食品衛生行政の動き(国を中心に)2026年3月
株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司
※URLは3月28日現在
1 「日本版包装前面栄養表示ガイドライン」の公表
消費者庁は2月26日、「日本版包装前面栄養表示ガイドライン」をQ&Aとともに公表しました。本ガイドラインは任意であり、1食分当たりの熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウム(食塩相当量換算値)、栄養素等表示基準値に占める割合を表示するなど⼀般⽤加⼯⾷品に包装前⾯栄養表⽰を導⼊するための⼀般的な取扱いやその望ましい在り⽅を⽰しています。(ガイドライン)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/nutrient_declearation/contents_001/assets/food_labeling_cms206_260219_11.pdf
(Q&A)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/nutrient_declearation/contents_001/assets/food_labeling_cms206_260219_12.pdf
(意見募集の結果概要)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000307493
(意見概要と対応の考え方)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000307493
2 ノロウイルスによる食中毒事例報告のとりまとめ
厚生労働省は2月27日、本年1月に報告されたノロウイルス食中毒34事例の発生施設、患者数、発生原因等をとりまとめ、事業者向けの食中毒予防対策、注意喚起に活用するよう都道府県等に情報提供しました。https://www.mhlw.go.jp/content/001662811.pdf
3 感染症発生動向調査
厚生労働省/国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所は、2026年第9週(2月23日〜3月1日)の感染症週報では「感染性胃腸炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別の上位3位は群馬県(11.40)、大分県(9.94)、石川県(9.89)である。」としています。また、第10週(3月2日~3月8日)の速報値の上位は群馬県(11.28)、富山県(10.79)、石川県(10.68)です。https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/index.html
4 令和7年度食中毒事件一覧(速報)
厚生労働省は3月3日、令和7年度食中毒事件一覧(速報)をHPに掲載しました。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html
5 輸入食品に対する検査情報等の更新
(検査命令実施通知)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56307.html
(モニタリング検査実施通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56306.html
(輸入時検査違反事例速報)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yunyu_kanshi/ihan/index.html#h2_free1
6 風評に関する消費者意識の実態調査(第19回)の結果
消費者庁は3月2日、東京電力(株)福島第一原子力発電所事故を受け、平成25年(2013年)から継続している被災県の農林水産物等に対する消費者意識の実態調査(第19回目)の結果を公表しました。放射性物質を理由に購入をためらう産地として「福島県」及び「被災地を中心とした東北」と回答した人の割合が過去最小になりました。https://www.caa.go.jp/notice/entry/045347/
(解説)
「食品安全におけるリスク認知」
日本政策金融公庫は2月12日、消費者動向のインターネット調査の結果を公表しました。対象は全国の20歳代から70歳代の男女各1,000人、計2,000人で、昨年11月に実施されました。調査結果では、消費者の食を選択する際の志向は「経済性志向」、「健康志向」、「簡便化志向」が3大志向で、以前、輸入食品や原発事故など食品の安全が注目された時期には「安全志向」が上位となった時期もありましたが、近年は多少の変動があるものの、この3大志向が上位と占めています。また、「普段購入している食品について懸念していること」という問いに対しての回答は、「価格」(63.0%)が最多で、次いで「食品添加物」(33.7%)、「食品ロス」(27.5%)、「残留農薬」(20.3%)、「表示偽装」(14.7%)、「塩分の量」(14.6%)、「糖質の量」(11.0%)、「脂質の量」(10.9%)、「食中毒」(8.3%)、「外食時の食品衛生」(7.2%)の順でした。食品添加物や残留農薬への懸念を持つ人が依然として多く、健康志向の一端として栄養成分への関心を持つ人、食中毒さらには外食の食品衛生に関心を持つ人が一定数存在するようです。
また、食料品を購入するときに国産品かどうかを「気にかける」割合は64.3%で、年代が高くなるほど高い傾向となっています。食料安全保障への関心とともに、過去の輸入食品の安全問題の経験値が影響しているのかもしれません。
一方で内閣府食品安全委員会は「食品の安全性に関する意識等について」と題したインターネット調査の結果を公表しています。この調査の対象の「食品安全モニター」は、大学で医歯薬、獣医、農林水産、栄養などの学部卒業者、栄養士、調理師、食品衛生管理者、企業の食品安全業務従事者、この分野の行政の経験者などで、公募で選ばれた専門知識のある人たちです。
令和7年度調査では有効回答者は372名で、食品の安全性の観点から感じるハザードに対する不安について「とても不安を感じる」、「ある程度不安を感じる」と回答した者の割合は、「細菌、ウイルス等による食中毒等」(81.7%)、「いわゆる健康食品」(67.2%)、「かび毒」(66.9%)、「汚染物質(カドミウム、メチル水銀、ヒ素、ダイオキシン類など)」(62.3%)、「家畜用抗生物質による薬剤耐性菌」(55.6%)、「アレルゲンを含む食品」(51.8%)、「器具容器包装からの溶出物質」(51.6%)と続き、次に「残留農薬」(45.4%)、「加熱時に生じるアクリルアミド」(44.1%)、「食品添加物」(39.2%)が続いています。
こうしてみると、一般消費者においては食品添加物や残留農薬への懸念が強く、専門知識のある人では細菌やウイルスによる食中毒、いわゆる健康食品、かび毒、微生物、汚染物質、薬剤耐性菌への懸念が大きい結果となり、大きな違いがあります。
一般消費者のリスク認知については過去にも様々な考察がありますが、マスコミ報道などによる特定の事件や事故の記憶、高度な技術や新しい技術に対する警戒心、科学や行政に対する不信感、食生活における保守性、ゼロリスク志向などが過大評価の要因となり、日々の生活での体験頻度が高い、加熱などの予防方法が明確などは過小評価の要因となっていると考えられます。一方、専門知識のある人はリスク認知の過程で客観的に分析、整理することが可能です。
食品添加物や残留農薬については、一般消費者にとってはマスコミ報道や科学への不信感、さらには本来食品に含まれない化学物質であることなどから警戒感を惹起され、そのリスクを過大評価する傾向が顕著です。一方、専門知識のある人は法令に基づく制度の下で科学的な安全性が確認され、製造や使用における管理システムが確立されていることを理解しています。
次に細菌やウイルスによる食中毒については、ほぼ毎日事件が発生して患者が報告されており、常時フードチェーンを通じた切れ目のない安全対策が必要です。専門知識のある人はこうした事情を客観的にリスク認知することが可能です。しかし、「いわゆる健康食品」については、むしろこうした分析、整理が必ずしも容易ではないことが影響して上位に来てしまったように思われます。
こうした一般消費者と専門知識のある人のリスク認識のギャップを埋め、双方の立場の差の理解を進めるリスクコミュニケーションを粘り強く続けることは、行政や食品事業者、消費者などのステークホルダーにとって極めて重要です。しかし、これには時間やエネルギーなどの多くのリソースを要することも事実です。専門知識のある人がすぐにできることとして、一般消費者のリスク認知の特性を理解し、互いの距離を少しずつ詰めていくようアプローチすることが肝要です。