食品衛生行政の動き(国を中心に)2026年5月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

※URLは5月19日現在

1 外食・中食における食物アレルギーの情報提供に関する実態調査報告書

 消費者庁は5月1日、「外食・中食における食物アレルギーの情報提供に関する実態調査報告書」を公表しました。食物アレルギー患者、保護者の団体を対象とした調査で、微量のアレルゲンの摂取ではアレルギー症状を発症しない人は外食・中食ともに7割前後が利用していることが判明したほか、従業員から得る食物アレルギー情報への満足度、外食利用に当たって最低限必要な情報、外食で提供される情報の課題などについての調査結果がまとめられました。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/research/2025/assets/food_labeling_cms204_260501_01.pdf


2 令和7年度の食品表示法に基づく自主回収の届出状況及びその原因等

 消費者庁は5月14日、令和7年度の食品表示法に基づく自主回収の届出状況及び製造業、販売業における原因等について公表しました。
 総届出件数は1,745件、うち重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性が高いものが1,239件、実際に健康被害が報告されたものが32件でした。また、自主回収が発生した原因は、アレルギー表示の9割が貼り間違い、期限表示の8割が誤入力、入力漏れでした。

(届出状況)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_recall/assets/food_labeling_cms203_260514_01.pdf

(製造業資料)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_recall/assets/food_labeling_cms203_260514_02.pdf

(販売業資料)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_recall/assets/food_labeling_cms203_260514_03.pdf


3 ノロウイルスによる食中毒事例

 厚生労働省は4月21日、令和8年3月報告分のノロウイルス食中毒の原因食品、患者数、発生要因等(事例番号111~194)について都道府県等に情報を提供しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/001695111.pdf


4 輸入食品に対する検査情報の更新


(検査命令実施通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_72154.html

(モニタリング検査実施通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000201772_00009.html


5 食品衛生法に基づく登録検査機関一覧の更新

 厚生労働省は5月15日、食品衛生法に基づく厚生労働大臣の登録検査機関一覧を更新しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/jigyousya/kikan/index.html


(解説)HACCPの成り立ちと発展について

 2020年に改正食品衛生法に基づき制度化された「HACCPに沿った衛生管理」については、現在、厚生労働省の厚生科学審議会食品衛生監視部会で施行5年後の課題と対応について議論されています。HACCPは食品の安全規制の国際標準であり、米国、EU、英国をはじめ多くの国で制度化されていますが、元々は宇宙食の安全を確保するために開発された技術という話をご存じの方も多いかと思います。
 1960年代にNASAが開発したHACCPは米国のFDA、国立科学アカデミー、米国政府の諮問委員会を経て現在の内容となり、国際基準として採択され、欧米や日本をはじめ各国の規制となっています。本稿では米国での経緯を中心にまとめました。

1 1960年代
 米国航空宇宙局(NASA)が最初に開発した食品安全プログラムは、厳しい病原菌の基準と煩雑な検査手順を要求したため、ごく少数の食品しかこの基準に適合することができませんでした。このため、NASAはベーカリー製品の製造会社であり、宇宙食を開発していたピルスべリー社(Pillsbury、現在はGeneral Mills, Inc.の傘下)の協力を得て、プログラムを改善し、宇宙旅行に対応できる長期の賞味期限と病原菌フリー食品であることを保証し、食中毒菌のリスクを低減するシステムとしてHACCPを開発しました。
 当時のHACCPは、現在知られている7つの原則ではなく、①危害要因の分析、➁関連する工程での危害要因の防止、制御、排除方法の検討、➂重要管理点での頻繁なモニタリングという3つの原則から構成されていました。また、これらの作業すべてを綿密に記録することをHACCPのもう一つの重要な要件としました。無論、ピルズベリー社は宇宙開発計画のHACCPシステムの改善に取り組む中で、自社の食品安全対策にもHACCPの導入をすすめました。

2 1970年代
 1971年春、第1回全国食品保護会議(the Conference for Food Protection, 全米の食品業界、政府、学術界、消費者団体の代表者が食品安全に関する新たな問題を特定し、解決策や提言を策定する隔年開催の会議)でHACCPは食品業界に初めて紹介されました。その年の夏に缶詰スープによるボツリヌス中毒で2人が死亡し、全米缶詰協会(the National Canners Association、現在のthe National Food Processors Association)が食品医薬品局(FDA)に食中毒防止のための規制を求める請願を行い、1973年にFDAはNASAが開発したHACCPシステムを採用して、低酸性缶詰食品メーカーをHACCP規制の対象としました。

3 1980年代
 1980年に開催されたWHOとICMSF(the International Commission on Microbiological Specifications for Foods、国際食品微生物規格委員会)の合同会議でHACCPシステムは、先進国で生産される食品の安全性と品質を確保するための効果的かつ経済的な手法であり、途上国でも同様に適用できると評価され、国際的な取組みの推進が勧告されました。
 1985年には、米国科学アカデミー(National Academy of Science)は、HACCPシステムが食品の無作為検査という一般的な考え方とは異なり、食品の安全性を保証する適切な方法であると結論付けました。

4 1990年代
 1992年、NACMCF(the National Advisory Committee on Microbiological Criteria for Foods , 米国政府の食品微生物規格諮問委員会)がHACCPの7つの原則を初めて提示しました。
 1993年、FAOとWHOの合同プロジェクトであるコーデックス委員会が「危害分析重要管理点(HACCP)システムの適用に関するガイドライン」を国際基準として採択しました。
 同年、米国内のファストフードチェーンで加熱不十分なビーフパティに関連した腸管出血性大腸菌O157:H7の集団感染によって、4人の子供が死亡し、複数の州で700人以上の食中毒患者が発生しました。この集団感染を受けて、当該チェーンはHACCPシステムを導入しました。
 1996年、上記のファストフードチェーンでの集団感染発生後、従来よりも強固な食品安全規制システムの導入を検討してきた米国農務省食品安全検査局が病原体低減/HACCPシステムに関する規則を制定し、食肉、食鳥肉の処理加工にHACCPシステム導入を義務付けました。
 FDAは1995年に水産食品製造加工、2001年にジュース製造にHACCPシステムの導入を義務付けました。

5 2000年代以降
 2011年にFDA食品安全近代化法が制定され、食品取扱施設を対象にHACCPシステムを主な構成要素とする「危害分析及びリスクベースの予防管理」を導入を義務付けました。
 NASA spin-offでは、このように宇宙食の安全技術が今日の食品の安全につながっており、HACCP規制の導入によって、業界が政府から指示を受けるのではなく、自らが何をすべきかを決め、その理由を説明することが可能となった、また、企業は食品安全を達成するため、柔軟に新しい技術を開発、改善が可能となったとしています。

(参考)
NASA Spin off How the Moon Landing Led to Safer Food for Everyone, https://spinoff.nasa.gov/moon-landing-food-safety
History, development, and current status of food safety systems worldwide, Margaret D Weinroth, Aeriel D Belk, Keith E Belk, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32002225/