「食品衛生行政」国の動き 平成29年12月

(株)中部衛生検査センター 学術顧問
森田邦雄

1 亜鉛に係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての意見・情報の募集

 平成29年12月20日、内閣府食品安全委員会事務局は食品安全委員会肥料・飼料等専門調査会がまとめた「対象外物質 評価書 亜鉛(案)」について意見・情報の募集を公表した。締め切りは平成30年1月18日。その主な内容は次のとおり。

 食品衛生法第11 条第3 項の規定に基づき、人の健康を損なうおそれのないことが明らかであるものとして厚生労働大臣が定める物質(対象外物質)とされている亜鉛について、これまでの食品添加物等としての亜鉛に関する食品健康影響評価の知見及び飼料添加物の指定審査用資料等を用いて食品健康影響評価を実施した。
 体内動態については、亜鉛は主に小腸から吸収され、摂取量が増加すると体内の恒常性が働き、亜鉛の吸収率が低下し、内因性排泄が増加すると考えられた。
 亜鉛化合物を混餌投与した家畜等の体内蓄積試験では、飼料への添加濃度が高くなると、臓器、骨等も亜鉛濃度が高くなる傾向がみられた。泌乳牛の体内動態試験では亜鉛の供給源によって投与後の血清中亜鉛濃度に違いがみられたが、体内蓄積試験での各組織中の亜鉛濃度には亜鉛化合物の種類にかかわらず大きな差はみられなかった。
 遺伝毒性については、これまでの食品安全委員会の評価及びZn-(HMTBa)2 の遺伝毒性試験の結果から、亜鉛には生体にとって特段問題となる遺伝毒性はないと判断した。
 亜急性毒性に関するNOAEL (無毒性量)は、亜鉛として48~102 mg/kg 体重/日であった。慢性毒性及び発がん性については、NOAEL 及び発がん性を判断できる知見は得られなかった。
 生殖発生毒性については、亜鉛化合物の親動物に対する毒性影響がみられない状況では児動物に影響を及ぼさないと考えられた。
 日本における亜鉛の推定一日摂取量(平均的な見積もり:0.090~0.14 mg/kg 体重/日、高摂取量の見積もり:0.26 mg/kg 体重/日、過大な見積もり:0.55 mg/kg 体重/日)を、亜鉛摂取量に関する上限値0.63 mg/kg 体重/日と比較した場合、飲料水及び食事等からの亜鉛の摂取によって健康影響が生じるリスクは低いと判断した。
 亜鉛は動物用医薬品及び飼料添加物として長年使用されており、亜鉛が投与された対象動物由来の食品からの亜鉛摂取量は、上述の推定一日摂取量の食事の数値に含まれている。また、亜鉛を投与した対象動物では、体内の恒常性が働き、亜鉛の吸収率が低下し、内因性排泄が増加すると考えられる。
 現時点では、対象動物に動物用医薬品及び飼料添加物として亜鉛を投与したことに起因するヒトへの悪影響が生じたという報告は確認されなかった。
 以上のことから、亜鉛は、動物用医薬品及び飼料添加物として通常使用される限りにおいて、食品に残留することにより人の健康を損なう恐れのないことが明らかであると考えた。

意見募集
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_hisiryou_zn_291220.html

評価書(案)
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_hisiryou_zn_291220.data/pc_hisiryou_zn_291220.pdf

2 感染性胃腸炎の流行に伴うノロウイルスの感染予防対策の啓発について事務連絡

 平成29年12月20日、厚生労働省は健康局結核感染症課及び医薬・生活衛生局食品監視安全課の連名をもって各都道府県等衛生主管部(局)標記事務連絡を出した。その内容は次のとおり。

 感染性胃腸炎の患者発生は、例年、12月の中旬頃にピークとなる傾向があります。本年においても、第45週以降、感染性胃腸炎の定点医療機関当たりの患者の発生届出数に増加傾向が見られております。
 この時期に発生する感染性胃腸炎のうち、特に集団発生例の多くは、ノロウイルスによるものであると推測されております。本年においては、平成29年11月10日付け厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課長通知「ノロウイルスによる食中毒の予防について」により注意喚起をしているところです。
 引き続き、今後のノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒の発生動向には注意が必要な状況です。
 つきましては、ノロウイルスによる感染性胃腸炎が急増するシーズンに備え、「ノロウイルスに関するQ&A」、「ノロウイルス食中毒予防対策リーフレット」及び「ノロウイルス等の食中毒予防のための適切な手洗い(動画)」等を参考に、手洗いの徹底、糞便・吐物の適切な処理等の感染予防対策の啓発に努めるようお願いします。
 また、これまで感染者が食品の調理に従事することによる食中毒も多発していることから、平成19年10月12日付け医薬食品局食品安全部長通知「ノロウイルス食中毒対策について」等を参考にノロウイルスによる食中毒の発生防止対策にも留意願います。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/171220-01.pdf

3 消費者委員会、食品衛生規制等の見直しに関する意見を公表

 平成29年12月21日、消費者委員会は、食品衛生法の改正をはじめとする食品衛生規制等の見直しに向けた検討状況について厚生労働省より報告を聴取し、意見交換を行い、食品の安全を取りまく環境の変化をふまえた対応が必要であると考えられることから、同見直しにあたって、厚生労働省および消費者庁において、関係省庁と連携しつつ、以下の取組を行うことを求めるとする意見を公表した。

1.HACCPの制度化について
 厚生労働省においては、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)方式による衛生管理制度を導入するにあたり、企業規模等に応じた柔軟な運用がなされる場合においても、確保される衛生の水準が同等に保たれるようにすること。
 また、地方版HACCP等の自主的な取組の活用や、業界団体からの協力を得ることなどにより、中小・零細企業にもHACCPの趣旨が浸透するようにし、必要な支援を行うこと。

2.リスクの高い成分を含むいわゆる「健康食品」等による健康被害防止対策について
 厚生労働省においては、リスクの高い成分を含む食品を、国民の安全を確保する観点から的確に把握し、こうした食品について、事業者による原材料の安全性確保、製造工程管理等、健康被害を防止するための実効的な仕組みを構築するとともに、リスクの高い成分を含む食品によるものと疑われる健康被害が生じた場合に、事業者から行政への報告の制度を含め、迅速に情報を収集・分析し、情報を消費者に提供し、事業者に対し適切な措置をとる体制を整備すること。
 その前提として、関係法令に違反するようなものが、いわゆる「健康食品」として容認されるものではないことに留意すること。

3.食品リコール情報の把握について
 消費者庁においては、食品表示法違反による食品リコールのうち、アレルゲン、消費期限等安全性に関わる理由によるものについて、事業者に報告を義務付け、国民へ情報提供を行う体制を構築するなど、厚生労働省における食品衛生法の改正に向けた検討内容を参考にして食品表示法の改正に向けた検討を行うこと。
 その際、消費者庁および厚生労働省においては、事業者からの報告や国民への情報提供にあたって混乱を招かないよう、制度の内容に食い違いが生じないようにすること。

http://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2017/1220_iken2.html

4 平成29年度輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果(中間報告)の公表

 平成29年12月22日、厚生労働省は、平成29年度輸入食品監視指導計画に基づく、平成29年4月から9月までの監視指導結果(中間報告)を取りまとめ公表した。その主な内容は次のとおり。【 】内は昨年度同期の数値

 平成29 年4月から9月までの輸入届出の件数は、1,225,011 件【1,161,978 件】、重量は12,255 千トン【11,874 千トン】であった。これに対し、102,756 件【98,172 件】(モニタリング検査29,709 件【29,387件】、検査命令30,130 件【27,641 件】、自主検査46,119 件【45,285 件】等の合計から重複を除いた数値)の検査を実施し、384 件【358 件】で法違反が確認され、積戻しや廃棄等の措置を講じた。
 条文別の違反件数は、法第11 条違反(食品の規格(微生物、残留農薬、残留動物用医薬品)、添加物の使用基準等)が245 件と最も多く、次いで法第6条違反(アフラトキシン等の有害・有毒物質の付着等)が106 件、法第10 条違反(指定外添加物の使用)が26 件、法第9条違反(食肉の衛生証明書の不添付)が8件、法第18 条違反(器具又は容器包装の規格)が7件、法第62 条違反(おもちゃの規格)が1件であった。

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11135000-Shokuhinanzenbu-Kanshianzenka/0000189111.pdf

5 平成28年国民健康・栄養調査報告公表

 平成29年12月27日、厚生労働省は標記調査報告を公表した。調査は、糖尿病に関する状況。体格生活習慣病に関する都道府県の状況等が行われ、栄養素等摂取状況調査のうち肉類及び乳類関係の主な内容は次のとおり。

(1)平成28年、肉類及び乳類の摂取量平均値、1人1日当り
  調査人数(人)26,133(男12,202、女13,931)、単位g
  ア 畜肉67.0(男77.5、女57.9)
    うち牛肉14.3(男17.3、女11.8)、豚肉39.5(男45.2、女34.5)
      ハム,ソ-セ-ジ類12.9(男14.6、女11.4)
      その他の畜肉 0.3(男0.4、女0.2)
    鳥肉27.0(男32.0、女22.7)
      うち鶏肉26.9(男31.8、女22.6)、その他の鳥肉0.1(男0.2、女0.1)
    肉類(内臓)1.4(男1.7、女1.2)
    その他の肉類0.1(男0.1、女0.1)
  イ 乳類131.8(男127.9、女135.3)
    牛乳・乳製品131.8 (男127.9、女135.3)
    うち牛乳 81.8 (男82.0、女81.7)、チ-ズ3.2 (男3.0、女3.5)
      発酵乳・乳酸菌飲料38.4 (男34.5、女41.8)
      その他の乳製品 8.4 (男8.5、女8.3)
    その他の乳類 0.0

(2)肉類及び乳類の摂取量平均値の年次推移、総数、1人1日当り、単位g
平成(年) 7    18    25    26    27    28
肉類   82.3   80.4   89.6   89.1   91.0   95.5
乳類   144.5  125.3  125.8   121.0  132.2  131.8

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h28-houkoku.pdf

結果の概要
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h28-houkoku-03.pdf