導を実施するよう通知しました。具体的には、飲用井戸の清潔保持、定期点検、殺菌装置の点検・記録、湧き水の水源の周辺管理、水質検査、水質確認等の実施のほか、飲用に適する水でないことが明らかとなった場合は、直ちに使用の中止などを求めるとしています。本通知は本年8月に病原微生物に汚染された湧き水を使用したことが原因と推定される食中毒が続けて2事案発生したことを踏まえたものです。

https://www.mhlw.go.jp/content/001580636.pdf


2 令和7年度食品、添加物等の年末一斉取締りの実施

 厚生労働省は 11 月 18 日、 都道府県等に対して、食品衛生法に定める「食品衛生に関する監視指導の実施に関する指針」に基づき、12月に年末一斉取締りを実施するよう通知しました。主な対象は、 飲食店営業施設(集団給食施設等を含む)、魚介類の処理、製造加工施設 、生食用・加熱不十分な食肉提供施設などとしています。

https://www.mhlw.go.jp/content/001596695.pdf


3 感染症発生動向調査感染症週報

 厚生労働省/国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所は、2025年 第44週(10月27日〜11月2日)で、感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期の平均と比較してかなり多く、都道府県別の上位は岐阜県(8.30)、大分県(7.14)、宮崎県(7.13)としました(45週速報では岐阜県(6.19)、石川県(6.04)、群馬県(5.52))。

https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/jp/idwr/2025/idwr2025-44.pdf


4 輸入食品に対する検査命令の対象食品の更新

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56307.html


5 営業届出の対象となる「高度な機能」の条件を満たす自動販売機の機種のリストの更新

https://www.mhlw.go.jp/content/001590011.pdf


6 ミネラルウォーター中のPFAS試験法の設定

 消費者庁は11月14日、清涼飲料水等の規格基準に係る試験法の一部を改正し、ミネラルウォーター類中のペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)の試験法を定めました(ミネラルウォーター類のPFASに関する成分規格については本年6月30日に設定。)。また、同日、食品中の有害物質に関する分析法の妥当性確認ガイドラインを改正し、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)を分析対象に追加しました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/pfas/assets/standards_cms105_251114_01.pdf

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/pfas/assets/standards_cms105_251114_02.pdf


7 「器具及び容器包装のポジティブリスト制度に関するQ&A」の改正

 消費者庁は 10 月 29 日、「器具及び容器包装のポジティブリスト制度に関するQ&A」うち、ポジティブリストの対象、添加剤、食品への溶出量のシュミレーションの条件等に関する問いについて一部を改正し、都道府県等に通知しました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/positive_list_new/assets/standards_cms101_251029_01.pdf


(解説)「農林水産物・食品の貿易を考える」


1 農林水産物・食品の貿易収支
 農林水産物・食品については、近年の円安の影響などにより金額ベースで輸入、輸出とも増加傾向にあり、収支としては赤字が増える傾向にあります。政府の貿易統計では、令和元年の輸入額は9兆5千億円、輸出額は9千百億円でしたが、令和5年度の農林水産物・食品の輸入額は12兆7千億円、輸出額は1兆3千億円で輸入額は輸出額の9.7倍、貿易収支は11兆4千億円の赤字でした(令和6年度の速報値は輸入13兆3千億円、輸出は1兆4千億円)。
 こうした大幅な輸入超過は、食肉や油脂の消費増加に代表されるような国民の食生活の欧米化、多様化に加え、国内生産が対応できないことが大きな要因です。つまり気候や国土などの自然条件、近年の人手不足など様々な制約から国内での生産が困難な品目を輸入しているわけです。一方、高齢化や人口減少により国内の市場縮小にともない、地域経済の活性化、農林水産業の振興の観点から農林水産物・食品の輸出は重要で、和牛肉、ホタテ、果物、加工食品などが海外の市場を拡大しています。


2 主な輸入品目
 我が国の金額ベースでの主な輸入品目としては、とうもろこし6千8百億円、豚肉6千5百億円、牛肉4千百億円、生鮮乾燥果実3千9百億円、アルコール飲料3千8百億円、鶏肉調製品3千百億円、大豆3千億円、小麦2千7百億円の順です。これらの輸入品は日々の食生活を直接支える品目のほか、飼料として国内畜産物の生産を通じて我々の食生活を豊かなものにしています。なお、とうもろこしについては約8割が家畜の飼料、他はコーンスターチやコーンオイルなどの食品の加工原料として使用されています。


3 国別の主要品目
 農林水産物・食品の年間輸入総額12兆7千億円の内訳でみると、米国が2兆1千億円、中国が1兆6千億円、豪州8千億円、次いでタイ、カナダが続いており、約3割を米国と中国が占めています。米国ではトウモロコシ、大豆、牛肉、豚肉、小麦が上位を占め、中国では冷凍野菜、鶏肉調製品、大豆かす、ウナギ調製品、生鮮野菜、豪州からは牛肉、砂糖、菜種、小麦が主な品目となっています。


4 輸入食品の消費動向
 日本政策金融公庫の本年の消費者動向等調査の結果によると、食料品を購⼊するときに国産品かどうかを「気にかける」と回答した人の割合は66.0%でした。こうした傾向には消費者の輸入食品に対する安全性への懸念が大きな要素と考えられます。
 中国産食品についてはかつて残留農薬への懸念などが指摘され、中国産食品の安全性について社会的な関心が高まった時期がありました。過去10年間の輸入時の検査における食品衛生法の違反率(輸入件数に対する違反件数の割合)を見ると、輸入食品検査全般の違反率が0.030%から0.038%であるのに対し、中国から輸入される食品の違反率は0.019%から0.024%の間を推移しており、中国産食品が他国の食品よりも安全性に問題があるとは言えないのです。


5 時短、コスパ、タイパへのニーズ
 同公庫の過去の調査によると、世帯当たりの人数の減少、高齢化などによる食の簡便化が進展しており、回答者の3割以上が「冷凍食品の活用」、「レトルト、缶詰、びん詰食品の活用」、「合わせ調味料の活用」などをあげました。また、家庭で最も購入量が多い冷凍食品は「そのまま食べられる調理食品」、次いで切り身などの「水産加工品」、「肉類」、焼き餃子や衣が付いた揚げ物など「調理を要する半調理食品」などとされています。また、先日、外食産業向けの展示会においても冷凍食品、レトルト食品などが数多く出品されており、省力化、自動化、時短など人手不足への対応が家庭だけではなく、外食産業でも大きな課題となっています。このような加工食品には輸入した製品や原料が欠かせないのです。


6 まとめ
 輸入食品については、前述のとおり金額ベースで約3割を1位米国と2位中国に依存しており、日本国内では生産が困難な大豆、小麦、家畜の飼料、効率的な生産体制を背景とした食肉や様々な加工食品の供給を両国は担っています。家庭においても外食業界においてもこうした食品へのニーズは大きく、われわれの日常の食生活はこれらを無くしては成立せず、若い世代では輸入食品に対する抵抗感が減少傾向にあります。一方で国内農林水産業の持続性の確保、国産農林水産物へのニーズへの対応も求められており、家庭においても事業の中でも、国産と輸入を目的に応じて賢く活用していくことが重要です。