腸炎ビブリオ食中毒

腸炎ビブリオ(学名:ビブリオ パラヘモリティカス)は、1950年に大阪市でシラスを原因食品として発生した食中毒の原因菌としてわが国で最初に分離されました。以前は夏季に発生する食中毒の大部分は、本菌によるものとされ、日本人が日常、生の魚介類を食べるという食文化の影響によるものと考えられてきました(CEKお役立ち情報参照)。そこで、種々の予防対策が実施されてきましたが、効果は少なく、夏期の食中毒の原因菌として注目されてきました。しかし、日本における腸炎ビブリオ食中毒は、2007年から急速に減少し、2011年には、発生件数9件、患者数87名で、件数および患者数ともに細菌性食中毒の中でカンピロバクター、サルモネラ属菌、ブドウ球菌、病原大腸菌、ウエルシュ菌、セレウス菌に次いで7番目にランクされるまでになりました。その要因は、生食用魚介類の規格基準が設けられたことが大きく関与しているものと考えられています。しかし、菌の発育・増殖の速さは、細菌性食中毒菌の中で最も早く、夏期の食中毒予防としての衛生管理対策は重要です。また、腸炎ビブリオ食中毒の発生は魚介類の生食によって、日本だけに限らず東南アジア、韓国、米国などにおいても報告されているので、注意が必要です。

腸炎ビブリオの特徴

腸炎ビブリオはグラム陰性短桿菌(グラム染色で赤く染まる菌:写真1)で、一端に鞘に被われた1本の長い鞭毛を持ち、海水や海水と河川水が混じる汽水域に生息して水温が上昇する夏期には活発に運動しています。菌が発育・増殖するためには、次の条件が必要と考えられています。

写真1 腸炎ビブリオ(新潟市衛生環境研究所)

このように最も発育・増殖する条件が整った場合には、1回の分裂が終了するまでの時間(世代時間)は、食中毒を起こす菌の中では最も短くて、10~13分とされています。

腸炎ビブリオ食中毒の症状

腸炎ビブリオ食中毒の症状は、上腹部腹痛、下痢、嘔気、嘔吐などで、多くの場合発熱を伴います。潜伏期間は平均12時間とされていますが、10時間以内の事例も認められ、潜伏期間が短いほど症状が重篤になると言われています。死亡率はきわめて低いが、高齢者では脱水症状によって心衰弱死を起こすこともあります。発症菌量は、投与実験の報告から10⁵~10⁸個の菌を食品とともに摂取すると発症するとされていますが、漁獲直後の魚類の生食により発病した事例や、生水を飲んで発病した事例も見られ、実際の発症菌数は考えられているより少ない可能性もあります。

腸炎ビブリオ食中毒の予防