食中毒の微生物検査法はどのようにしてできるのか

㈱中部衛生検査センター学術顧問
東海大学海洋学部 小沼博隆



2011年3月11日の地震と津波は家屋の倒壊や多くに人々が亡くなるなど、甚大な被害をもたらしました。さらに津波による原子力発電所の事故により、未曾有の放射能汚染を引き起こし、現在も解決の兆しが見えないのが現状です。
一方、食品分野では、時を同じくして牛肉の生食(ユッケ)による腸管出血性大腸菌O111(一部O157混合感染)による食中毒が発生、180人以上が感染し、5人が死亡しました。さらに、山形ではだんご、かしわ餅など和菓子を原因食品とする腸管出血性大腸菌O157食中毒が発生、118人が感染し、1人が死亡しました。また、ドイツではスプラウト(芽もやし)サラダが原因と推定された腸管出血性大腸菌O104:H4による食中毒が発生、4,000人以上が感染し、死者50人という大事件に発展しました。
これを受けて厚生労働省は急遽、腸管出血性大腸菌O111およびO104の検査法を作成し、全国の自治体ならびに登録検査機関等に通知しました。
このコラムを読んだ方々は、通常このように書いてあると「ユッケを食べると病気になって死ぬことがある。それにだんごなどの和菓子や野菜のもやしを食べても食中毒になって死ぬことがあるのだ。怖い・・・、大腸菌も怖い・・・」と感じられると思います。しかしながら、大腸菌O111やO104をどのようにして検出しているのか?何処で誰が検査しているのか?その検査方法は誰が作っているのか、どのようにして検査法が決まっていくのか?等等のことは多くの人々は知らないと思います。でも、原子力発電所のように大事故を起こした場合は、厳しく原因および責任追及が行われていくことはご存知の通りかと思います。そして、最終的な責任の所在は裁判によって明らかにされると思います。それは食中毒事件も同様で、事件が発生すると原因追究や責任追及とともに検査法の良否が問題にされることがあります。したがって、食中毒原因菌を正確・迅速に検出し、同定(決定)する検査方法の設定、操作方法ならびに技術が重要になります。もし、検査方法に不備があったり、技術者が未熟であったりした場合は、原因菌の特定ができないなど、正確なデータを把握することができません。そのため原因追究が遅れて防止対策が後手になり、より多くの人々が病気になり、死者が増えるなど重大な影響を及ぼすことになります。したがって、検査法の作成に当たっては、最新情報の収集と科学的根拠に基づいた妥当性確認と検証方法の確立が急務となります。本コラムでは難しいことは省略しますが、検査方法の設定にあたっては、統計学を連動させて最適な検査方法(検体数を含む)を選定することになります。
現在、これら検査法の作成は主に国立医薬品食品衛生研究所が行っています。すなわち、同研究所で作成されたプロトタイプ(原案)の試験法の妥当性につて多くの試験研究機関が参加してコラボレイティブスタディ(共同研究)を実施します。そして、統計学的に妥当性が確認された方法が検査法として厚生労働省から全国に通知されることになっています。したがって、国立研究機関の研究者は、日進月歩で進む試験法や検査技術を取り入れるため、日曜・祭日を返上して毎日深夜まで研究と試験法改定の作業に打ち込んでいる現状があることを皆様に知っていただきたいと思います。