平成27年10月号のレポートを掲載しました。

(株)中部衛生検査センター
 学術顧問
森田邦雄

1 平成26年度食品からのダイオキシン類一日摂取量調査等の調査結果公表

平成27年10月5日、厚生労働省医薬・生活衛生局 生活衛生・食品安全部 監視安全課は、平成26年度の調査結果を取りまとめ公表した。その概要は次のとおり。 平成26年度における食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、 0.69 pg TEQ/kg bw/ 日 ( 0.26 ~2.02 pg TEQ/kg bw/ 日)と推定され、日本における耐容一日摂取量(TDI) 4 pg TEQ/kg bw/日より低いものであった。 調査は、全国7地域8機関で、購入した食品を平成20~22年度国民健康・栄養調査の地域別食品摂取量(1歳以上)を踏まえて調製を行い、13群に大別して、混合し均一化したもの及び飲料水(合計14食品群)を試料としてダイオキシン類を分析し、国民の平均的な食生活におけるダイオキシン類の一日摂取量を算出した。 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099619.html2 国際がん研究機関は牛肉、豚肉等及び食肉製品の発がん分類公表 (1) 平成27年10月26日、国際がん研究機関(IARC International Agency for Research on Cancer)は「「red meat」(牛肉、豚肉、ラム、マトン、馬肉及び山羊肉)について「ヒトに対しておそらく発がん性がある(グループ2A)」に、加工肉(食肉に食塩添加、塩漬、発酵、燻煙その他の加工をしたもの)について「人に対して発がん性がある(グループ1)」に分類したことを公表した。 牛肉、豚肉等の食肉については大腸がんとの関連が、また、すい臓がん、前立腺がんとの関連があるとし、加工肉については大腸がんとの関連があるとしている。引用した文献は800件以上で重要な文献は20年にわたるコホート調査結果である。また、牛肉、豚肉等の食肉及び加工肉を摂食することのリスクとベネフイットについて検討し、栄養上の勧告をする必要があることを指摘している。 http://www.iarc.fr/en/media-centre/pr/2015/pdfs/pr240_E.pdf (2) この発表に対し、平成27年10月27日内閣府食品安全委員会は「「red meat」と加工肉に関するIARCの発表について」の見解を公表した。その主な点は次のとおり。 IARC(国際がん研究機関)は、発がん物質のハザードとしての特性を中心に解析を行い分類しており、この分類は、発がん性を示す根拠があるかどうかを重視し、ハザードの毒性影響の強さやばく露量が及ぼす影響(定量的な評価)はあまり考慮されていない。 今回の評価をもって「食肉や加工肉はリスクが高い」と捉えることは適切でないと考える。食品のヒトの健康影響については、リスク評価機関におけるリスク評価を待たなければならない。 今回の発表(詳細は公表されていませんので、今後公表される内容を検討することが必要です。)は疫学データに基づいているが、一般に、疫学データを分析する際には交絡要因(様々な関連する要因)を考慮することが必要となり、容易に結論が出せるものではない。 食品のリスク評価は、その物質の代謝、毒性試験(短期の急性毒性、長期の慢性毒性、生殖発生毒性、遺伝毒性、発がん性などの試験)、ばく露評価など、十分なデータに基づいて予見を持たずに行われることが必要。 食品の安全性に関する様々な情報が発信されている。そして、健康な食生活を送っていくためには、それらの情報の正確さや食生活への影響の大きさを見分けるのは難しいことである。それらに振り回されず、多くの種類の食品をバランスの良く食べることが大切だ。食品安全委員会では、今後とも科学的で正確な情報を迅速に届け、国民の皆様が健康な食生活ができるよう努めていく。 (一部報道で「red meat」の和訳を赤身肉としているが、「red meat」 は、牛肉、豚肉、羊肉などを指し、日本語でいう霜降り肉の対義語の赤身肉は「lean meat」です。) https://www.facebook.com/cao.fscj (3) 一方、国立がん研究センターは、多目的コホート研究「赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて」を公表しており、その主な内容は次のとおり。 いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っており、1995,98年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった、45~74才のがんや循環器疾患の既往のない約8万人の方を、2006年まで追跡した調査結果にもとづいて、肉類の摂取量と大腸がんの発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Asia Pac J Clin Nutr. 2011年20巻603‐612ページ) 今回の研究では、追跡開始時におこなった食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、肉類の総量や赤肉(牛・豚)・加工肉(ハム・ソーセージ等)の1日当たりの摂取量を少ない順に5グループに分け、その後に生じた結腸・直腸がんの発生率を比べました。その結果、赤肉の摂取量が多いグループで女性の結腸がんのリスクが高くなり、肉類全体の摂取量が多いグループで男性の結腸がんリスクが高くなりました。また、男女ともにおいて加工肉摂取による結腸・直腸がんの統計的に有意なリスク上昇は見られませんでした。 http://www.iarc.fr/en/media-centre/pr/2015/pdfs/pr240_E.pdf 肉類の摂取は結腸がんのリスクを上げる 追跡期間中に1,145例の大腸がん(結腸がん788人、直腸がん357人)の発生が確認されました。肉類全体及び赤肉・加工肉摂取量のランキングによる、結腸・直腸がんの相対危険度を比較しました。その際、年齢、飲酒、肥満など、大腸がんのリスクを高めることがわかっている別の要因の影響を取り除きました。 その結果、肉類全体の摂取量が多いグループ(約100g/日以上の群)で男性の結腸がんリスクが高くなり、赤肉の摂取量が多いグループ(約80g/日以上)で女性の結腸がんのリスクが高くなりました。男性において赤肉摂取量によるはっきりした結腸がんリスク上昇は見られませんでした。 加工肉(ハム・ソーセージなど)摂取、日本人の一般的なレベルなら大腸がんリスクとならない 男性・女性のいずれにおいても、加工肉摂取による結腸・直腸がんのリスク上昇は見られませんでした。ただし、加工肉摂取量をもう少し細かく10グループに分けたところ、男性において最も摂取量の多い群で、結腸がんリスクの上昇が見られました(摂取量の少ない下位10%の群と比べ、上位10%の群では発生率が1.37倍)。つまり、日本人が一般的に食べるレベルでは、はっきりとしたリスクにはならないけれども、通常よりもはるかに多量に摂取する一部の男性では、結腸がん発生リスクを上げる可能性は否定できません。 赤肉摂取と大腸がんについて 赤肉による大腸がんリスク上昇のメカニズムは、動物性脂肪の消化における二次胆汁酸、ヘム鉄による酸化作用、内因性ニトロソ化合物の腸内における生成、調理の過程で生成される焦げた部分に含まれるヘテロサイクリックアミン(発がん物質)等の作用が指摘されてきました。これらの作用は、牛・豚肉といった赤肉に限らず、肉類全体の摂取を通してももたらされる共通のものとして捉えることができます。今回の結果では、赤肉摂取による直接的な大腸がん発生リスク上昇は男性において観察されませんでしたが、牛肉・豚肉は肉摂取量全体の85%程度を占めることから、男性でも赤肉摂取による結腸がんリスク上昇の可能性は否定できないでしょう。つまり、肉類全体の摂取量と結腸がんリスク上昇の関連が見られる以上は、牛肉や豚肉も含めて食べ過ぎないようにする必要があると考えられます。 http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2869.html