「食品衛生行政」国の動き 2020(令和2)年6月

(株)中部衛生検査センター 学術顧問
森田邦雄

1「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」の一部改正について

 令和2年5月28日、厚生労働省は、大臣官房生活衛生・食品安全審議官名をもって各都道府県知事等宛標記通知を出した。その主な内容は、次のとおり。

 改正食品衛生法の施行により、野生鳥獣肉を処理する食肉処理施設について、食品衛生法第51 条第2項に基づきHACCP に沿った衛生管理の実施が求められることとなったこと、及び法第54 条に基づき施設基準に係る厚生労働省令で定める基準(参酌基準)が示されたことに伴い、「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」の一部を別添のとおり改正した。
 ただし、HACCP に沿った衛生管理の実施については、改正法の第2次施行の日(本年6月1日)より1年間は経過措置期間とし、その間は従来の基準が適用されること、また、施設基準については、改正法の第3次施行の日(令和3年6月1日)以降、第3次施行の日より以前に取得した食品営業許可の本来の有効期間満了までは、従来の施設基準を遵守することにより営業が可能であること。

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000636485.pdf

2 と畜検査員及び食鳥検査員による外部検証の実施について

 令和2年5月28日、厚生労働省は、大臣官房生活衛生・食品安全審議官名をもって各都道府県知事等宛標記通知を出した。その主な内容は、次のとおり。

 と畜場法施行規則第3条第6項又は第7条第5項に基づくと畜検査員による検査又は試験及び食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律施行規則第4条第4項に基づく食鳥検査員による検査又は試験(以下「外部検証」という。)について、令和元年11月通知において別途通知することとしていたその実施に関する手順、評価方法等を別添のとおりとする。

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000636484.pdf

3 食品安全委員会、食品安全総合情報システム

 令和2年6月5日、食品安全委員会が公表した標記情報に次の記載がある。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/search?keyword=%EF%BC%AC%EF%BC%A4%EF%BC%95%EF%BC%90&query=&logic=and&calendar=japanese&year=&from=struct&from_year=2020&from_month=05&from_day=09&to=struct&to_year=2020&to_month=05&to_day=22&areaId=00&countryId=000&informationSourceId=0000&max=100&sort_order=date.desc

(1)米国食品医薬品庁(FDA)、2019年秋の腸管出血性大腸菌O157:H7株の3件の集団感染に関連するロメインレタスの汚染の潜在的な原因について公表
 FDAは、2020年5月21日、2019年秋の腸管出血性大腸菌O157:H7株の3件の集団感染に関連するロメインレタスの汚染の潜在的な原因について公表した。概要は以下のとおり。

 2019年11月及び12月に、カリフォルニア州のサリナスバレー地域のロメインレタスあるいは葉物野菜の喫食に関連して、3件の腸管出血性大腸菌O157:H7株集団感染A(患者167人)、B(患者11人)及びC(患者10人)が発生した。FDAと複数の州及び国の関係者は、ロメインレタスの腸管出血性大腸菌O157:H7株による汚染及びその後の疾病につながった可能性のあるあらゆる要因を特定するために、これら3件の集団食中毒の調査を行った。当該調査の過程で、以下のことが判明した。

1. 全ゲノムシークエンス解析(WGS)で明らかにされたとおり、これら3件の集団感染は、それぞれ、明確に異なる株の腸管出血性大腸菌O157:H7が原因であった。
2. 集団感染Aの腸管出血性大腸菌O157:H7株は、2019年にロメインレタスの入った2つの異なるブランドの生鮮カット済みサラダで見つかった。
3. 複数の患者サブクラスター及びサプライチェーンの情報の遡及調査により単一の共通栽培者が特定された。その栽培者は複数の栽培区画(ranches)/ほ場(fields)を持ち、関係する期間中に、集団感染A、B及びCに関連する複数の取引先へロメインレタスを供給していた。
4. 集団感染AのO157:H7株は、公有地にある1か所の畜牛移動防止用格子(cattle grate)(訳注:畜牛の移動を防ぐが、人や車両は通行できるよう溝の上に格子を設置した出入口)から採取した糞便-土壌検体中から検出された。それは遡及調査により集団感染に関連付けられている複数のほ場を有する1つの作物農場から上り坂で2マイル未満の場所にある 。
5. その他の志賀毒素産生性大腸菌(STEC)株は、集団感染A、BあるいはCとは関係ないが、ロメインレタスの作物が栽培されている場所の近くで見つかった。これには、葉物野菜ほ場の上の丘にある牛の放牧地のすぐ隣にある農場の境界域からの2検体及び農場内の排水ますからの2検体が含まれる。

 FDAは、これら3件の集団感染に関連する最も可能性の高い要因として、隣接又は近隣の土地の牛の放牧への利用を考慮している。FDAは、ロメインレタスほ場の汚染の決定的な感染源あるいは経路を確認できなかったが、可能性のある汚染経路として、隣接する近隣の土地から、水流出、風、動物あるいは車両由来で、ロメインレタスほ場へ、あるいはロメインレタスの栽培に使用される農業用水源へ、糞便物質が間接的に伝播したことを考慮している。FDAは、州の関係機関と協力して、2019年の集団感染の調査結果を追跡調査するために、2020年の栽培/収穫期を通じて、サリナスの栽培地域で、必須のSTEC調査を実施する。

 当該文書は、2019年秋の複数州にわたる集団食中毒2件及び1州での集団食中毒1件における、ロメインレタスの腸管出血性大腸菌O157:H7株による汚染の潜在的な原因及び調査方法を概説する。2019年の調査中に近隣の土地で見られた畜牛の頭数は、大規模集約畜産経営体と見なされる数よりもはるかに少なく、高密度での動物飼育だけが考慮すべき要素ではないと注意喚起する注目すべき事案である。これらの調査結果は、近隣及び隣接する土地の利用法が葉物作物の安全性に及ぼす潜在的な影響について我々の懸念を強め、適切なリスク緩和戦略を実施することの重要性を更に強調するものである。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05380220105

(2)欧州食品安全機関(EFSA)、規則(EU)2015/2283に準拠する新食品としての乾燥したEuglena gracilis(ミドリムシ、以下E.gracilis)の細胞(whole cell)の安全性に関する科学的意見書を公表

 EFSAは、2020年5月14日、規則(EU)2015/2283に準拠する新食品としての乾燥したE.gracilisの細胞の安全性に関する科学的意見書を公開した(3月25日採択、PDF版15ページ、doi: 10.2903/j.efsa.2020.6100)。概要は、以下のとおり。

 欧州委員会からの要請を受け、EFSAの「栄養、新食品及び食物アレルゲンに関する科学パネル(NDパネル)」は、規則(EU)2015/2283に準拠する新食品としての乾燥したE.gracilisの細胞の安全性に関し意見を表明するよう求められた。
 E.gracilisは、広く自然界に存在する単細胞性微細藻類であり、一般的に淡水領域に生息する。E.gracilisの乾燥バイオマスである当該新食品は発酵によって生産され、その主成分(> 50%)はβ-グルカン多糖である。申請者は、食品サプリメント、体重管理用総合代替食品、多様な食品に添加する食品成分として、当該新食品の利用を提案している。申請者が提案する対象集団は、一般集団である。ただし、食品サプリメント及び体重管理用総合代替食品は12ヶ月齢以降の一般集団である。
 2019年、E.gracilisは、「生産目的のみ(for production purposes only)」の安全性適格推定(Qualified presumption of safety(QPS))のステータスを受けた。これには、微細藻類の微生物バイオマスに基づく食品が含有される。
 提供された情報に基づき、E.gracilisは製造工程において生存可能とは推測されない。
 提出された毒性試験結果は安全性の懸念を引き起こさない。亜慢性毒性試験においては、試験された最高用量、即ち、3,300mg/kg体重の用量まで有害影響は観察されず、当該用量が無作用量(NOEL)と見なされた。この用量と高摂取推定値(95パーセンタイル)間のばく露マージンは、乳児の33から成人の192の範囲である。パネルは、当該新食品源のQPSステータスの観点から、また、成分組成データ及び90日間の研究にて観察された毒性の欠如に基づき、ばく露のマージンは充分であると見なす。
 パネルは、当該新食品、即ち乾燥したE.gracilisの細胞は提案された用途及び用量において安全であると考える。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05380330149

4 乳及び乳製品の衛生証明書の取扱いについて(一部改正)

 令和2年6月8日、厚生労働省は、医薬・生活衛生局食品監視安全課長名をもって各検疫所長宛標記通知を出した。これは、同年5月12日付で食品監視安全課長名をもって各検疫所長宛出された通知について、衛生証明書の受入れ国に次の国を追加したものである。

ペルー、ロシア
https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/000637922.pdf

5 飲食店における持ち帰り・宅配品の衛生管理等 について (その2)

 令和2年6月8日、厚生労働省は、医薬・生活衛生局食品監視安全課長名をもって各都道府県等衛生主管部 (局)長宛標記通知を出した。これは同年5月8日食品監視安全課長名をもって出された通知に係るもので、その主な内容は次のとおり。

 各都道府県等におかれては、様々な媒体を通じた注意喚起や立入による監視指導等に取り組んでいただいているところですが、昨今、持ち帰りや宅配の弁当等を原因とする食中 毒事件の発生が散見しています。
 この状況を受けて、別紙のとおり、新たに持ち帰り(テイクアウト)や宅配(出前、デリバリー)等のサービスを開始する飲食店営業者向けの注意喚起のリーフレットを作成しましたので、適宜御活用の上、引き続き、これら飲食店営業者の御指導方、よろしくお願いいたします。

リーフレットの主な内容。
新たにテイクアウトやデリバリーを始める飲食店の方へ
衛生管理を徹底し食中毒にご注意ください!
テイクアウトやデリバリーでは、調理してからお客さんが食べるまでの時間が長く、気温の高い時期は、特に食中毒のリスクが高まります。
こまめな手洗いや調理者の健康管理など普段からやっている衛生管理に加え、以下のポイントが実行できているかチェックしてください。

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000639489.pdf

6 食品衛生法施行規則の一部を改正する省令及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について

 令和2年6月18日、厚生労働省は、大臣官房生活衛生・食品安全審議官名をもって各検疫所長宛標記通知を出した。その主な内容は次のとおり

 同日、食品衛生法施行規則の一部を改正する省令及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件が公布又は告示され、食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準 の一部がそれぞれ改正された。
 食品衛生法第12条の規定に基づき、ジフェノコナゾールを添加物として省令別表第1に追加し告示では食品中の農薬の残留基準値を設定した。
 省令関係は、公布の日から施行するものであること。
 ジフェノコナゾールの使用に当たっては、適切な製造工程管理を行い、食品中で目的とする効果を得る上で必要とされる量を超えないものとすること。
 ジフェノコナゾールについて使用基準を設定した食品は、ばれいしょであり、当該食品については、泥を水で軽く洗い落としたものに適用するものとすること

参考。
ジフェノコナゾールは、トリアゾール系の殺菌剤で、糸状菌の細胞膜のエルゴステロール生合成阻害により殺菌作用を示すと考えられている。

https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/000641394.pdf

7 営業許可申請等の行政手続における取扱いについて

 令和2年6月16日、厚生労働省は、医薬・生活衛生局食品監視安全課名をもって各都道府県等 衛生主管部(局)宛標記事務連絡を出した。その主な内容は次のとおり。 今般、経済団体から内閣府規制改革推進室宛てに、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、対面手続や書面手続(押印を含む)を求める制度等の見直しについての要望が提出され、営業許可申請等の関係では、許認可手続の緩和及び申請のオンライン化について、緊急に対応するよう求められています。
 つきましては、営業許可申請等の手続に関して、法令上、書面(紙)による提出や押印を求めているものではないことを踏まえ、申請書等をEメール(PDF添付等)により提出することを認める、また、押印手続きを省略するなど、「新しい生活様式」及びデジタル手続法の趣旨を踏まえた柔軟な取扱いをお願いします。

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641589.pdf

8 令和元年度「食品製造業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入状況実態調査」の結果について

 令和2年6月26日、農林水産省食料産業局食品製造課食品企業行動室は、標記調査結果を公表した。
 これは、令和元年10月1日時点での食品製造業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入状況について調査を実施し、結果を取りまとめたもので、その主な内容は次のとおり。

・実施期間:令和2年1月14日~2月28日
・調査対象:日本標準産業分類に掲げる中分類「食料品製造業」及び「飲料・たばこ・飼料製造業(製氷業、たばこ製造業及び飼料・有機質肥料製造業を除く。)」を営む事業者
・令和元年度のHACCPを「導入済み」の事業者は22.5%、「導入途中」を加えると40.5%となった。
・「導入を検討している」割合は21.0%、「導入未定」は18.9%であり、「HACCPに沿った衛生管理をよく知らない」事業者は19.7%であった。
・導入しているHACCPの類型は、「すべての工場で導入」、「一部の工場又は一部の工程(ライン)で導入」及び「導入途中の工場がある」と回答した事業者のうち「HACCPに基づく衛生管理」を導入している割合は60.6%で、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」は39.4%であった。

https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kigyo/200626.html

調査結果
https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kigyo/attach/pdf/200626-1.pdf

9 食品用器具又は容器包装の原材料に含まれる物質の規格の改正等に係る資料作成の手引について

 令和2年6月25日、厚生労働省は、医薬・生活衛生局食品基準審査課長名をもって各検疫所長宛標記通知を出した。これは、食品衛生法第18 条第3項に基づく食品用器具又は容器包装のポジティブリスト制度に記載されていない次の原材料について告示改正に必要な要請資料の提出方法等について、手引を作成したものである。

<新規収載要請>
 ポジティブリスト制度の施行日(令和2年6月1日)より前に「販売され、販売の用に供するために製造され、若しくは輸入され、又は営業上使用されている食品用器具又は容器包装に使用された物質」(合成樹脂の原材料に限る。以下同じ。)でなく、施行日以後、初めて販売の用に供するために製造され又は輸入される、食品用器具又は容器包装に使用しようとする物質。

<規格改正要請>
 ポジティブリスト制度の施行日より前に「販売され、販売のために製造され、若しくは輸入され、又は営業上使用されている食品用器具又は容器包装に使用」されていた物質を、施行日以後に、その使用されていた範囲を超えて使用して製造又は輸入された食品用器具若しくは容器包装に使用しようとする物質。

https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/000643848.pdf

10 と畜場法施行規則等の一部改正について”>

 令和2年7月1日、厚生労働省は、大臣官房生活衛生・食品安全審議官名をもって各検疫所長宛標記通知を出した。これは、と畜場法施行規則等の一部を改正する省令が同日公布され、これによりと畜場法施行規則、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令及び食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律施行規則の一部が改正され、本日から施行及び適用されることに伴うもので、その主な内容は次のとおり。

 家畜伝染病予防法に基づく「家畜伝染病」及び「届出伝染病」について、8つの「家畜伝染病」及び18 の「届出伝染病」の名称が変更されることに伴い、名称の変更が行われ「家畜伝染病」及び「届出伝染病」が別表等に規定されていると畜場法施行規則、乳等省令及び食鳥処理法施行規則について、所要の改正が行われた。
 乳等省令ではトリパノソーマ病がトリパノソーマ症にトキソプラズマ病がトキソプラズマ症に変更されている。