最近10年間(2013~2022年)におけるノロウイルス食中毒発生状況

 ノロウイルス食中毒は、少量のノロウイルスに汚染された食品を喫食することで発生し、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの症状が現れ、乳幼児や高齢者では重篤化することがある。主な原因食品として、以前はノロウイルスに汚染されたカキ等の二枚貝であったが、近年はノロウイルスに感染した食品取扱者が汚染させた様々な食品が多くを占めている。
 ノロウイルスは、感染力が強く大型食中毒を引き起こし易く、特に冬季に食中毒が集中することから注意が必要である。

 最近10年間(2013~2022年)におけるノロウイルス食中毒発生状況は、表1のとおりで、全食中毒に占める割合が事件数で約1/4の23.2%(2,372件/10.219件)、患者数で約半数の51.6%(83,879名/162,440名)を占めていた。
 2015年が事件数481件(40%)、患者数14,876名(65.5%)と共に発生のピークで、以後減少傾向を示し、2019年以降、新型コロナウイルス感染症流行の影響で更に減少した。
 なお、2021年における患者数の増加は、同年4月に岡山県で発生した大規模食中毒によるものであった。

表1 最近10年間(2013~2022年)におけるノロウイルス食中毒発生状況
全食中毒 ノロウイルス食中毒
事件数【件】 患者数【名】 事件数【件】 患者数【名】
2013 931 20,802 328(35.2%) 12,672(60.9%)
2014 976 19,355 293(30.0%) 10,506(54.3%)
2015 1,202 22,718 481(40.0%) 14,876(65.5%)
2016 1,139 20,252 354(31.1%) 11,397(56.3%)
2017 1,014 16,464 214(21.2%) 8,496(51.6%)
2018 1,330 17,282 256(19.2%) 8,475(51.6%)
2019 1,061 13,018 212(20.0%) 6,889(52.9%)
2020 887 14,613 99(11.2%) 3,660(25.0%)
2021 717 11,080 72(10.0%) 4,733(42.7%)
2022 962 6,856 63(6.5%) 2,175(31.7%)
10,219 162,440 2,372(23.2%) 83,879(51.6%)
(  )内:全食中毒に占めるノロウイルス食中毒の割合


 この間に発生した患者数が200名以上の大型ノロウイルス食中毒発生状況は、表2のとおりで、冬季を中心に37件の発生があり、原因施設として飲食店営業が28件(仕出し屋13件、旅館8件、飲食店7件)、集団給食が6件(学校4件、病院及び事業所各1件)及び製造所が3件で、一度に大量の食品を提供する施設(大規模調理施設)が殆どであった。また、原因食品は、半数以上で特定されず不明であった。
 これらの中で特に注目された患者数が700名以上の大規模食中毒は、次のとおりであった。
  1. ① 2014年1月15日、静岡県浜松市の小学校等で、患者数1,271名(喫食者数8,027名)の大規模食中毒が発生した。原因食品は、14日に提供された食パンと断定され、病因物質としてノロウイルス(GⅡ)が検出された。
  2. ② 2017年1月に和歌山(患者数763名)、2月に東京(患者数1,084名)の小学校等で、同一業者が製造した刻みのりを使用した料理を原因食品とする分散型広域食中毒(diffuse outbreak)が発生した。調査の結果、患者及び製造者便、刻みのりを使用した料理及び刻みのりからノロウイルス(GⅡ)が検出された。(表2―No.24、25)

  3. 表2 患者数が200名以上の大型ノロウイルス食中毒発生状況
    No. 発生年月 発生都道府県 原因施設 原因食品 患者数【名】
    1 2013. 2 秋 田 集団給食(学 校) 給  食 292
    2 2013. 4 愛 知 仕出し屋 不  明 526
    3 2013. 4 静 岡 仕出し屋 不  明 326
    4 2013.10 愛 知 飲 食 店 不  明 280
    5 2013.12 秋 田 仕出し屋 不  明 299
    6 2013.12 栃 木 旅  館 不  明 251
    7 2013.12 神奈川 仕出し屋 不  明 295
    8 2014. 1 茨 城 仕出し屋 仕出し弁当 216
    9 2014. 1 静 岡 製 造 所 食 パ ン 1,271
    10 2014. 1 広 島 仕出し屋 不  明 301
    11 2014. 3 兵 庫 飲 食 店 給食弁当 376
    12 2015. 1 三 重 飲 食 店 不  明 416
    13 2015. 1 東 京 仕出し屋 仕出し弁当 321
    14 2015. 3 愛 知 仕出し屋 不  明 576
    15 2015. 3 福 岡 飲 食 店 不  明 349
    16 2015. 4 福 岡 飲 食 店 不  明 215
    17 2015.11 広 島 旅  館 不  明 228
    18 2016. 3 神奈川 仕出し屋 不  明 302
    19 2016.11 京 都 旅  館 不  明 579
    20 2016.11 北海道 旅  館 不  明 212
    21 2016.12 静 岡 集団給食(事業所) 給  食 415
    22 2016.12 神奈川 旅  館 不  明 224
    23 2016.12 栃 木 集団給食(病 院) 給  食 268
    24 2017. 1 和歌山 集団給食(学 校) 磯和え
    (刻みのり使用)
    763
    25 2017. 2 東 京 集団給食(学 校) 刻みのりを
    使用した料理
    1,084
    26 2017. 6 広 島 旅  館 不  明 212
    27 2018. 1 東 京 仕出し屋 不  明 217
    28 2018. 5 栃 木 集団給食(学 校) 給  食 200
    29 2018. 12 広 島 仕出し屋 不  明 550
    30 2019. 2 兵 庫 飲 食 店 不  明 483
    31 2019. 12 千 葉 旅  館 不  明 226
    32 2019. 12 茨 城 製 造 所 バターロール、
    ケーキ
    324
    33 2020. 1 長 野 旅  館 不  明 309
    34 2020. 2 福 岡 製 造 所 不  明 397
    35 2020.12 山 形 仕出し屋 不  明 559
    36 2021. 4 岡 山 仕出し屋 不  明 2,545
    37 2022. 1 大 分 飲 食 店 不  明 309

  4. ③ 2021年4月30日、岡山県倉敷市の仕出し屋が4月26日~29日に調理提供した給食弁当を原因食品とする患者数2,545名(喫食者数6,453名)の大規模ノロウイルス(GⅡ)食中毒が発生した。(表2―No.36)

 ノロウイルス食中毒発生防止には、ノロウイルス食中毒発生予防4原則(「持ち込まない」、「つけない」、「やっつける(加熱する)」、「拡げない」)に基づく対策を徹底することが重要である。
 「持ち込まない」=食品取扱施設内にノロウイルスを持ち込まない。
  食品取扱者がノロウイルスに感染し、食品取扱施設内にノロウイルスが持ち込まれると、食品を汚染させる可能性があり、食品取扱者は常にノロウイルスに感染しないように注意する。
  念のため腹痛や下痢などの胃腸炎症状があるときは、食品を直接取扱う作業は控える。
 「つけない」=持ち込まれたノロウイルスを食品につけない。
  食品を取扱う前に、石けんを使って手(指先、指の間、親指の周り)、手首、手の甲を丁寧に洗う。
 「やっつける(加熱する)」=食品に付着したノロウイルスをやっつける(加熱する)。
  ノロウイルスを死滅させるためには、中心温度85~90℃、90秒以上の加熱が必要です。
 「拡げない」=食品取扱施設に持ち込まれたノロウイルスを周囲に拡げない。
  食品取扱場所や器具の消毒を徹底する。
  嘔吐物等の汚物を適切に処理する。
  消毒には、200ppmの次亜塩素酸ナトリウムを使用する。なお、アルコール消毒は、効果がない。

 したがって、一度に大量の食品を提供する施設(大規模調理施設)では、ノロウイルス食中毒発生予防4原則に基づく対策を徹底すると共に、食品取扱者の健康管理として定期的なノロウイルス検便の実施が重要である。