衛生指標菌について

 衛生指標菌とは、食品、調理器具、手指などの細菌汚染状況や施設の衛生管理が実施されているかを客観的に評価するための指標となる細菌で、「一般細菌数(生菌数)」、「大腸菌群」、「糞便系大腸菌群(E.coli)」、「黄色ブドウ球菌」などがあります。

「一般細菌数(生菌数)」

 一般細菌数(生菌数)とは、食品や調理器具などの拭取材料(以下、検体)中に存在する好気的(酸素を必要とする)状態で、35℃・48時間(食品の種類によっては24時間)培養して発育する細菌の数をいいます。
 検査法としては、検体を標準寒天培地に混釈、培養後に発育したコロニー(細菌の塊)を一般細菌(生菌)として計測し、一般細菌数(生菌数)を算出します。
 一般細菌数(生菌数)は、食品や調理・製造場の細菌汚染の度合いを示すとともに、食中毒起因菌の大部分が35℃前後でよく発育することから衛生的な状況を評価する一つの指標になります。なお、一般細菌数(生菌数)は、食品衛生法において食品(乳および乳製品、冷凍食品など)によって成分規格が定められています。なお、成分規格が定められていない食品において、一般細菌数(生菌数)は、安全性を示すものではありませんが、菌数が多いということは、食中毒起因菌の存在や増殖の可能性を示しており、注意が必要と考えられます。

写真 標準寒天培地上の一般細菌

「大腸菌群」

 大腸菌群とは、グラム陰性(グラム染色で赤く染まる)桿菌で、乳糖を分解して酸とガスを産生する好気性(酸素の有る状態で発育)又は通性嫌気性(酸素が有っても無くても良い状態で発育)菌を指し、E.coli(大腸菌)、CitrobacterKlebsiellaProteusなどがあります。
 大腸菌群は、ヒトや動物の腸管に存在するため、大腸菌群が検出された場合は糞便の汚染が有ったと考えられがちですが、大腸菌群は、ヒトや動物の腸管だけでなく自然界にも広く分布しているので、大腸菌群が検出されたからといって必ずしも糞便の汚染が有ったとは限りません。したがって、未加熱の原材料(生野菜、生肉、生魚など)では、環境由来の大腸菌群が検出される場合もあります。
 検査法としては、検体をデソオキシコレート寒天培地に混釈、35℃・24時間培養後に発育した赤色のコロニーを大腸菌群として、さらに、確定試験、完全試験を実施して判定します。
 食品衛生法では、大腸菌群が検出された場合に販売できないと成分規格が定められている食品として乳、乳製品、清涼飲料水、冷凍食品、魚肉ねり製品などがあります。また、成分規格が定められていない食品においては、大腸菌群を検査することで加熱が十分に行われたかを判断することができます。

写真 デソオキシコレート寒天培地上の大腸菌群

「糞便系大腸菌群(E.coli)」

 糞便系大腸菌群とは、大腸菌群の中で44.5℃で発育して、乳糖を分解して酸とガスを産生する細菌で、食品衛生法では、大腸菌(E.coli)*1とは区別してE.coliとしています。
 E.coliは、ヒトや動物の腸管に存在し、自然界では死滅しやすいことから糞便汚染を示すものと考えられています。したがって、E.coliを検査することで、衛生的な取扱いや糞便汚染の可能性を判断することができます。また、大腸菌群汚染の可能性が高い未加熱の原材料(生野菜、生肉、生魚など)では、大腸菌群よりE.coliを検査した方が糞便汚染状況を知ることができると考えられています。
 検査法としては、EC培地(液体培地)を用いて、44.5℃・24時間培養後にガスの産生が確認されたものをE.coliとして、さらに、確定試験、完全試験を実施して判定します。
 食品衛生法では、E.coliが検出された場合に販売できないと成分規格が定められている食品として、食肉製品、冷凍食品、生食用かきがあります。

*1 糞便系大腸菌群の中で、インドール産生性(I)、メチルレッド反応(M)、Voges-Proskauer反応(Vi)およびクエン酸塩利用性(C)の4つの性状によるIMViCテストにおいて、「+ + ― ―」または「― + ― ―」を示したものを大腸菌(E.coli)としています。大腸菌(E.coli)が検出された場合は、大腸菌群や糞便系大腸菌群(E.coli)が検出された場合より不衛生な取扱いを受けたことが考えられ、病原菌汚染の可能性が高いと考えられています。

「黄色ブドウ球菌」

 黄色ブドウ球菌とは、グラム陽性(グラム染色で青く染まる)球菌で、ヒトの手指、口腔内、鼻腔内、髪の毛などに広く常在する毒素型食中毒の代表的な菌の一つです。手指の化膿傷や荒れた部分には多く存在するので、食品から本菌が検出された場合は、調理あるいは製造従事者による不衛生な取扱いが考えられますが、直ちに黄色ブドウ球菌食中毒が発生するとは限りません。本食中毒では、食品に付着した菌が増殖する時に産生される耐熱性(100℃・30分)の毒素(エンテロトキシン)を食品と共にヒトが喫食することで1~6時間後に嘔吐や下痢と言った症状が現れます。
 検査法としては、卵黄加マンニット食塩寒天培地の表面に検体を塗抹し、35℃・48時間培養後に卵黄反応のある黄色のコロニーの発育を確認します。
 食品衛生法では、黄色ブドウ球菌が検出された場合に販売できないと成分規格が定められている食品として、食肉製品があります。

写真 卵黄加マンニット食塩寒天培地上の黄色ブドウ球菌

「その他の衛生指標菌」

 その他の衛生指標菌としては、「低温細菌(5~7℃、7~10日間で発育する細菌)」、「高温細菌(55℃以上で発育して食品を腐敗や変敗させる細菌)」、「芽胞菌(耐熱性の芽胞を形成する菌で、好気性のバチラス属菌と嫌気性のクロストリジウム属菌)」、「真菌(かび・酵母)」などがあり、必要に応じて検査を行っています。