大腸菌群と大腸菌について

大腸菌群について

大腸菌群は、食品衛生の分野で用いられる用語です。本菌群は、グラム陰性(グラム染色によって赤色に染まる)、無芽胞桿菌(棒状、円筒形で短い菌や長い菌の形状を示し、芽胞を作らない菌)で、乳糖を分解して酸とガスを作り出します。その生化学的性状は様々ですが、インドール(Indole)産生試験が陽性または陰性、メチルレッド(Methyl red)による酸産生試験が陽性、VP(Voges Proskauer)によるアセトイン産生試験及びクエン酸塩利用試験が陰性で、好気性または通性嫌気性を示す菌群を指します。好気性菌とは、菌が発育・増殖する際に必ず酸素を必要とし、通性嫌気性菌は、酸素があっても無くても発育・増殖できる菌を指します。

LB培地における乳糖のはっ酵およびガスの生成

大腸菌群に含まれる菌群および自然界における分布

本菌群には、大腸菌(エシェリヒア・Escherichia)属、シトロバクター(Citorobacter)属、クレブシェラ(Klebsiella)属、エルウィニア(Erwinia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エロモナス(Aeromonas)属など多くの菌種が存在します。これらの中で動物の腸内容物やふん便に多く生息している菌種は大腸菌です。一方、クレブシェラ属菌やシトロバクター属菌の中には、ふん便中よりも下水や土壌から多く検出される菌種も存在しています。また、エロモナス属菌は、水系の常在菌で井戸水、湖沼水、河川水、その周辺の土壌、魚介類などから検出され、健康なヒトや動物のふん便からは、稀にしか分離されません。

大腸菌群は、食品などの汚染指標菌とされています。

EMB培地における金属光沢集落 大腸菌群は、ヒト、家畜、その他の動物のふん便、下水、汚物などに存在しています。したがって、食品や飲料水などから検出された場合は、それらは不潔物によって汚染されたことが推定され、場合によっては赤痢菌、チフス菌、コレラ菌、食中毒起因菌などの腸管系病原菌に汚染されていること、および食品の調理・加工時の衛生管理が徹底されていないこと、特に加熱後の二次汚染があったことを判断する指標に用いられています。 これらのことから大腸菌群は、食品などが衛生的に取り扱われたか否かを判断する汚染指標菌とされています。 大腸菌群は広義に定義されているので、これらの群の中には病原性の 認められる菌、認められない菌ならびにふん便と直接係わる菌、係わらない菌など数多く存在しています。したがって、大腸菌群が検出されたからといって必ずしもふん便汚染があったと考えるのは早計です。前述した自然界における分布でも説明したように大腸菌群はふん便以外にも環境中に幅広く生息しています。したがって、腸管系病原細菌以外の細菌汚染によっても大腸菌群が陽性と判定されることを理解した上で、衛生管理対策を考えることが重要です。

大腸菌群の推定試験

大腸菌(Escherichia coli)およびE. coliについて

大腸菌(Escherichia coli)は、グラム陰性で運動性または非運動性の無芽胞の桿菌で、大部分が多くの炭水化物を発酵して酸とガスを産生しますが、ガス非産生菌株も稀に存在します。食品衛生の分野では、生化学的性状試験の結果、インドール産生試験及びメチルレッドによる酸産生試験が陽性でVP試験によるアセトイン産生試験及びクエン酸塩利用試験が陰性を示した菌とされています。また、大腸菌はヒトや動物の腸管内に常在しており、ほとんどの大腸菌はヒトに無害ですが、中には病原性を示す大腸菌も存在しています(参照:当ホームページ「腸管出血性大腸菌について」)。 大腸菌は、環境中では長く生存できないと考えられているので、食品から検出された場合は、新しいふん便汚染の可能性が考えられます。 食品衛生法でいう大腸菌(E. coli)は、ふん便汚染を指標としているため、分類学でいわれている大腸菌(Escherichia coli) を示すものではなく大腸菌群のうち、E.C.はっ酵管を用いて44.5℃で24時間以内に発育し、酸とガスを産生する菌を指します。本E. coliは、食品衛生法に基づく「食肉製品、生食用カキ及び冷凍食品で凍結させる直前に加熱されたもの以外の成分規格」で一定の基準を満たすことが義務付けられています。