野菜の浅漬けによる食中毒の発生について

弊社学術顧問 小沼博隆



2012年8月、北海道で浅漬けによる腸管出血性大腸菌O157食中毒が発生し、7名の尊い命(22日現在)が失われました。また、2011年8月にはシソ、ニンジンおよびキュウリで作った浅漬けによる赤痢菌食中毒が発生し、52名が感染した事例も報告されています。
 特に浅漬けが原因の腸管出血性大腸菌O157食中毒は、これまでに何度も起きています。すなわち、2000年に埼玉県の老人保健施設で発生した、かぶの浅漬けにより8名が感染し、3名が死亡した事例、2001年に埼玉県を中心に首都圏で発生した和風キムチ(浅漬け法で生産)により29名が感染した事例、2002年に福岡市の保育園で発生したキュウリの浅漬けにより112名が感染した事例、2005年に香川県の2箇所の老人福祉施設で浅漬けにより43名が感染し、6名が亡くなった事例などです。
 以上のように、野菜の浅漬けと食中毒は意外と関連性があります。以前は「浅漬けで食中毒」というと腸炎ビブリオによる食中毒を疑いました。しかし、最近の浅漬けは、国民の健康志向の影響もあって、減塩化と弱酸性化の傾向が進み、食塩濃度が1.5~3%、pH(水素イオン濃度)が5.0以上のものが増えています。食品の食塩濃度を上げて、pHを下げることは、細菌が発育・増殖することを抑制するための昔からの知恵でしたが、最近の浅漬けの製造法では、病原菌を制御することはできません。原材料の野菜は、土壌細菌などに汚染されており、洗浄・消毒によって、それらを除去した上で、食品として用いることが大切ですが、一度細菌に汚染されてしまうと除去することが困難になります。最後の手段としては、温度管理に留意した製造、加工、流通、保存などを行うことが重要ですが、今の浅漬けの製造条件では、細菌が生き続け、夏場には、室温で一気に菌が増えることが考えられます。さらに、腸管出血性大腸菌などは、少量の菌でも感染が成立しますので、食品の安全性の確保が重要になります。
 それには、敵(病原菌の性質)を知り、己(自分の施設でできること)を知ることによって安全な浅漬け生産することです。すなわち、どのような製品を作りたいのか、また、自分の施設で何ができるのかを知ることです。そのためには、製造方法、製品の流通・保存方法およびどのようなユーザー(幼弱者、高齢者、病人、要介護者、健康人など)に利用してもらうのかを明らかにし、これら一連の調査・実験を行い、製品の妥当性を確認することから始めましょう。
 安全な製品を生産・出荷するためには、常に製品が己の決めた安全基準をクリアーしているかを確認する必要があります。そのためには何をターゲットに計測してゆけば製品の安全性が保証できるのか、これを探すことが大切です。