「食品衛生行政」国の動き 2023(令和5)年1月

 
(株)中部衛生検査センター顧問
森田邦雄
 

1 「食品安全総合情報システム」公表

 令和5年1月12日、食品安全委員会が公表した標記システムに、次の記事が掲載されている。

(1)欧州疾病予防管理センター(ECDC):A型肝炎に関する2021年疫学報告書を公表。

主な内容は、以下のとおり。
1.2021年、欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)の30か国で3,864例のA型肝炎症例が報告された。

2.EU/EEAの届出率は、人口10万人対0.9症例であった。EU/EEAの21か国は、届出率が人口10万人対1症例を下回った。届出率が高かった国は、ブルガリア(人口10万人対10.5例)、リヒテンシュタイン(同5.1例)及びルーマニア(同4.5例)であった。

3. 2021年は、2007年にEUレベルでのA型肝炎サーベイランスが開始されて以降、報告症例数及びEU/EEA届出率ともに最も低かった。これは、COVID-19パンデミックによる、顕著な海外渡航の減少、飲食店の休業や集会及び社会的交流の減少といった医薬品を用いない介入が報告症例数に影響を及ぼしたことが原因である可能性が非常に高い。

4. 過去数年と同様、5歳から14歳までの小児が症例の大きな割合(31%)を占め、届出率(人口10万人対2.8例)も最も高かった。

5. 2021年は、6つの複数国にわたるA型肝炎クラスターがEpiPulse(訳注:感染症に関する欧州サーベイランスポータル)へ報告された。3つのクラスターは、A型肝炎ウイルス遺伝子型亜型IAによるもので、生鮮及び/又は冷凍ベリー類の喫食に関連した可能性があった。それ以外のクラスターの感染源は、特定されなかった。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05970470470

(2)欧州疾病予防管理センター(ECDC):カンピロバクター症に関する2021年疫学報告書 を公表。

主な内容は、以下のとおり。
1. カンピロバクター症は、欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)において最も多く報告された胃腸疾患である。

2. 2021年は、EU/EEAの30か国で129,960例のカンピロバクター症確定症例が報告された。リヒテンシュタインで初めて症例が報告された。

3. EU/EEA全体の届出率は、人口10万人対44.5症例であった。

4. 同症の届出率は、5歳未満の小児の年齢グループが最も高かった。

5. COVID-19パンデミック前の5年間では同症の届出率に大きな変動はなかった。2020年に主にパンデミックの影響により症例の顕著な減少が見られた後、2021年の症例数は、5.6%増加した。

6. カンピロバクター症には明確な季節性があり、夏季の数か月間に症例数の鋭いピークが見られ、また年初にも小さなピークが見られる。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05970370470

(3)欧州疾病予防管理センター(ECDC):サルモネラ症に関する2021年疫学報告書を公表。

 主な内容は、以下のとおり。
1.サルモネラ症は、欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)において2番目に多く報告された胃腸感染症であり、集団食中毒の重要な原因である。

2.2021年は、60,494例のサルモネラ症検査確定症例が報告され、うち73例が死亡している。

3.同症のEU/EEAの届出率は、人口10万人対16.6症例であった。

4.サルモネラ症の届出率は、COVID-19パンデミック前の5年間では大きな変動はなかった。2020年に主にパンデミックの影響により症例の顕著な減少が見られた後、2021年の症例数は14%増加した。

5.報告された症例の割合は、0~4歳の幼児が人口10万人対93.1例で最も高く、成人(25~64歳)の11倍であった。

6.サルモネラ属菌の集団感染において卵及び卵製品が引き続き最もリスクの高い食品であるが、2021年に発生したいくつかの大規模な集団感染は、汚染された野菜、果物、種子類又はそれらによる製品に関連していた。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05970380470

(4)欧州疾病予防管理センター(ECDC):志賀毒素産生性大腸菌(STEC)感染症に関する2021年疫学報告書を公表。

主な内容は、以下のとおり。
1.2021年に欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)の30か国から6,534例の志賀毒素産生性大腸菌(STEC)の感染確定症例が報告された。

2.全体の届出率は、人口10万人対2.2症例であった。届出率が高かったのは、アイルランド、デンマーク、マルタ及びノルウェーであった。

3.2020年に主にCOVID-19パンデミックの影響により届出率の顕著な低下が見られた後、2021年のEU/EEAの届出率は、パンデミック以前のレベルまで増加した。

4.確定症例の届出率が最も高かったのは、0~4歳児の年齢グループであった(男児は、人口10万人対12.7例、女児は、同10.8例)。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05970400470

(5)欧州疾病予防管理センター(ECDC):エルシニア症に関する2021年疫学報告書を公表。

主な内容は、以下のとおり。
1.エルシニア症は、欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)において、カンピロバクター症及びサルモネラ症に次いで3番目に多く報告された胃腸感染症である。

2.2021年にEU/EEAの28か国で6,876例のエルシニア症確定症例が報告された。

3.全体的な届出率は、人口10万人対1.9症例であり、2020年及びパンデミック以前の数年間(2017年~2019年)と比べて11.8%の増加であった。

4.届出率が高かったのは、デンマーク、フィンランド及びリトアニアであった。

5.0~4歳児の年齢グループにおける届出率が最も高く、男児は、人口10万人対9.4例、女児は、同8.0例であった。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05970390470

(6)欧州疾病予防管理センター(ECDC):リステリア症に関する2021年疫学報告書を公表。

主な内容は、以下のとおり。
1.2021年は、欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)の30か国で2,268例のリステリア症確定症例が報告された。

2.EU/EEAの年齢標準化届出率は、人口10万人対0.44症例であった。

3.届出率が最も高かったのは、64歳超の高齢者の年齢グループであった(人口10万人対1.7例)。

4.EU/EEAにおける年間のリステリア症確定症例報告数は、安定している。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05970410470

(7)米国疾病管理予防センター(CDC):テキサス州由来の生カキと関連した複数州にわたるノロウイルス集団感染について公表(初報)。

概要は、以下のとおり。
1.CDCは、米国食品医薬品庁(FDA)、テキサス州保健局、並びにその他の州及び地方の当局とともに、テキサス州Galveston湾TX 1採捕地域由来の生カキと関連した複数州にわたるノロウイルス集団感染について調査を行っている。

2.テキサス州保健局及びフロリダ州保健局は、テキサス州Galveston湾のTX 1地域から採捕された生カキの喫食に関連する疾病をFDAに通知した。2022年12月8日、テキサス州保健局は、テキサス州Galveston湾のTX 1採捕地域から2022年11月17日から12月7日までの期間に採捕された全てのカキのリコールを発表した。また両州の保健局は、州間貝類衛生会議(ISSC)にも情報提供し、同会議から他の加盟州に通知された。これにより、他の州は、州間貝類衛生会議協定に則したリコール対応を開始した。

3.2022年12月15日現在、8州から211人のノロウイルス患者が報告されている。CDCは、当該集団感染における、より正確な患者数を特定するため、州及び地方の関係機関と協力しており、更なる情報が収集され次第、この数値を更新する予定である。

4.ノロウイルスは、米国における食中毒の主要な原因である。しかし、州、地方、及び地域の保健部門は、ノロウイルスの個々の症例について米国の監視システムへ報告することを求められていない。そのため、特に人々が診療所や病院に行かない場合、多数の症例について把握できていない可能性がある。毎年、米国内では約2,500件のノロウイルスの集団感染が報告されている。ノロウイルスの集団感染は、年間を通して発生するが、11月から4月に最も多い。

5.州及び地方の公衆衛生当局は、発症の4日前から前日までの間に喫食した食品について患者に聞き取り調査を行っている。聞き取り調査では、患者の多くが生カキを喫食したと報告した。

6.州及び地方の当局は、患者が喫食した飲食店のカキの供給源に関する情報を収集した。FDAは、汚染された可能性がある生カキがテキサス州Galveston湾のTX 1地域で採捕されたことを確認した。FDA及び州当局は、生カキがどこに流通したかを特定し、それらが食料供給から除去されるように、追跡調査を実施している。

7.当該調査は、進行中である。

CDCは、更なる情報が収集され次第、公表する。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05970450104

2 食品衛生法施行規則の一部を改正する省令の公布について

 令和5年1月19日、厚生労働省は、大臣官房生活衛生・食品安全審議官名をもって各都道府県知等宛て表記通知を出した。

 これは、食品衛生法施行規則の一部を改正する省令が同日公布され、これにより食品衛生法施行規則の一部が改正されたことによるもので、その概要は、次の通り。
 食品衛生法施行令第35条第30号に規定される「密封包装食品製造業」を営もうとする者は、食品衛生法第55条第1項の規定に基づき、都道府県知事の許可を受けなければならないこととされているが、冷凍又は冷蔵によらない方法により保存した場合においてボツリヌス菌その他の耐熱性の芽胞を形成する嫌気性の細菌が増殖するおそれのないことが明らかな食品であって厚生労働省令で定めるものについては、密封包装食品製造業の対象から除かれている。これに基づき、規則第66条の10において「厚生労働省令で定める食品」として今回次のものが規定された。
 茶の代用品(乾燥品に限る。)、乾燥きのこ類、乾燥雑穀類、乾燥種実類、乾燥豆類、干しいも、乾燥海藻類、液糖、加工ごま類、乾燥くずきり、乾燥スープ類、乾燥スパイス類、乾燥タピオカ、乾燥ハーブ類、塩、調味ルウ類及びこれらの食品を混合した食品

https://www.mhlw.go.jp/content/001040939.pdf

 また、同日、医薬・生活衛生局食品監視安全課長名をもって各各都道府県等衛生主管部(局)長宛て「密封包装食品製造業の許可の対象から除外される食品の追加要請手続について」通知されている。

https://www.mhlw.go.jp/content/001040866.pdf

3 容器包装詰低酸性食品に関するボツリヌス食中毒対策について

 令和5年1月30日、消費者庁食品表示企画課長及び厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課長連名をもって各都道府県等衛生主管部(局)長宛て表記通知を出した。

 その主な内容は、次の通り。
 食品表示法第4条第1項の規定に基づき定められた食品表示基準及び「食品表示基準について」では、ボツリヌス食中毒の発生を防止するため、「容器包装に密封された常温で流通する食品(清涼飲料水、食肉製品、鯨肉製品及び魚肉練り製品を除く。)のうち、水素イオン指数が4.6を超え、かつ、水分活性が0.94を超え、かつ、その中心部の温度を摂氏120度で4分間に満たない条件で加熱殺菌されたものであって、ボツリヌス菌を原因とする食中毒の発生を防止するために摂氏10度以下での保存を要する食品(以下「容器包装詰低酸性食品」という。)」について、基準を定めています。
 一方、令和3年6月1日から、食品表示法及び食品衛生法に基づく自主回収の届出制度が施行されているところですが、冷蔵での保存を意図した容器包装詰低酸性食品を誤って常温で保存したものを販売したことによる自主回収事例が散見されます。容器包装詰低酸性食品であるにもかかわらず、当該食品容器包装の表おも面に「要冷蔵」である旨が分かりやすい大きさで表示されていないものについては、食品表示基準違反に該当するとともに、適切な温度管理がなされないことにより、ボツリヌス食中毒等重篤な食中毒の要因にもなり得ます。
 このことから、改めて下記事項について、食品等事業者に対する周知・指導をお願いします。

食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)
・「要冷蔵」の文字等冷蔵を要する食品である旨を示す文字を表示する。(別表第19(第4条、第5条関係))
・別表第19に規定する冷蔵を要する食品である旨を示す文字は、容器包装の表おもて面に、分かりやすい大きさで表示する。(別表第20(第8条関係))

○食品表示基準について(平成27年3月30日付け消食表第139号消費者庁次長通知)
一括表示の保存方法の欄に摂氏10度以下で保存しなければならない旨を表示するとともに、要冷蔵食品であることが消費者等に明確に分かるように、加えて、容器包装のおもて面に冷蔵を要する食品である旨の文字(「要冷蔵」等)をわかりやすい大きさ(おおむね20ポイント以上)で、色彩、場所等を工夫して表示すること。

https://www.mhlw.go.jp/content/001047234.pdf