サルモネラ属菌の保菌検査に関するQ&Aのレポートを公開しました。

Q: サルモネラ属菌とは、どのような菌ですか?

A: サルモネラ属菌は、感染症法で三類感染症に指定されている腸チフス菌及びパラチフス菌と感染型の食中毒を起こす菌に分けることができます。食中毒を起こすサルモネラ属菌は1400種程度あり、代表的な菌として、ネズミチフス菌(サルモネラ・ティフィムリウム)やゲルトネル菌(サルモネラ・エンティリティディス)が知られています。通常、食中毒菌として100種程度が急性胃腸炎を起こすと考えられていますが、その他が食中毒を起こさないという確証はありません。 2000年にバリバリイカ(珍味イカ)がサルモネラ属菌に汚染されていて、全国的にサルモネラ食中毒を起こした事件の血清型(菌種)は、サルモネラ・オラニエンブルグ及びサルモネラ・チェスターによることが判明しています。

Q: サルモネラ属菌の血清型(菌種)とは、何ですか?

A: サルモネラ属菌は、菌が保有しているO(オー)抗原(菌体抗原:細胞壁の多糖質・蛋白・脂質複合体)とH(エッチ)抗原(鞭毛抗原:鞭毛の易熱性蛋白)を調べて血清型(菌種)を決定します。血清型(菌種)は、いわば背番号のようなもので菌を区別するために付けたものです。 血清型(菌種)によって菌を区別する理由は、食品及び患者から分離されたサルモネラ属菌の血清型(菌種)を調べて、両者が一致すればその食品を原因とする食中毒であることが立証できるからです。また、血清型(菌種)によっては腸チフス菌などの重篤な症状を起こす菌であるかどうかも判断することができるからです。さらにO抗原を決定することにより、原則的にはサルモネラ属菌であることの確証にもなります。

Q: サルモネラ属菌の保菌検査(検便)をなぜ実施するのですか?

A: サルモネラ属菌による食中毒は世界中で発生しており、日本では細菌性食中毒の原因菌として毎年上位を占めております。ちなみに、過去のサルモネラ属菌による食中毒の発生状況は表1のとおりです。 肉や卵などの動物性食品は、サルモネラ属菌に汚染されていることが多く、調理施設内で汚染された動物性食品から調理済食品が二次汚染されることにより食中毒が発生します。また、健康保菌者の排便後の手指の洗浄や消毒の不徹底によって二次的に食器や調理済食品が汚染され、食中毒につながることがあります。したがって、保菌検査(検便)を実施することは、食中毒を予防する上で重要なことと考えられています。

Q: 健康保菌者は、なぜ存在するのですか?

A: サルモネラ属菌は、多くの場合食べ物から感染します。感染しても全てのヒトが発病するとは限りません。発病せずに腸管や胆嚢内に菌が残り、排菌が続く場合があります。また、発病後、症状が治まってからも長期に渡って排菌するヒトもいます。これらのヒトを健康保菌者(無症状病原体保菌者)と呼び,感染した菌に抵抗力を持つために発病しないと考えられています。腸チフス菌及びパラチフス菌保菌者以外の食中毒を起こすサルモネラ属菌の健康保菌者は、通常治療の対象にはなりませんが、食品の調理や製造に従事されている方は、食中毒予防の観点から医師に相談すると良いでしょう。

Q: 健康保菌者は、どのような対応が必要ですか?

A: 健康保菌者は、次のように対応して下さい。
  1) 排菌しなくなるまで直接食品を扱う業務を避けることが望ましい。
  2) 直接食品を扱う業務に従事する場合は、手指の洗浄や消毒を十分に行い、使い捨て手袋を活用する。
  3) 排菌しなくなったことを確認するために,糞便検査(検便)を継続する。
  4) 家庭内に体調不良者(胃腸炎等)がいないか確認し、いる場合は速やかに医師の診察を受けることが望ましい。
  5) ペット動物(猿、犬、猫、カメやヘビ等の爬虫類)はサルモネラ属菌を保菌していることがあるので、飼育している場合は、濃厚な接触は避け、 触った場合はよく手指を洗う等感染しないように処置する。過去に飼い主がサルモネラ属菌の健康保菌者となった事例も報告されています。

Q: サルモネラ食中毒の予防上必要な対策は何ですか?

A: サルモネラ食中毒の予防のため、次の点に留意して下さい。
  1) 食肉・食鳥肉などは、生食を避ける。
  2) サラダに使う野菜は、十分に洗浄する。
  3) まな板、包丁などの調理器具は食肉用と野菜用を区別して使用し、使用後は洗浄、消毒を徹底する。
  4) 動物性食品(卵・肉類)は、新鮮で信頼できる品を使用する。卵や肉類に触った後は、入念に手洗いを行う。
  5) 動物性食品(卵・肉類)は調理にあたり十分加熱(75℃・1分以上)する。