「食品衛生行政」国の動き 2020(令和2)年11月

(株)中部衛生検査センター 学術顧問
森田邦雄

1 香川県における高病原性鳥インフルエンザの疑似患畜の確認に伴う監視体制の強化について

 令和2年11月5日、厚生労働省は医薬・生活衛生局食品監視安全課長名をもって各都道府県等衛生主管部(局)長宛標記通知を出した。これは、農林水産省消費・安全局長から各都道府県知事宛て通知を発出したとの情報提供があり、引き続き、食鳥処理場における鳥インフルエンザを疑う場合のスクリーニング検査及び感染の疑われる生体の搬入防止の指導等の実施について、対応をお願いしたものである。
 農林水産省の通知は4日、香川県内の鶏飼養農場において死亡鶏が増加した旨、香川県に対して通報があり、高病原性鳥インフルエンザの遺伝子検査を実施したところ5日、H5亜型であることが確認されました。このことから、高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針(令和2年7月1日農林水産大臣公表。以下「防疫指針」という)に基づき、当該死亡鶏について、高病原性鳥インフルエンザの疑似患畜と判定しました。
 ついては、早期発見・早期通報の徹底並びにウイルスの人・車両又は野鳥を含む野生動物を介した農場内及び家きん舎内への侵入防止対策について、指導又は助言を実施するようお願いします。

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000691831.pdf

2 ゲノム編集技術応用食品の後代交配種の食品衛生上の取扱い

 令和2年11月13日開催された厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会(オンライン会議)において標記が議論された。
 これは、「ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領」において今後検討するとされていたもので、その結果は次の通り。

〇後代交配種については、従来の育種技術の範囲と判断されたゲノム編集技術応用食品を、さらに従来の育種と同様な方法で育種したものであるので、食品の安全性は、現在流通している従来の食品と同様であると考えられる。

〇これを踏まえると、食品衛生法の目的である「食品の安全性の確保」の観点からは、ゲノム編集技術応用食品に関して、現在の取扱要領に基づいて行われる事前相談及びその後の届出による情報があれば、同法の目的は達成でき、その後の育種である後代交配種に追加で届出を求める必要性は認められないと考えられる。

 これを受けて取扱要領が次の通り改正される見込み。

6.後代交配種の取扱い
ゲノム編集技術応用食品として届出を行った旨の公表がなされた品種に、従来品種等(※)を伝統的な育種の手法により掛け合わせた品種については、事前相談及び届出は求めないこととする。
※ 従来品種等:従来品種、ゲノム編集技術応用食品として届出を行った旨の公表がなされた品種及び組換えDNA技術応用食品としての安全性の審査を経た旨の公表がなされた品種。
なお、ゲノム編集技術応用食品のうち、組換えDNA技術応用食品に該当すると判断された品種に、伝統的な育種の手法を用いて掛け合わせた食品については、組換えDNA技術応用食品の規定が適用される。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14812.html

3 「食品安全総合情報システム」公表

 令和2年11月27日、食品安全委員会が公表した標記システムに次の記事が掲載されている。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/search?keyword=%EF%BC%AC%EF%BC%A4%EF%BC%95%EF%BC%90&query=&logic=and&calendar=japanese&year=&from=struct&from_year=2020&from_month=10&from_day=30&to=struct&to_year=2020&to_month=11&to_day=13&areaId=00&countryId=000&informationSourceId=0000&max=100&sort_order=date.desc

ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)、セレウス菌(Bacillus cereus:B.cereus)に関する最新の意見書を公表
 ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は、2020年10月30日、セレウス菌(B.cereus)に関する最新の意見書(2020年10月30日付け No.048/2020)を公表した。概要は以下のとおり。

 本意見書は、2019年9月16日付け意見書(No. 035/2019)の内容を更新するものである。
 セレウス菌は、現在17種類が認知されているB.cereusグループの総称である。これらは極めて近似であり、検査機関での非常に複雑な試験を行わないと個々を区別することはできない。
 本意見書は、食品におけるB.cereusグループによる健康影響に関して情報提供を行い、ドイツにおける食品に関する評価、特に政府による食品サーベイランスにおいて、食品に関する予防措置を講じるための根拠に言及している。
 BfRは、自らの調査・研究に関する評価を行った。その結果、セレウス菌と推定される菌株はいずれも毒素を形成する可能性があるが、毒素の種類及び毒素量は様々であると述べる。
 セレウス菌と推定される細菌による食品汚染は完全に回避することはできない。セレウス菌は芽胞を形成し、土壌粒子又は埃を介して食品に侵入する可能性がある。また、熱や乾燥などでも長時間生存することができる。芽胞による食品汚染は、当初の汚染度は小さい。しかし、適切に保存されない場合は食品中で芽胞が発芽し、細菌が増殖する可能性がある。セレウス菌が増殖する温度は7℃~48℃である。しかし、B.cereusグループの一部は、低温耐性及び高温耐性であり、約4℃及び50℃超でも増殖可能なものがある。低温では増殖は大幅に抑えられる。通常、細菌の食品中又は小腸内における毒素が症状を発生させる量となるためには、10の5乗CFU/g以上の菌数が必要である。
 煮る又は低温殺菌処理などの一般的な加熱処理は細菌の細胞を死滅させるが、芽胞は死滅せずに生存し発芽する。細菌の増殖を防ぐためには、食品を加熱した後に(食品の全ての部分を70℃以上で2分間以上)、迅速に冷やす(7℃以下)又は熱さを保つ(60℃以上)必要がある。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05490350314

4 乳及び乳製品の成分規格等に関する省令及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について

 令和2年12月4日、厚生労働省は大臣官房 生活衛・食品安全審議官名をもって各検疫所長宛標記通知を出した。これは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第194号)及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件(令和2年厚生労働省告示第380号)が本日公布及び告示され、これにより乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(以下「乳等省令」という)及び食品、添加物等の規格基準(以下「規格基準告示」という)の一部が改正されたことに伴い、その運用について通知したもので、その主な内容は次の通り。

 食品衛生法第18条第1項に基づき、乳及び乳製品並びにこれらを主要原料とする食品(以下「乳等」という)の器具若しくは容器包装又はこれらの原材料(以下「容器包装等」という)については、乳等省令及び規格基準告示の両方に規格基準が定められ、その他の食品の容器包装等については、規格基準告示に規格基準が定められていた。
 本年6月1日に食品衛生法等の一部を改正する法律の一部が施行され、安全性を評価した物質のみを食品用器具及び容器包装に使用可能とする仕組み(以下「ポジティブリスト制度」という)が導入され、乳等の容器包装等についても、当該制度で管理されることとなった。そのため、乳等省令に定められていた乳等の容器包装等の規格基準を規格基準告示に移行することで、食品用の容器包装等の規格基準を規格基準告示に一元化することとし、所要の改正を行った。なお、今般の改正は、規格値及び用語の定義の変更は伴わない。
 また、乳等省令に規定された容器包装以外を使用しようとする者は、厚生労働大臣の承認を受けなければならい旨を定めた規定については 、ポジティブリスト制度の導入に伴い、 同制度との整合性を踏まえて削除したこと。 施行期日及び適用期日は公布日及び告示日からとすること。
 運用上の注意として、今般、用途別規格第4号(1)及び(2)に規定される乳等については、規格基準告示別表第1第1表(1)及び(2)における食品区分欄の乳・乳製品とは定義が異なる。 同表における食品区分欄の乳・乳製品の定義については、令和2年5月1日付け生食発0501第7号大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知「食品衛生法等の一部を改正する法律による改正後の食品衛生法第18条第3項の施行に伴う関係告示の整備について」の記の第4の1の(2)、参照されたい。

https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/000702031.pdf

 これに伴い、同日、食品監視安全課長から各都道府県等衛生主管部(局)長あて乳等省令」に基づく乳等に使用する添加物、乳等の容器包装等に係る厚生労働大臣の承認についての通知、平成9年1月29日付け衛乳第27 号(最終改正:平成28 年5月9日付け生食監発0509 第1号)の改訂を通知した。

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000701991.pdf

5 食品衛生法施行規則の一部を改正する省令及び食品、添加物等の規格 基準の一部を改正する件について

 令和2年12月4日、厚生労働省は大臣官房生活衛生・食品安全審議官名をもって各検疫所長宛標記通知を出した。これは、食品衛生法施行規則の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第195号)及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件(令和2年厚生労働省告示第381号)が本日公布又は告示され、食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部がそれぞれ改正されたことに伴い、その運用について通知したもので、その主な内容は次の通り。

 食品衛生法第12条の規定に基づき、L-酒石酸カリウム及びメタ酒石酸を省令別表第1に追加したこと。
 添加物の規格基準について、既に添加物として指定されている炭酸カルシウムについて、規格基準が設定されている炭酸カルシウムの名称を炭酸カルシウムⅠと改め、新たに炭酸カルシウムⅡの規格基準を定めた。
 L-酒石酸カリウム、メタ酒石酸及び炭酸カルシウムⅡの使用に当たっては、適切な製造工程管理を行い、食品中で目的とする効果を得る上で必要とされる量を超えないものとすること。
 施行期日及び適用期日は公布日及び告示日からとすること。

https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/000702027.pdf