新しく食中毒として取り扱われる胞子虫について

薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒・乳肉水産食品合同部会の提言に基づき、2011年6月17日、食安発0617第3号による、厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知によって、ザルコシスティス・フェアリー(Sarcocystis fayeri)及びクドア・セプテンプンクタータ(Kudoa septempunctata)が原因と考えられる有症事例は、食中毒事例として扱われることになりました。ここでは、厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知及び獣医学的知見に基づき解説します。

ザルコシスティス・フェアリー

ザルコシスティス(住肉胞子虫属)の原虫は、多くの種類の哺乳類、鳥類、𪘂歯類を中間宿主として、筋肉、心筋、脳などにシスト(嚢子又は嚢胞)を形成することが知られています。シストは、筋線維に沿って紡錘形、長円柱など細長い形状をしており、シストには、多数の三日月状の原虫(ブラディゾイド)を内包しています。 ザルコシスティス・フェアリーは、犬を終宿主、馬を中間宿主とする生活環を有し、ヒトには寄生しないことが報告されています(食安発0617第3号)。シストは、馬の筋肉内に長さ10mm×幅0.5~1mm程度の大きさで存在し、多数の紡錘形や三日月状のブラディゾイドを内包しています(図1)。

図1 馬肉中のザルコシスト

症状

ヒトがザルコシスティス・フェアリーが寄生している馬肉を刺し身(生食用-図2)で食べた場合、数時間後に一過性の嘔吐、下痢などの胃腸炎症状を呈します。なお、重症化した事例はないことが報告されています。

図2 食後下痢症状を呈したとされる輸入馬肉

予防対策

ザルコシスティス・フェアリーのシスト内のブラディゾイドを失活させる条件として、次の対策が有効と考えられています。

クドア・セプテンプンクタータ

クドア・セプテンプンクタータは、粘液胞子虫の一種でヒラメから発見された新種の寄生虫です。クドア属の粘液胞子虫の胞子の形は、尖った星型の形状で6個の極嚢を有していて(図3、4)、下等脊椎動物、特に淡水魚や海水魚の寄生原虫として多種類が発見されています。クドア・セプテンプンクタータは、養殖ヒラメの刺身を食べて後、短時間で下痢や嘔吐を伴った食中毒事例の推定原因食品の残品の顕微鏡検査やDNA検査により発見されています(参考資料:厚生労働省「食中毒統計」、表1 クドア食中毒事例)。ヒラメから検出されるクドア・セプテンプンクタータは、マグロなどに寄生し、ジェリーミート(肉質が軟化・融解した状態)の原因となる粘液胞子虫と異なり、ジェリーミート状にならないことが報告されています。またクドア属は、ヒトの体内で増殖せず、胞子は、長期間ヒトの体内に留まる可能性は低いと考えられています(IASR:Vol. 33p. 149-150. 2012年6月号)。

図3,4 マグロのジェリーミートから検出された粘液胞子虫の胞子

症状

食中毒症状は、養殖ヒラメの筋肉内にクドア胞子が存在する刺身などを食べた場合、平均5時間(1時間から22時間)で一過性の下痢や嘔吐などの胃腸炎症状を呈します。その症状は軽く、予後は良好であることが報告されています。また、発症摂取胞子数は、過去の事例から7.2×10⁷個/ヒトと推定されています。

予防対策

クドア・セプテンプンクタータの胞子を失活させる条件として、次の対策が有効と考えられています。

表1.クドア食中毒事例、2011年6~12月