平成28年12月号のレポートを掲載しました。

(株)中部衛生検査センター
 学術顧問
森田邦雄

1 食品衛生管理の国際標準化に関する検討会最終とりまとめ(案)まとまる

平成28年12月14日開催された厚生労働省の第9回食品衛生管理の国際標準化に関する検討会において標記最終とりまとめ(案)がまとまった。 平成28年10月、同検討会において取りまとめられた中間とりまとめについて、平成28年10~11月に国民から意見募集を行い、その結果を踏まえて、更に議論を行い、最終とりまとめを行ったものである。その主な点は次のとおり。 (1) 衛生管理についての基本的な考え方 一般衛生管理は、食品の安全性を確保する上で必ず実施しなければならない基本的な事項であり、加えて、食中毒の原因の多くは一般衛生管理の不備であることから、食品の安全性を確保するためには、施設設備、機械器具等の衛生管理、食品取扱者の健康や衛生の管理等の一般衛生管理を着実に実施することが不可欠である。このため、一般衛生管理をより実効性のある仕組みとする必要がある。 その上で、HACCPによる衛生管理の手法を取り入れ、それぞれの事業者が使用する原材料、製造方法等に応じて、食中毒菌汚染、異物混入等の危害のリスクを把握し、それらの危害を防止するために特に重要な工程を管理し、検証・改善する仕組みを自ら構築し、実行することにより、我が国の食品の安全性の更なる向上を図ることが必要である。 (2) 対象となる事業者の範囲 HACCPによる衛生管理の考え方は、事業者が自ら考えて安全性確保のための取組を向上させることであり、フードチェーン全体で取り組むことによって、原材料の受入れから製造・加工、販売に至るまで各段階で関わる食品等事業者のそれぞれの衛生管理の取組・課題が明確化されることにつながる。 このため、国内の食品の安全性の更なる向上を図る観点から、フードチェーンを構成する食品の製造・加工、調理、販売等を行う食品等事業者を対象とすることが適当である。 また、食品衛生法の営業の規制が施設単位で適用されていることを踏まえ、食品の製造・加工、調理、販売等を行っている営業の施設単位で適用されることを基本とすることが適当である。 対象となる食品等事業者の範囲については、現行の食品衛生法の許可業種(34業種)に限らず、全ての食品等事業者を対象として検討することが適当である。 (3) 衛生管理計画の作成 食品等事業者自らが使用する原材料、製造方法、施設設備等に応じて、食品等を製造・加工、調理等を行っている施設ごとに、一般衛生管理及びHACCPによる衛生管理のための計画(以下「衛生管理計画」という。)を作成することを基本とすることが適当である。 衛生管理計画の作成に当たっては、食品の業態や特性を考慮し、業界団体等と連携しながら、当該計画の策定及び実施の支援を行うことが必要である。 衛生管理計画には、一般衛生管理の概要に加え、後述する基準Aにあっては製品説明書、製造工程図、危害要因分析表及びHACCPプランの概要、基準Bにあっては製品の概要、必要に応じてHACCPによる管理の概要が含まれると想定される。((4)参照) (4) 適用する基準の考え方 コーデックスのガイドラインに基づくHACCP(以下「コーデックスHACCP」という。)の7原則が一定程度普及している我が国でHACCPによる衛生管理を制度化するに当たっては、コーデックスHACCPの7原則を要件とする基準(基準A)を原則としつつ、コーデックスHACCPの7原則をそのまま実施することが困難な小規模事業者や一定の業種については、コーデックスHACCPの7原則の柔軟な運用を可能とするHACCPの考え方に基づく衛生管理の基準(基準B)によることができる仕組みとすることが適当である。 a) 基準A(コーデックスHACCPの7原則に基づく衛生管理)コーデックスHACCPの7原則を要件とし、具体的には、別紙参考の考え方に基づくものとする。 b) 基準B(HACCPの考え方に基づく衛生管理(一般衛生管理を基本として、業界団体が事業者の実情を踏まえ、厚生労働省と調整して策定した使いやすい手引書等を参考にしながら必要に応じて重要管理点を設けて管理する衛生管理)) 従業員数が一定数以下等の小規模事業者のほか、当該店舗での小売販売のみを目的とした製造・加工、調理を行っている事業者、提供する食品の種類が多く、かつ、変更頻度が高い業種又は一般衛生管理による対応で管理が可能な業種等(飲食業、販売業等)、一定の業種を対象とする。 一般衛生管理を基本として、業界団体の手引書等を参考にしながら必要に応じて重要管理点を設けて管理することを可能とし、その他の点についても柔軟な取扱いを可能とする。 このため、基準Bについては、食品の特性や業態等に応じて、一般衛生管理に加えて重要管理点を設けるものから一般衛生管理のみの対応で管理が可能なものまで、多様な取扱いが想定される。 (5)総合衛生管理製造過程承認制度の承認施設については、当該承認基準がコーデックスHACCPの7原則に基づくものであることから、基準Aの要件を満たしていると考えられる。 (6)小規模事業者を含む食品等事業者が円滑かつ適切にHACCPによる衛生管理に取り組むことが可能となるよう、十分な準備期間を設けることが必要である。 その際、事業者にきめ細かな支援を行っていくことができるよう、地方自治体等の監視指導とも連動して計画的に取り組む必要がある。 http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000145933.pdf 中間とりまとめに関する主な意見 http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000145929.pdf2 感染性胃腸炎の流行状況を踏まえたノロウイルスの一層の感染予防対策の啓発 平成28年12月21日、厚生労働省は健康局結核感染症課及び医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部監視安全課の連名で各都道府県等 衛生主管部(局)宛標記事務連絡を出した。その内容は次のとおり。 ノロウイルスの感染及び食中毒の予防については、平成28年11月22日付け事務連絡「感染性胃腸炎の流行に伴うノロウイルスの予防啓発について」において、啓発や指導等を行っていただくよう依頼しました。 直近の第49週(12月5日~12月11日)において、本シーズンの感染症発生動向調査における感染性胃腸炎患者の報告数は、直近5年間で最も流行した平成24 年のピーク時に迫る水準となっています(一部の自治体で検出された多くのノロウイルスは過去に流行したGII.2の変異株であることが判明しています。)。 つきましては、ノロウイルスの感染や食中毒の予防の観点から、引き続き「ノロウイルスに関するQ&A」(最終改定:平成28年11月18日)、「ノロウイルス等の食中毒予防のための適切な手洗い(動画)」等を参考に、手洗いの徹底、糞便・吐物の適切な処理等、より一層の感染予防対策の啓発に努めるようお願いします。 加えて、これまで感染者が食品の調理に従事することによる食中毒も多発していることから、従事者の健康状態の確認を徹底するとともに、体調不良者については食品の調理に従事しないよう引き続き指導方よろしくお願いします。 なお、現在、流行が確認されているノロウイルスGII.2変異株については、現在市中で使用されているノロウイルス迅速診断検査キット(イムノクロマト法を用いたキット)では、他の株より更に感度が低い可能性があることが、国立感染症研究所より指摘されています。ノロウイルスによる感染の疑いがある場合は、検査結果に関わらず感染防止対策等に努めていただくことをご留意願います。 「参考」 (※1)ノロウイルス等検出状況 2016/17 シーズン http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-noro.html (※2)宮城県内で流行しているノロウイルス(NoV)の遺伝子型について http://www.nih.go.jp/niid/ja/norovirus-m/norovirus-iasrs/6921-443p03.html (※3)ノロウイルスに関するQ&A http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuch u/kanren/yobou/040204-1.html (※4)ノロウイルス等の食中毒予防のための適切な手洗い(動画) 事務連絡 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000146727.pdf3 クマ肉による旋毛虫(トリヒナ)食中毒事案について 平成28年12月23日、厚生労働省は医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部監視安全課長名をもって各都道府県等衛生主管部(局)長宛標記通知を出した。これは、茨城県内の飲食店において、加熱不十分な「熊肉のロースト」を喫食した利用客及び営業者27名のうち,15名が喫食後5日~20日で発疹、発熱、倦怠感等の症状を呈する旋毛虫(トリヒナ)食中毒が発生したことから、下記について、関係事業者及び消費者に対し注意喚起を行うとともに、必要に応じ、農林部局等関係部局とも連携し、関係事業者への監視指導を行うようお願いするというものである。 (1) 野生鳥獣肉による食中毒の発生を防止するため、中心部の温度が摂氏75度で1分間以上又はこれと同等以上の効力を有する方法により、十分加熱して喫食すること。 (2) 肉眼的異常がみられない場合にも高率に微生物及び寄生虫が感染していることから、まな板、包丁等使用する器具を使い分けること。また、処理終了ごとに洗浄、消毒し、衛生的に保管すること。 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000147007.pdf4 食品衛生管理の国際標準化に関する検討会最終とりまとめ公表 平成28年12月26日、厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部監視安全課は標記とりまとめを公表した。これは、平成28年12月14日開催された第9回食品衛生管理の国際標準化に関する検討会における最終とりまとめ(案)とほぼ同様な内容である。なお、同時に「食品衛生管理の国際標準化に関する検討会最終とりまとめ(概要)」も公表された。その内容は次のとおり。 【現状】 ○ 食品衛生管理の国際標準であるHACCPは先進国を中心に義務化。 ○ 食中毒事件数は下げ止まりの傾向。今後の高齢化による食中毒リスク増加の懸念。 ○ 金属等の危害性のある異物混入による回収告知件数が増加傾向。 ○ 多くの食中毒の原因は一般衛生管理の実施の不備。 ○ 食品流通の更なる国際化、東京オリンピック・パラリンピック等を見据えた我が国の食品衛生管理の水準を国内外に示す必要。 【趣旨】 ○ 国内の食品の安全性の更なる向上には、HACCPによる衛生管理の定着を図る必要。 ○ HACCPによる衛生管理の考え方は、これまでの衛生管理と全く異なるものではなく、事業者が自ら考えて安全性確保の取組を推進するもの。 ○ フードチェーン全体で取り組むことにより、各段階で関わる食品等事業者のそれぞれの衛生管理の取組・課題が明確化。これにより、フードチェーン全体の衛生管理が「見える化」され、食品の安全性の向上につながる。 ○ あわせて、施設設備の衛生管理等の一般衛生管理の着実な実施が不可欠。 ○ 食品ごとの特性や、事業者の状況等を踏まえ、小規模事業者等に十分配慮した実現可能な方法で着実な取組を推進。 【制度のあり方の方向性】 ○ 基本的な考え方 一般衛生管理をより実効性のある仕組みとするとともに、HACCPによる衛生管理の手法を取り入れ、我が国の食品の安全性の更なる向上を図る。 ○ 対象事業者 フードチェーンを構成する食品の製造・加工、調理、販売等を行う全ての食品等事業者が対象。 ○ 衛生管理計画の作成 食品等事業者は、一般衛生管理及びHACCPによる衛生管理のための「衛生管理計画」を作成。 ○ HACCPによる衛生管理の基準 ● 基準A:コーデックスHACCPの7原則を要件とするもの。 ● 基準B:一般衛生管理を基本として、事業者の実情を踏まえた手引書等を参考に必要に応じて重要管理点を設けて管理するなど、弾力的な取扱いを可能とするもの。小規模事業者や一定の業種等(注)が対象 (注)一定の業種等とは、当該店舗での小売のみを目的とした製造・加工、調理を行っている事業者 / 提供する食品の種類が多く、かつ、変更頻度が高い業種 / 一般衛生管理で管理が可能な業種等(飲食業、販売業等) ○ 小規模事業者等への配慮 ガイドラインの作成、導入のきめ細かな支援、準備期間を設定等。 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000146747.html 食品衛生管理の国際標準化に関する検討会最終とりまとめ http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11135000-Shokuhinanzenbu-Kanshianzenka/0000146746.pdf 食品衛生管理の国際標準化に関する検討会最終とりまとめ(概要) http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11135000-Shokuhinanzenbu-Kanshianzenka/0000147065.pdf5 植物由来製品による健康被害(疑い)について 平成28年12月27日、厚生労働省は医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長及び同局生活衛生・食品安全部監視安全課長の連名で各都道府県衛生主管部(局)長宛標記通知を出した。 これは、リュウキュウアイ、ホソバタイセイ等の植物から得られる青黛(せいたい)を摂取した潰瘍性大腸炎患者において、肺動脈性肺高血圧症が発現した症例が複数存在することが判明したことから、地方自治体において使用実態及び健康被害情報を収集することしたもので、青黛は、中国では生薬等として、国内でも染料(藍)や健康食品等として用いられている。 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000147458.pdf6 平成28年度輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果(中間報告)公表 平成28年12月26日、厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部は「平成28年度輸入食品監視指導計画の策定について」の別添「平成28年度輸入食品監視指導計画」に基づき実施している計画の実施状況について、中間報告を取りまとめ、公表した。その概要は次のとおり。(速報値、【 】内は前年同期の数値) 平成28年4月から9月までの輸入届出の件数は、1,161,978件【1,134,155件】、重量は、11,874千トン【11,416千トン】であった。 これに対し、98,172件(モニタリング検査29,387件、検査命令27,641件、自主検査45,285件等の合計から重複を除いた数値)【101,922件(モニタリング検査28,539件、検査命令31,764件、自主検査47,067件等の合計から重複を除いた数値)】の検査を実施し、358件【431件】に法違反が確認され、積戻しや廃棄等の措置を講じた。 条文別の違反件数は、法第11条違反(食品の規格(微生物、残留農薬、残留動物用医薬品)、添加物の使用基準等)が224件と最も多く、次いで法第6条違反(アフラトキシン等の有害・有毒物質の付着等)が89件、法第18条違反(器具又は容器包装の規格)が38件、法第10条違反(指定外添加物の使用)が12件、法第9条違反(食肉の衛生証明書の不添付)が3件、法第62条違反(おもちゃの規格)が2件であった)。 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000147056.pdf