「食品衛生行政」国の動き 平成30年12月

(株)中部衛生検査センター 学術顧問
森田邦雄

1. ノロウイルスの感染症・食中毒予防対策について

 平成30年12月5日、厚生労働省は健康局結核感染症課及び医薬・生活衛生局食品監視安全課の連名で各都道府県等衛生主管部(局)宛標記事務連絡を出した。その主な内容は次の通り。

 感染性胃腸炎の患者発生は、例年、12 月の中旬頃にピークとなる傾向があり、本年においても、第44 週以降、感染性胃腸炎の定点医療機関当たりの患者の発生届出数に増加傾向が見られている。
 この時期に発生する感染性胃腸炎のうち、特にノロウイルスによる集団発生例が多く見られ,平成28 年の食中毒詳報から得られた結果によると約8割は調理従事者を介した食品の汚染が原因とされており、手洗いや就業前の健康状態の確認といった、調理従事者の衛生管理の徹底が予防対策として重要である。
 また、平成28 年度に実施した調査によれば、ノロウイルス食中毒が発生した施設のうち、調理従事者の健康の確認状況をきちんと記録している施設は3割以下という結果が得られている。
 ついては、「ノロウイルスに関するQ&A」等を参考に、手洗いの徹底、糞便・吐物の適切な処理等の感染症・食中毒予防対策の啓発に努めるようお願いする。

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000436525.pdf

2. 平成29年国民健康・栄養調査報告公表

 平成30年12月11日、厚生労働省は標記報告を公表した。その概要は次の通り。

 調査対象は、300 単位区内の全ての世帯及び世帯員で、食品群別摂取量については6,962名。年次別結果のうち食品群別摂取量の平均値の年次推移 (総数,1人1日当たり)は次の通り。

          平成27年    平成28年     平成29年
総量        2,205.8     1,999.5     2,038.0
米・加工品     318.3      310.8      308.0
緑黄色野菜     94.4       84.5       83.9
その他の野菜    187.6      181.5      192.2
魚介類       69.0       65.6       64.4
肉類        91.0       95.5       98.5
卵類        35.5       35.6       37.6
乳類        132.2      131.8      135.7 (単位:g)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/h29-houkoku.html

3. 食品表示法の一部を改正する法律公布

 平成30年12月14日、標記法律が官報に登載され、平成30年法律第97号として公布された。この法律は11月9日に国会に法案を提出し、11月22日に衆議院において全会一致で可決され、12月8日に参議院において全会一致で可決され、成立したもので、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。この法律の要綱は次の通り。なお、衆議院及び参議院で付帯決議されている。
 食品に関する表示が食品を摂取する際の安全性の確保に関し重要な役割を果たしていることに鑑み、食品を摂取する際の安全性に重要な影響を及ぼす事項について食品表示基準に従った表示がされていない食品を回収する食品関連事業者等に回収に着手した旨及び回収の状況の届出を義務付ける等の措置を講ずることとするため、食品表示法の一部を次のように改正することとする。

第一食品の回収の届出に関する事項
一 食品関連事業者等は、第六条第八項の内閣府令で定める事項について食品表示基準に従った表示がされていない食品の販売をした場合において、当該食品を回収するときは、遅滞なく、回収に着手した旨及び回収の状況を内閣総理大臣に届け出なければならないものとすること。(第十条の二第一項関係)
二 内閣総理大臣は、第十条の二第一項の規定による届出があったときは、その旨を公表しなければならないものとすること。(第十条の二第二項関係)
三 第十条の二第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、五十万円以下の罰金に処するものとすること

http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/amendment_001/

4. ゲノム編集技術を利用して得られた食品等の食品衛生上の取扱いについて

 平成30年12月17日、厚生労働省は薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会の標記報告書を公表した。その主な内容は次の通り。

 「ゲノム編集技術」は、一般にDNA を切断する酵素を用いて、外部からの遺伝子の挿入だけでなく既存の遺伝子の欠失や塩基配列の置換など、ゲノムの特定の部位を意図的に改変することが可能な技術であり、これまでのところ、主としてその遺伝子の機能の喪失に利用されている。

現状のゲノム編集技術応用食品は、
・塩基配列を切断、再結合の際に変異が生じる場合
・塩基置換のための鋳型を併せて用いる場合
・一定の大きさの遺伝子または制御配列を導入する場合
の様にゲノム編集技術における変異の誘導の結果として生じる塩基配列により、3つのタイプに分類することができる。

ゲノム編集技術応用食品の食品衛生上の取扱い
○ ゲノム編集技術応用食品の中で、導入遺伝子及びその一部が除去されていないものは、組換えDNA技術に該当し、規格基準に基づく安全性審査の手続きを経る必要があること。
○ ゲノム編集技術応用食品の中で、導入遺伝子及びその一部が残存しないことに加えて、人工制限酵素の切断箇所の修復に伴い塩基の欠失、置換、自然界で起こり得るような遺伝子の欠失、さらに結果として1~数塩基の変異が挿入される結果となるものは、組換えDNA技術に該当しないこと。また、それらの変異は自然界で起こる切断箇所の修復で起こる変化の範囲内であり、組換えDNA技術に該当しない従来の育種技術でも起こり得ると考えられることから、遺伝子組換え食品とは異なる扱いとすると整理することは妥当であること。
 他方、開発した食品が従来の育種技術を利用して得られた食品と同等の安全性を有すると考えられることの確認とともに、今後の状況の把握等を行うため、当該食品に係る情報の提供を求め、企業秘密に配慮しつつ、一定の情報を公表する仕組みをつくることが適当であること。

ゲノム編集技術によって得られた生物を利用して製造された添加物の取扱い
○ 添加物については基本的に成分規格が公定されているという前提に立ち、食品と同等あるいはそれより緩和した取扱いにすることが適当であること。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000203059_00007.html

5. 平成30年度輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果(中間報告)の公表

 平成30年12月26日、厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課輸入食品安全対策室は、平成30年4月から9月までの監視指導結果(中間報告、速報値)を取りまとめ公表した。主な内容は次の通り。[ ]内は平成29年度同期間の実績値

 平成30年4月から9月の輸入届出件数は1,228,569件[1,225,011件]であり、輸入届出重量は約12,197千トン[約12,255千トン]であった。これに対し、103,262件[102,756件](モニタリング検査30,496件[29,709件]、検査命令28,842件[30,130件]、自主検査45,769件[46,119件]等の合計から重複を除いた数値)の検査を実施し、このうち385件[384件]を法違反として、積み戻しや廃棄等の措置を講じた。
 条文別の違反件数は、法第11 条(食品の規格(微生物、残留農薬、残留動物用医薬品)、添加物の使用基準等)違反が249 件と最も多く、次いで法第6条(アフラトキシ ン、シアン化合物等の有毒・有害物質の付着等)違反が124 件、法第18 条(器具又は容器包装の規格)違反が14 件、法第10 条(指定外添加物の使用)違反が9 件、法第 9条(食肉の衛生証明書の添付)違反が2 件であった。
 モニタリング検査は、30,496 件(計画件数延べ98,521 件に対し60,295 件(実施率:約61%)を実施し、このうち82 件(延べ84 件数)に法違反が確認され、回収等の措置を講じた
 検査命令は、平成30 年9 月30 日現在で、全輸出国対象の17品目及び30 カ国・1 地域の70 品目を対象としており、28,842 件(延べ43,386 件)を実施し、このうち118 件(延べ同件数)に法違反が確認され、積戻しや廃棄等の措置を講じた。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000189116_00003.html

中間報告
https://www.mhlw.go.jp/content/000464442.pdf

6. 英国産牛肉等の輸入手続を再開

 平成31年1月9日、厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課輸入食品安全対策室は、標記情報を公表し、同日、医薬・生活衛生局食品監視安全課長名をもって各検疫所長宛「英国から輸入される牛肉等の取扱いについて」通知を出した。また、厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官から各都道府県知事等に情報が提供されている。その主な内容は次の通り。

 BSE発生国である英国の牛肉、牛臓器及びこれらを原材料とする食肉製品については、平成8年3月から輸入手続を停止していた。一昨年8月に食品安全委員会に輸入再開のための輸入条件について諮問し、昨年2月に同委員会より食品健康影響評価結果が通知された。
 この評価結果を踏まえ、厚生労働省では、英国政府との対日輸出条件に係る協議を行い、現地調査を実施し、今般、英国産牛肉及び牛臓器の輸入手続を再開することとした。

 対日輸出条件は次の通り
○月齢制限については、30ヶ月齢未満とする。
○対日輸出が認められない部位の範囲は、扁桃、回腸遠位部(盲腸との接続部分から2メートルまでの部分)、12ヶ月齢超の脊髄及び12ヶ月齢超の頭部(舌及び頬肉を除く)とする。

 その他、英国産めん羊肉及びめん羊臓器についても、対日輸出が認められない部位(脾臓、回腸、12ヶ月齢超の頭部(扁桃を含み、舌、頬肉及び皮を除く)及び12ヶ月齢超の脊髄)を除き、輸入手続きを再開することとした。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000178994_00001.html

検疫所長宛通知
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000466665.pdf

各都道府県知事等宛通知
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000466663.pdf