「食中毒」って怖いですね

食中毒とは、「飲食に起因する衛生上の危害」を指し、原因物質には、細菌、原虫、ウイルス、自然毒、化学物質などがあります。例えば、アニサキスが原因となる急性胃腸炎のような寄生虫によるものも含んでいます。食中毒事件は、平成12~21年の全国統計で年間約1,600件発生し、患者数約30,000人(うち死者10人)にもなります。死亡例は、ほとんどがフグ、キノコ等の自然毒によるものですが、サルモネラ属菌や腸管出血性大腸菌によるものもあります。病因物質としては、以前は食中毒事件の半数以上を占めていた腸炎ビブリオが6%強と激減し、これに代ってカンピロバクターが36%強、ノロウイルス等が24%強と増加しており、新しい病因物質によるものが主役となってきています。

平成24年8月に北海道で「白菜の浅漬け」を原因食品とする腸管出血性大腸菌O157による大規模食中毒が発生して、8人の方が亡くなるという痛ましい事件が起きました。また、少しさかのぼると、平成23年4月に北陸地方の焼肉チェーン店での生食用食肉による腸管出血性大腸菌O111の大規模食中毒事件が発生して、4人の方が亡くなりました。腸管出血性大腸菌による食中毒事件は件数は少ないですが、乳幼児やお年寄りでは重篤な症状を現すので問題です。おいしいものを食べて命を失うなんてだめですよね。

以前は高温多湿になる夏期が食中毒多発シーズンでしたが、最近は冬期にも多発するようになりました。これは、主にノロウイルス食中毒が冬期に発生することによります。 このように食中毒は発生時期、原因物質が変化してきていて、これを見据えた適切な予防対策を取ることが必要です。

環境衛生面の向上、抗生物質等の治療薬の進歩によりいわゆる細菌感染症がほぼ制圧できたとされている現在でも、食中毒は一向に減少傾向を見せていません。その理由は、食品のほとんどの原材料が自然界で栽培されたり、採取されたりするため自然環境からの汚染が避けられないためと考えられます。また、食品の多くは、水分及び栄養分を十分に含んでおり、細菌の増殖にとっての好条件を備えていて、これにさらに、適度の温度という条件が加わると急激に増殖し、発症菌量に達した食品を喫食した場合に細菌性食中毒に結びつきます。

また、最近増加してきたカンピロバクターやノロウイルスは、1人あたり100個以下の少ない菌量やウイルス量で食中毒を引き起こしますし、腸管出血性大腸菌による食中毒も同じです。したがって、温度コントロールだけではこれらの食中毒を予防することは困難で、二次汚染防止の徹底、十分な加熱殺菌の励行により対応することが重要です。

腸管出血性大腸菌は、大腸菌の中で、食品とともに経口的に摂取された場合に腸管内で病原性を示すもののうちVero毒素を産生して血便などを現すもので、主な血清型には、0157、O26、O111などがあります。ヨーロッパではO104による大規模食中毒事件が起きました。元々は主に牛の腸管内にいる菌で、これが二次汚染した食肉や調理器具等を介して食中毒に結びつきます。食肉は十分に加熱してから喫食しましょう。

鶏の約80%が腸内にカンピロバクターを保有していて、解体処理された鶏肉の約15%が汚染されていると言われています。この食中毒は、鶏肉の加熱不足、野菜等の食材あるいは調理器具への二次汚染が原因で発生することが多く、バーベキューで子供が鶏肉を奪い合って食べる光景をよく目にしますが、このような時に生焼けの鶏肉を食べることにより発生すると言われています。また、牛レバーも約10%の汚染が確認されており、これの生食による食中毒も発生し、現在は生食禁止とされています。

ノロウイスルは、人から人へ感染した場合には感染症として、食品を介した場合には食中毒としても扱われます。本ウイルスの無症状保有者の割合が3~10%、二枚貝等の魚介類の汚染率が約10%であり、本ウイルスが食品取扱施設内へ日常的に侵入すると考えられ、決して油断できません。県の委託により当社が最近実施したノロウイルス食中毒が発生した施設の調査では、便座、便座付近の床からノロウイルスが検出されており、トイレの設備等における二次汚染の防止対策が重要です。

サルモネラ食中毒は、発生件数の約10%強程度ですが、動物性食品を多く摂食するようになり、今後さらに増加することを予測する専門家もいます。重篤な症状を呈し、抵抗力の低下した高齢者が感染した場合には生命に影響することもあり、注意する必要があります。

多くの専門家は、腸炎ビブリオ食中毒の激減理由を、関係者の意識向上のほか、魚介類の漁獲から食卓までの流通・保管全体において低温管理を行うコールドチェーンシステムの普及・徹底にあると考えています。これらにより腸炎ビブリオ食中毒は制圧されつつあり、他の食中毒もこのようにしたいものです。

過去の食中毒事件に学ぼう