新しく食中毒起因菌として報告することになった腸内細菌科Escherichia属の新しい菌Escherichia albertiiについて

 2013年10月3~4日にタワーホール船堀(東京都江戸川区)で開催された日本食品微生物学会において、熊本県保健科学研究所は、Escherichia albertiiによる集団下痢症の発生を報告しました。また、福岡市保健環境研究所は、2003年および2005年に発生した集団下痢症2事例の「さかのぼり調査」において、その原因がEscherichia albertiiと結論づけ、同学会で報告しました。さらに、秋田県健康環境センターは、2012年に食中毒が疑われた集団下痢症からEscherichia albertiiを分離したことを報告しており、わが国においては、この菌による集団下痢症は、決して珍しいものではないことが窺われるので、本稿では、この新しい菌について紹介します。

Escherichia albertiiの発見

 2003年、Huysらは、バングラデッシュ人民共和国で発生した小児下痢症の患者から分離されたソルビトールおよび乳糖非発酵の腸内細菌科に属する菌について、生化学的性状、16S rRNA遺伝子等を検討し、大腸菌の近縁種の新しい菌Escherichia albertiiであることを発表しました。

Escherichia albertiiの性状

 この菌は、特徴的な生化学的性状は示さず、大腸菌の特徴であるインチミンの遺伝子eaeを保有していますが、 大腸菌としての定型的な生化学的性状を示しません。また、人の病原菌としての検討は、十分になされておらず不明な点が多くあります。
現在、Escherichia albertiiの検査法として、腸内細菌でキシロース非発酵という性状を示した菌について、マルチプレックスPCR法により特異的な遺伝子を検査する方法が推奨されています。すなわち、マルチプレックスPCR法による遺伝子検査で、eae(+)、uidA(-),lysP(+),mdh(+),cdtB(+)を示した菌をEscherichia albertiiと同定しています。

今後の課題

 先に記載したように熊本県や秋田県において本菌による集団下痢症が発生しており、今後注目しなければならない菌と考えられ、国立感染症研究所は、Escherichia albertiiの行政的な位置づけについて結論が得られるまでの間、下痢症から分離されたこの菌について志賀毒素産生性を保有している場合は腸管出血性大腸菌(EHEC)、eae(腸管接合性)遺伝子のみ保持している場合は腸管血清型大腸菌(EPEC)として報告するように求めています。しかし、現在この菌は、大学、国および都道府県など一部の研究機関でしか検査ができず、一般の検査センターでも容易にできる検査法の確立が望まれています。