食品衛生行政の動き(国を中心に)2024年5月

株式会社 中部衛生検査センター 顧問 道野 英司

1 食品衛生基準審議会の開催

 食品衛生基準行政の厚生労働省から消費者庁への移管に伴い、4月10日に開催された食品衛生基準審議会(総会)おいて、食品衛生基準審議会会長に村田勝敬秋田大学名誉教授が選出され、食品規格部会、乳肉水産食品部会、添加物部会、農薬・動物用医薬品部会、器具・容器包装部会、新開発食品調査部会、放射性物質対策部会、伝達性海綿状脳症対策部会の部会長、所属する委員の指名等が行われました。
https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc

2 小林製薬株式会社が製造した紅麹を含む健康食品に関する情報

 厚生労働省では、回収対象の3製品、その他の製品に関する自主点検結果、健康被害情報、原因究明、病像、関連通知等、審議会情報、FAQ等を公表しています。直近では、(一財)日本腎臓学会の 「紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究」アンケート調査(中間報告第2弾)として、4月末日時点で登録のあった189症例の調査結果が掲載されました。主な症状は症状としては倦怠感(46.8%)や食思不振(47.3%)、尿の異常(39.9%)、腎機能障害 (56.4%)でした。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/daietto/index.html
(関連情報)
消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/other/caution_001/
農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/kaishu.html
内閣官房
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/benikouji/dai1/gijiyousi.pdf

3 機能性表示食品を巡る検討会

 消費者庁では小林製薬の紅麹原料を含む機能性表示食品において健康被害が生じているため、機能性表示制度の今後の在り方を検討しています。機能性表示食品について、健康被害報告、製造及び品質管理等について議論が行われており、5月末までに今後の方向性を取りまとめる予定です。
https://www.caa.go.jp/notice/other/caution_001/review_meeting_001

4 厚生労働省から都道府県等に発出された監視指導等に関する主な通知(令和6年3月、4月)

(1)「公衆衛生業務に携わる獣医師の状況調査について(結果)(獣医師の有効活用及び確保に関する取組)」(3月27日付食品監視安全課長から都道府県市区主管部局長あて通知)

 地方分権改革に関する提案「と畜場法第 14 条に規定され る検査の一部簡略化に関する提案」に関連したと畜検査におけるIOTや補助者の活用状況、精密検査における獣医師以外の者の従事状況、公衆衛生獣医師確保の取り組み等の都道府県市における現状をとりまとめ、今後の公衆衛生獣医師の有効活用のための参考情報として提供されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/001236792.pdf

(2)「令和5年度野生鳥獣肉の衛生管理等に関する実態調査の結果について」(3月27日付食品監視安全課長から都道府県市区主管部局長あて通知)

 シカやイノシシによる農作物被害の拡大により捕獲が進められるとともに、ジビエとしての利用も全国的に広まっています。食用に供される野生鳥獣肉の安全性を確保するため、平成26年に「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」(最終改正令和5年6月26日」)が定められました。
今回の実態調査の結果、ガイドラインの一部項目(処理時の消化管結紮など)の遵守状況が十分ではないことが確認され、関係事業者の指導が依頼されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/001235560.pdf

(3)「令和5年度食品、添加物等の年末一斉取締りの実施結果について」(3月27日付食品監視安全課長から都道府県市区主管部局長あて通知)

 令和5年度食品、添加物等の年末一斉取締りの結果(食品取扱施設におけるHACCPに関する指導助言の状況、大量調理施設、食肉等を取り扱う施設などの立ち入り検査の結果など)が厚生労働省ホームページに公表されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/001234486.pdf

(4)「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令及び食品衛生法施行規則の一部改正について」(3月19日付健康・生活衛生局長から都道府県知事等あて通知)

 乳等省令改正により、従来は厚生労働大臣が認めたものに限定されていた常温保存可能品について、牛乳等(牛乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳、調製液状乳及び 乳飲料)の常温保存可能品、充塡後殺菌製品に係る規格基準が設定され、その改正内容と運用上の注意等が通知されました(施行日は同日)。
https://www.mhlw.go.jp/content/001229876.pdf

(5)「高度な機能」の条件を満たす自動販売機の機種のリストについて(リストの更新)」(4月10日付食品監視安全課長から都道府県市区主管部局長あて通知)

 コップ式自動販売機等の調理の機能を有する自動販売機により食品を調理し、調理された食品を販売する営業は営業許可対象業種ですが、「容器包装に入れられず、又は容器包装で包まれない状態の食品に直接接触する部分を自動的に洗浄するための装置その他の食品衛生上の危害の発生を防止するために必要な装置を有するもの」、すなわち自動洗浄、自動乾燥、薬剤消毒など「高度な機能」を有する自動販売機を屋内に設置して行う営業は営業許可ではなく、営業届出の対象になります。「高度な機能を有する」機種のリストが更新され、通知されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000651743.pdf

5 輸入食品の検査命令の実施

 4月22日、検疫所におけるモニタリング検査の結果、中国産菜の花から基準値を超えるテブコナゾールを検出したことから、食品衛生法違反の可能性が高い品目と判断し、検査命令の対象とすることとして、検疫所に通知しました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39779.html

6 食料・農業・農村基本法の改正

 今国会に食料・農業・農村基本法の改正案が提出され、4月19日に一部修正の上、衆議院での審査を終了し、現在参議院で審議中です。
 制定からおよそ四半世紀が経過し、世界的な食料情勢の変化に伴う食料安全保障上のリスクの高まりや、地球環境問題への対応、海外の市場の拡大等、我が国の農業を取り巻く情勢が制定時には想定されなかったレベルで変化しており、改正案は、食料安全保障の確保、環境と調和のとれた食料システムの確立、農業の持続的な発展、農村の振興を柱として基本理念を見直し、関連する基本施策を見直すものです。
 なお、食品の衛生管理に関する規定(第16条(改正法案第18条※))は「食品の衛生管理及び品質管理の高度化」の例示として、「食品の製造過程の管理の高度化」が新たに規定されています。

※ 第 十 八 条
 国 は 、 食 料 の 安 全 性 の 確 保 及 び 品 質 の 改 善 を 図 る と と も に 、 消 費 者 の 合 理 的 な 選 択 に 資 す る た め 、 食 品 の 製 造 過 程 の 管 理 の 高 度 化 そ の 他 の 食 品 の 衛 生 管 理 及 び 品 質 管 理 の 高 度 化 、 食 品 の 表 示 の 適 正 化 そ の 他 必 要 な 施 策 を 講 ず る も の と す る 。

https://www.maff.go.jp/j/law/bill/213/index.html

(解説)令和5年の食中毒発生状況
1 概要
 令和5年に発生した食中毒は、事件数1,021件、患者数1万1,803人、死亡者4人で、令和4年と比較すると、事件数では6%増、患者数では72%増となりました。こうした増加は、前年に比べて飲食店での食中毒事件が事件数では380件から489件に、患者数で3,106人から6,527人に増加したほか、前年には発生がなかった患者数500人以上の大規模食中毒事例が2件発生したことが主な要因になっています。
 病因物質についても飲食店や集団給食施設で多発するカンピロバクターやノロウイルスによる食中毒が大幅に増加しました。生や加熱不十分な鶏肉を原因とするカンピロバクター食中毒については事件数で185件から211件、患者数で822人から2,089人に、ウイルス感染した従事者からの食品汚染が原因となるノロウイルス食中毒については事件数で63件から164件、患者数で2,175人から5,502人に増加しました。
 患者数500名以上の2件の大規模食中毒事件は、8月に石川県で発生した湧き水を使用した流しそうめんによるカンピロバクター食中毒と9月に八戸市の事業者が製造した弁当による黄色ぶどう球菌とセレウスによる食中毒(後出)でした。
 こうした傾向は令和5年5月から新型コロナウイルス感染症の感染症法上、5類感染症とされ、3年余り続いた感染症法に基づく検査陽性者や濃厚接触者の外出自粛などの感染対策が個人の選択、自主的な取り組みとされたため、外出や外食の機会が大幅に増加したことによるものです。
 また、4人の死亡者は、栃木県の高齢者施設で発生したロタウイルス、福岡市の飲食店で発生した病原性大腸菌、和歌山県の仕出屋で発生したサルモネラ食中毒、北海道の家庭内で発生したドクツルタケの誤食によるもので、いずれも70歳以上の高齢者でした。
 なお、サバ、アジ、サンマ、カツオなどの生食により発生するアニサキス食中毒は年間を通じて発生が報告されている一方、3月から12月は細菌性食中毒が多発、1~3月、11月、12月はノロウイルスによる食中毒が多く、4月、5月、9月、10月には野草やきのこの植物性自然毒による食中毒が発生しており、こうした傾向は従来と同様でした。

2 注目される食中毒事例
 令和5年に発生した食中毒事例のうち、2月に開催された薬事・食品衛生審議会食中毒部会で報告された3事例の概要は以下のとおりです。
(1)和歌山県で発生した弁当によるサルモネラ・エンテリティディス食中毒事例
 令和5年8月、和歌山県で発生した9グループ384名が喫食、5歳から86歳の計117人の有症者、うち1人が死亡した事例です。症状は下痢、腹痛、発熱などで、検便によりサルモネラ・エンテリティディスが原因と判明し、原因食品については、8月19日、20日に白浜町の仕出し・弁当製造施設で調理された弁当と推定されました。弁当に使用された「鶏肉胸肉焼」や「出汁巻き」が疑われ、特に「出汁巻き」は18日の夕方に液卵を調整、19日0時頃から焼成、放冷後に弁当箱に詰め、冷蔵庫に保管、さらに余った液卵は20日にも使用しており、加熱不足や調理場への長時間保管が原因ではないかとされています。特にこの2日間は通常400食程度受注しているところ約800食を提供しており、過剰受注が背景にあるとされました。
(2)全国チェーン店で発生した腸管出血性大腸菌による食中毒事例
 山口県、大分市、鹿児島県の全国チェーンの飲食店で10月に9人の腸管出血性大腸菌O157:H7患者発生が確認されました。当初、散発事例とみられましたが、DNAパターンが一致し、疫学情報から関連する食中毒と判明しました。店舗では冷凍生ハンバーグを解凍、電子レンジで加熱、その後に片面を数十秒加熱したのち、鉄板に乗せ、客に提供していました。事業者は客による加熱を含めて、中心部が75℃で1分間以上の加熱を担保しているとしていましたが、確実な加熱は難しく、O157 に汚染された原料ロットが加熱不十分で喫食された事例とされました。事件後、事業者は提供前の調理段階での加熱時間を延ばし、中心温度75℃1分間以上の加熱を行うよう改善しました。
(3)八戸市内で製造された駅弁を原因とした食中毒事例
 令和5年に発生した2件の大規模・広域食中毒のひとつで、29都道府県で患者554人が報告されました。八戸市保健所は、患者便と当該施設が製造した弁当(未開封)から黄色ブドウ球菌とセレウス菌を分離し、共通食が当該施設で製造した弁当に限られ、潜伏期間、症状などが黄色ブドウ球菌やセレウス菌食中毒と一致したため、市内の弁当・そうざい製造施設で9月15日と16日に製造された弁当による黄色ブドウ球菌(エンテロトキシンA型)と、セレウス菌(下痢毒産生)を原因とする食中毒としました。
 当該施設では平時であれば1日約6,000食を製造していますが、10月から3月はスーパー・百貨店などの駅弁フェアがあるときは1日に約2万食を製造し、米飯を委託製造にしていました。食中毒発生時も委託製造の米飯を使用しており、温度管理や搬入後の管理に不備があったとしました。

3 コメント
 昨年5月に新型コロナウイルス感染症が5類とされ、人々の生活と同様、食中毒の発生もコロナ前の水準に戻りました。また、昨今の労働力不足は食品関連業界に大きく影響しています。和歌山県事例や青森県事例に限らず、過剰受注が衛生管理の不備を助長することは従前から指摘されており、過剰受注を避けることが最も重要とされてきましたが、現場では対応が難しいケースも想定されます。この労働力不足は今後も継続することから過剰受注とならないように、委託する場合には委託先の衛生管理状況の十分な確認を行うほか、既成の加工食品の活用をはじめ、食中毒リスクの低いメニューへの変更など複層的な対策を検討する必要があるでしょう。
 また、八戸市の事例は、黄色ブドウ球菌やセレウス菌による米飯が原因とされた食中毒とされました。委託米飯は広く行われており、関係業界の関心も高いのですが、汚染源、汚染経路、発生メカニズムなどが詳しく判明すれば再発防止に有用な情報となったのではないかと考えています。