「馬刺し」による腸管出血性大腸菌O157食中毒


(株)中部衛生検査センター
 学術顧問
小沼 博隆

 平成26年4月7日、福島県は、全国都道府県・政令市等に対し、同県内で加工された「馬刺し(生食用馬肉)」が腸管出血性大腸菌O157(以下O157)に汚染されている恐れがあるため自主回収を指導している旨を連絡した。4月10日、福島県は当該品を食中毒の原因食品と断定した。患者数は、福島14人、東京13人、山形8人、新潟6人、茨城3人、秋田、宮城が各1人の合計46人であり、22人が入院したが、死者は出なかった。
「なぜ、馬刺しでO157食中毒が発生したのか?」、「なぜ、馬刺しにO157が付着したのか?」・・・等は、今のところ解明されていない。平成24年8月、札幌市を中心に発生した「白菜のきりづけ」によるO157食中毒も同様、なぜ、白菜の漬物にO157が付着し増殖・拡散したのかを汚染源を含め詳しい調査結果は報告されていない。以上のように、O157による食中毒において汚染源を特定することが難しい事例も見られている。なぜなら、O157は過去の事例において、牛・鹿等を中心にヒトおよび他の動物、土壌、井水・簡易水道・灌漑用水・河川水、牛肉、野菜、果実など広く、しかも普遍的に分布しているからと思われる。したがって、種々の食品において汚染・増殖する機会さえあれば何時でも危険性があるということである。
現在までに、O157感染事例の原因食品として特定あるいは推定されたものは、国内では、井戸水、牛肉、牛レバー刺し、ハンバーグ、牛角切りステーキ、牛タタキ、ローストビーフ、シカ肉、サラダ、ネギ、貝割れ大根、キャベツ、メロン、白菜漬け、日本そば、いくら、シーフードソース、和菓子などである。海外では、ハンバーガー、ローストビーフ、ミートパイ、アルファルファ、レタス、ホウレンソウ、アップルジュースなどで、馬肉によるものは極めて珍しい事例と思われる。
平成9年4~5月に開催されたO157に関する世界保健機関(WHO)の専門家の会議でも、ハンバーガー、ローストビーフ、生乳、アップルジュース、ヨーグルト、チーズ、発酵ソーセージ、調理トウモロコシ、マヨネーズ、レタス、アルファルファや貝割れ大根のような生食用の発芽野菜が原因として指摘されている。 このようにO157を含む腸管出血性大腸菌は、様々な食品や食材から見つかっているので、食品の洗浄や加熱など衛生的な取扱いが大切である。なお、動物と接触することによって感染した事例も報告されている。特に、牛では糞便のみならず唾液からも感染する可能性があるので注意する必要がある。
最後に予防法であるが、O157を含む腸管出血性大腸菌はサルモネラや腸炎ビブリオなどの食中毒菌と同様加熱や消毒剤により死滅する。したがって、通常の食中毒対策を確実に実施することで十分に予防可能である。また生食は、出来る限り避けることが肝要と思われる。