食品衛生行政の動き(国を中心に) 2025年12月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

※URLは12月19日現在

1 台湾が日本産食品の輸入規制措置の撤廃を公表(東日本大震災関連)

 農林水産省は11月21日、台湾当局が日本産食品に対する輸入規制を撤廃することを公表しました。これまで一部の食品を台湾に輸入する際に必要とされた放射性物質検査報告書及び産地証明書が不要となります。

https://www.maff.go.jp/j/press/yusyutu_kokusai/kisei/251121.html


2 スペインからの豚肉等の輸入一時停止措置

 農林水産省は11月29日、スペインの野生イノシシにおけるアフリカ豚熱の発生確認を受け、11月28日以降のスペインから輸入される豚肉等について、家畜衛生上の措置として輸入一時停止措置を講じました。

https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/251129.html


3 輸入食品に対する検査情報の更新

(検査命令実施通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56307.html

(モニタリング検査実施通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56306.html


4 感染症発生動向調査

 厚生労働省/国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所は、第48週(11月24日から30日)の感染性胃腸炎の定点当たり報告数は減少し、上位3位は岐阜県(8.07)、大分県(7.86)、石川県(7.11)、第49週の速報値の上位は岐阜県(8.15)、大分県(7.53)、群馬県(7.28)、宮崎県(7.27)としました。

https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/index.html


5 食品中の残留農薬基準値の改正

 消費者庁は12月16日、食品、添加物等の規格基準の一部の改正を告示し、食品中の農薬エスプロカルブ、農薬エタボキサム、農薬トリフロキシストロビン、農薬ピカルブトラゾクス、農薬ポリオキシンD亜鉛塩及び農薬マンジプロパミドの残留基準値を改正しました。

(施行通知)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/pesticide_residues/notice/assets/standards_cms208_251216_01.pdf


6 食品中の放射性物質の摂取量調査結果の公表

 消費者庁は12月17日、令和7年2~3月調査分の食品に含まれる放射性物質の摂取量調査結果を公表しました。食品中の放射性セシウムから人が1年間に受ける放射線量は0.0005~0.0016ミリシーベルト/年と推定され、これは現行基準値の設定根拠である年間上限線量1ミリシーベルトの0.1%程度、一部の試料からSr-90が検出されましたが、いずれも事故以前の範囲内で、プルトニウムは検出されませんでした。

https://www.caa.go.jp/notice/entry/044467/


7 国産米中のカドミウム・無機ヒ素含有実態調査の結果の公表

 農林水産省は12月19日、令和4年から6年産の国産米中のカドミウム・無機ヒ素含有実態調査の結果を公表しました。前回の調査結果よりもカドミウム及び無機ヒ素の濃度が全体として低くなっていることが確認されました。

https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/nouan/251219.html


8 令和6年「国民健康・栄養調査」の結果の公表

 厚生労働省は12月2日、令和6年度「国民健康・栄養調査」の結果を公表しました。栄養・食生活に関する状況では、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日がほぼ毎日の者の割合を年齢階級別にみると男女ともに 20 歳代で最も低く、食塩摂取量の平均値は9.6gでこの12年間で最も低いものの、目標値(7g)よりは依然高い状況でした。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_66279.html


9 令和7年度第3回食品衛生基準審議会新開発食品調査部会の開催

 消費者庁は11月27日、令和7年度第3回食品衛生基準審議会新開発食品調査部会を開催し、事務局からサプリメントに関す規制の現状を説明後、関係団体からのヒアリング等を行いました。

https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/review_meeting_004/044233.html


10 外食時の「おいしい食べきり」全国共同キャンペーンの実施

 農林水産省、環境省、消費者庁は11月27日、全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会と連携し、12月から1月まで、外食時の「おいしい食べきり」全国共同キャンペーンを実施する旨発表しました。外食時には、適量を注文して食べきることを前提として、どうしても食べ残った食事は、店舗を相談して持ち帰ることも検討していただくよう呼びかけます。

https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/251127.html


(解説)米国のリステリア集団食中毒

 現在、米国で調査中のリステリア食中毒は昨年8月の初発から1年以上経過した現在も同一の遺伝子型のリステリア菌(リステリア・モノサイトゲネス)による患者の発生が継続しています。
 米国では複数の州で食中毒が発生すると、連邦政府の保健省食品医薬品庁(FDA)、農務省食品安全検査局(FSIS)、疾病管理予防センター(CDC)が州政府と協力して原因調査、関係食品のリコールなどを行っています。CDCは本年6月、13州から患者17人の発生報告があり、うち16人が入院、3人が死亡、さらに流産で胎児1人が死亡したと発表しました。また、患者のうち7人が大手スーパーマーケットチェーンで購入した惣菜製品を喫食していました。FSISは関係惣菜業者が製造したチキンフィットチーネの検査用サンプルからリステリア菌を検出し、その遺伝子型が患者から検出したリステリア菌のものと一致することを確認しました。このチキンフィットチーネは摂氏5度以下で保存し、電子レンジやオーブンで温めて食べる調理済みチルド食品です。関連したパスタ料理製品はリコールされましたが、患者発生の報告は続きました。また、FDAがこの製品の原料を調査しましたが、リステリア菌は検出されませんでした。
 9月には前述の惣菜業者の契約検査機関がスーパーマーケットチェーン向けのミートボールリングイーネからリステリア菌を検出しました。この菌の遺伝子型が前述のチキンフィットチーネから検出した菌や一連の食中毒患者から検出した菌の遺伝子型と一致したので、原料のパスタ製造業者は各種調理済みパスタの回収を開始しました。これらのパスタは他の惣菜業者が多くのパスタ料理製品に使用していたため、大規模リコールとなりました。大手スーパーマーケットチェーンで販売された製品も含まれており、CDCでは症状が軽いため受診しなかった患者やリステリア菌の検査を受けなかった患者を含めると実際の患者数はさらに多いとしています。その後も患者の報告は続き、10月末時点では18州で4歳から92歳(中央値72歳)の患者27人、入院者25人、死亡者6人、流産による胎児の死亡1人となっています。
 リステリア菌は動物の腸管内だけではなく環境に広く分布しています。国内では、食品安全委員会が年間患者数を200人程度と推定しているものの、食中毒統計にはリステリア菌による食中毒事例の報告はありません。しかし、2001年にナチュラルチーズが原因食品と推定された集団感染事例が報告されたほか、妊婦が感染して流産した症例が数例報告されています。
 欧米ではリステリア菌による食中毒はノロウイルスやサルモネラほど多くはないものの、重症化率、死亡率が高い食中毒として注目されています。米国ではCDCの推計によると年間の患者数は1,250人、うち入院者数1,070人、死亡者数172人、EUでは2022年に集団発生が19件報告され、患者数133人、うち入院者数84人、死亡数11人でした。CDCなどによると、通常、リステリア菌に汚染した食品を喫食した後、当日から10日、通常2週間以内にリステリア症を発症します。一般には、発熱、筋肉痛、倦怠などの症状を示します。しかし、消化管から感染したリステリア菌が体の他の部位に広がる侵襲性リステリア症をおこしやすい妊婦、65歳以上の高齢者、免疫機能が低下している人には危険な病気です。特に妊婦が感染すると、流産、早産、新生児の致死的な症状を引き起こします。また、65歳以上の高齢者や免疫機能が低下している人への感染では、敗血症や髄膜炎で入院、さらには死亡に至ることがあります。
 リステリア菌は、他の一般的な食中毒菌と同様に加熱により死滅しますが、4℃以下の低温でも増殖できる点が大きな特徴で、欧米では、ナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモン、サラダなどの冷蔵で比較的長期間流通する食品がリステリア菌による食中毒の原因になっています。
 前述の米国で発生しているリステリア食中毒は、パスタ製造施設から仕入れた調理済みパスタを惣菜工場で、そのまま、又は電子レンジで温めて食べるパスタ料理製品に調理して、大手スーパーマーケットチェーンで販売した例で、現時点ではリステリア菌が検出されたのは最終製品の調理済みのパスタ料理だけで、パスタの製造施設や惣菜工場からはリステリア菌は検出されておらず、汚染源や汚染経路、リステリア菌の汚染レベルなどはわかっていません。
 国内で販売されている惣菜の消費期限は販売当日や翌日なので、同種の食中毒が発生するリスクは低いと考えられますが、長期間冷蔵された原材料を含むなどリステリア菌の汚染リスクが高まる場合には注意を要します。また、消費者が時短、コスパ、タイパなどが求め、また食ロス対策から期限の延長を行っていくと、今後、米国の例のような数日間にわたって冷蔵で原料や製品が流通する惣菜が増えることも懸念されます。こうした製品の設計にはリステリア菌対策に十分留意する必要があるでしょう。