腸管出血性大腸菌について

腸管出血性大腸菌 O-157

 大腸菌は、ヒトや動物の腸管内に存在し、腸内容物1グラム当たり百万個から1億個常在していると考えられています。大腸菌には、多くの種類(血清型)があって、サルモネラ属菌と同じように細胞壁に含まれているリポポリサッカライドの抗原構造(O(オー)抗原)の違いによってO1からO189まで、また菌の周囲に見られる鞭毛の抗原構造 (H(エッチ)抗原)の違いによってH1からH56までに型別されています。腸管出血性大腸菌の代表的な血清型は、O157:H7ですが、すべての大腸菌が型別されているわけではなく、まだ血清型が決まっていない大腸菌も多く存在しています。(本ホームページ「よくあるご質問」参照)

 大腸菌の中には、飲食物とともに口から摂取されると、腸管に病原性を示すものがあり、これらを下痢原性大腸菌(食中毒起因菌)と呼んでいます。下痢原性大腸菌は、その菌が持っている病気を起こす原因(病原因子)や発病時の患者の症状によって「腸管毒素原性大腸菌」、「腸管病原性大腸菌」、「腸管侵入性大腸菌」、「腸管凝集付着性大腸菌」および「腸管出血性大腸菌」に分類されています。腸管出血性大腸菌は、菌が産生する毒素によりベロ毒素産生性大腸菌、志賀毒素産生性大腸菌とも呼ばれていますが、いずれも同じ菌です。

腸管出血性大腸菌に感染した時の症状

腸管出血性大腸菌に感染した場合、およそ4日から8日後に下痢や腹痛が現れ、その後、感染者の38~61%に大量の血便(出血性大腸炎)が認められています。 腸管出血性大腸菌は、ベロ毒素と呼ばれる「アフリカミドリザル」由来の腎細胞を死に至らしめる毒素を産生することが特徴で、この毒素は、腸管の粘膜に作用して、上皮細胞のタンパク合成を阻害します。したがって、毒素が作用した上皮細胞は、死滅し、粘膜から剥離するために腸管の毛細血管や小血管から出血が起こり、これが出血性大腸炎の発生する原因と考えられています。さらにベロ毒素は、血液を介して腎臓や脳に移行し、下痢発症後1週間前後で溶血性尿毒症症候群や脳症などを発症する患者が、8%程度みられると言われています。

近年、検出されている腸管出血性大腸菌の主要な血清型と食中毒事件

 日本で2007年から2011年の間に地方衛生研究所および保健所において検出された腸管出血性大腸菌数は、11,514で、主要な血清型は、O157 が7,311(63.5%)、O26が2,176(18.9%)、O111が640(5.6%)となっています。(当社ホームページ「腸管出血性大腸菌O26、O111およびO157の検査法について:表1、食中毒および感染症の患者から分離された主な腸管出血性大腸菌の血清型」を参照)
 記憶に残る食中毒事件としては、2007年の大学学食における患者数445名のO157食中毒事件 、2009年の焼肉チェーン店におけるサイコロステーキとペッパーランチを原因食品とするO157食中毒事件、2010年の三重県内の高校における患者数238名のO157食中毒事件、2011年の富山県、福井県他におけるユッケを原因食品とするO111、O157による患者数169名(死者4名:23年5月29日現在)の食中毒事件が挙げられます。
 一方、2011年には、ドイツ、スエーデン、デンマーク、フランスなどヨーロッパ諸国においてO104:H4による下痢症が流行し、欧州センター(European Center for Disease Prevention & Control 2011 7/27)の報告では、患者数3,082名中溶血性尿毒症症候群発症者が795名(内死者22名)、溶血性尿毒症症候群未発症者が2.287名(内死者9名)とされています。原因菌であるO104:H4は、ベロ毒素(1および2型)を産生し、かつ、腸管凝集付着性大腸菌が持つ腸管接合因子を保持していたことで重篤な症状になったと考えられています。

食中毒予防のための3原則を守りましょう。

①細菌を付けない!

調理前、調理中、調理後および食事の前には、必ず良く手を洗う。

生肉・生魚・野菜の調理は、専用のまな板や包丁を使用する。

使用後の調理器具は、良く洗浄後に熱湯をかけて消毒し、乾かしておく。

盛り付けは、洗浄・消毒された清潔な容器を使用しよう。

下痢や腹痛などの症状がある時には、調理業務はしない。その場合は、医師に相談したり、 保菌検査をして食中毒を起こす菌を持っていないか確かめる。

②食品に付着・混在している菌を増やさない!

冷蔵庫の温度は10℃以下、冷凍庫の温度はマイナス15℃以下にして使用する。

冷蔵庫や冷凍庫の扉の開閉は、素早く行い、開け放す時間の短縮に努める。

冷凍食品の解凍は、冷蔵庫の中で行うか、電子レンジで素早く行う。

生肉や生魚は、肉汁が漏れないように包んで保存する。

調理後の食品は、調理室(台所)に長時間おかず、早く食べる。

調理後に時間が経ち過ぎた食品は、思い切って捨てる。

③菌を殺す!

食品は、必ず中心部の温度が75℃で1分以上となるように加熱する。

電子レンジで加熱する時は、均一に加熱するようにする。

温めなおすときは、中心部の温度が75℃以上になる様に十分加熱する。